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第九話

 怜利の家の門前で、門番と見慣れない白い髪の地面に着いちゃいそうなくらいのロングポニーをした女の子が小競り合いを起こしていた。

「私はここの当主、怜利って人に会いに来たんです、分かりますか?」

そう聞こえた。

 可愛い子の前に立って、落ち着いて話を聞いてみる。思ったよりも目が丸くて可愛かった。

「どうしたん?あんた誰?」

誰だこいつ、みたいな顔をしてこっちを見てくる。

「私は八神 悠希です。東北八神の別当してます。でも貴方こそ誰なんですか?」

私には誰だか分からなかった。軽く自己紹介をして、屋敷の中に入れてあげた。途中で長いポニーテールを解いて、長い髪をたなびかせていた。


 庭へ出る方法を知っているのだろうか、私より早く屋敷の中を歩いて行った。妙に足音のしない子だなと不思議に思った。


 開けた襖の中の小物家具部屋がとても荒れていた。段ボールがぶっ飛んでいた。

思わず、ぎゃあと声を出してしまった。

「あれ、ここ片付けしますか?」

気を利かせてくれたのだか言ってくれたが、夜中にやることではない。明日やろう。

 と思ったが。もう明日はここにいれないのだった。

「大丈夫!またあとでやろうかなー」

「そうですか?じゃあ失礼します。」

悠希は、水を浮かべて、その上に乗った。荷物に足を乗せないようにしてくれた。

 それを見たところで、私は為す術なく襖を蹴破る。

「大丈夫なんですか?その、障子?」

「あ、襖?いいのいいの、どうせ明日からここには誰もいないから」

そう言うと、そうなんですね、と返事が返ってくるだけだった。本当静かで不思議な子だった。


 そこからほぼ無言で歩いて行った。庭に出ると、やっと悠希が口を開いた。

「あの、怜利くんどこだかわかりますか?わたし、ちゃんと場所知らなくて…」

きゅるるんとした目がめちゃくちゃかわいかった。それはそうと、この子は八神姓で、怜利に用とはなにかあったのだろうか。八神を名乗る人がうちの屋敷に来るのは私が知ってる中では初めてだった。

「いいよ、行こう!あいつはね、いつも離れの研究棟ってとこに居るよ。」

 そう言って連れて行った。そこに着くなり悠希が

「ここは、」

と呟く。

「ここが怜利の研究棟。お豆腐みたいだよね。」

無反応で研究棟のドアを開けに行った。扉を開けるや否や、驚くほど中を見始めた悠希さん。


 「こんにちは」

二階からは、ガタガタと動く音しかしない。少し経っても、全く返事がない。やっぱりトレーニング中なのだろうか。

「あのね、悠希さん、あいつね、集中してると他の声聞こえないから、おっきい声で呼ばなきゃダメなんだよ。怜利!お客さん!」

一瞬の無音のあと、落ちるような重い音が床に響いた。この匂いは、既に幸璃も来ているのだろう。

「あ、成羅ごめん~」

と穏やかそうな声で梯子を下りてきた。珍しく息を切らしている。普段着なかった任務用の衣を着ていた。振り向いた瞬間、柔らかな表情が変わって、冷え切った顔になった。

「あら?悠希さんでは?こんばんは。」

悠希さんは頭を下げた。

「怜ちゃんのおかげで立て直しが出来ました。」

少し口元が緩みながら、頷くように下を向いて、悠希さんに天窓から入る蒼白い月明かりを受けて、輝く何かを投げた。

「用はそれだけかな?」

悠希さんは腰に白く綺麗な刀を差した。柄に数珠が巻き付いていた。

「あの、怜ちゃんたちは、将さんに任務貰ったんですか?」

この子にも話が来たのか。かなり強いのだろうか。そんな気はしなかったけど。


 悠希さんの話を聞く限り、東北の方には悠希さんくらいしか強い術者がいないから、当主である怜利に助けを求めたという事らしい。

声の調子がずっと平坦だからか、感情が読み取りにくかった。

 ただ匂いが、本気で助けを求めるような強い感情ではなかった。怜利もそれが分かっているのだろうか。話を聞きながらずっと黙っていた。

悠希さんの小さい声が研究棟の中に小さく鳴っていた。二階からはサンドバックに当たる拳の音と揺れる鎖の金属音が鳴っていた。


 長い話の後、ようやく怜利が口を開く。

「あの、一緒に東北行こうって話で合ってます?」

「合ってます、合ってます。すみません語彙力無くて。」

こいつら何歳だよ。お互い親戚のくせにこんなに硬いものなのかな。仲の悪い親戚のおじさんおばさんが話してるようで気持ちが悪かった。

「いえいえ。」

 怜利は硬い椅子から立ち上がった。

「では行きましょうか、悠希さんが付いて来てくださるならこちらも心強いです。」

私の方を向いて来て、怜利は腕を伸ばして『神通力』で玄関の靴箱の上に置いてあった、リュックを私の手元まで引き寄せてくれた。

「幸璃と一緒に持ち物確認しててね~。屋敷に皆の分の呪具取ってくる。」

怜利が玄関のほうに歩いて行って、靴を履く。扉から出た瞬間怜利の気配は感じられなくなった。相変わらず走るのが速すぎる。

 投げてきたパンパンの大きなバックを悠希さんと漁り始める。中にあったものを取り出し始めると驚くことに、ほとんどがふかふかの分厚い寝袋で占められていた。その他は、任務で貸与される標準装備と呼ばれるものばかりだった。

 しばらくして、汗だらけの幸璃が階段から降りてきた。


 怜利が戻ってくると私と幸璃に呪具を渡してきた。

私には小さな鎌のキーホルダー。幸璃には勾玉のついた腕輪。どうやら戦闘スタイルに合わせて準備してくれたらしい。私が槍使ってたこと覚えていたのかな。

 怜利の掌の中にはあと三つ握られていた。


 悠希さんと幸璃がバッグに物を詰めている様子を見ながら、怜利が新品の水筒をくれた。温かいものも入るみたいで、嬉しかった。

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