表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

よろしくて? 校内新聞で暴露しますが

9/28 日刊ランキングで13位になりました。

ポイントありがとうございまっす!


「婚約を解消ですか?」

 わたくしの目の前では婚約者のクラック様が、学年一の美少女と腕を組み申し訳なさそうなお顔をされています。


 ここは校内の中庭。人目もあるのに別れ話を聞かされるなんて。


 わたくしたちが家の都合で婚約してからまだ三か月くらいかしら?

 そこまで親密になってはいませんでしたが、ショックはショックね。


「ごめんなさいアーティカ様」

 ペトレル家の令嬢は瞳に涙を浮かべています。

「わたくしが彼を愛してしまったばっかりに」


 クラック様は美少女をそっと抱き寄せます。夢を見ているような瞳で彼女を見つめて。

「きっとこれが運命なんだ。アーティカも分かってくれるさ」


 ペトレル嬢はクラック様を見上げる時は悲し気に、こちらを見る時は満足げにニヤニヤします。


 わたくしは目の前で繰り広げられる三文芝居に飽きてきました。


「条件さえ飲んでいただけたら受け入れますわ」

 さっさとこの茶番を終わらせなくては。


 もう考えはまとまっているのですから。



「慰謝料かい?」

「いえ‥ ことの顛末を校内新聞に載せていただきたいの」


 美少女は息を飲みました。


 わたくしたちの学校にはいろいろなクラブがあり、新聞部もその一つですの。

 月に一度、学校からのお知らせと学内ニュースを載せた新聞は玄関ホールに飾られます。

 壁新聞とも呼ばれますわね。


「もちろん記事の正確性のため、掲示前にあなた方とわたくしで最終チェックをいたします」



「まあ僕たちにやましいことは何もないが」

 首をかしげる婚約者に対し、ペトレル嬢は大反対です。

「そんな、皆様に知られてしまうなんて恥ずかしいわ」


 それはそうでしょう。

 自分の恋愛事情をつまびらかにするのはわたくしだって嫌。


「でしたらそちら有責で破棄にいたします。もちろんその場合慰謝料が莫大になるだけですけど」


 こう言えばお二人は受け入れてくれるかしら。


 ヴェッセル伯爵家は被る被害が大きすぎますしペトレル侯爵令嬢にしても避けたいのでしょうが、それでも渋っています。


 まあお気持ちは分かりますわ。


「ひどいわアーティカ様、わたくしたちが真実の愛で結ばれているのがねたましいのね。だからさらし者にしたいのよ」

「君がそんな人間だと思わなかった」


 クラック様を味方にしてうやむやにするつもりね。



「あら、婚約者を奪われたわたくしの、いささかな反撃も許されないのですね。このままではわたくしに問題があるから、クラック様の心が離れたと噂されてしまいますわ」

 わたくしはため息をついて見せます。


「フフ、その分も慰謝料に上乗せいたしませんと。そうそう我が家とヴェッセル家の業務提携は白紙に戻るので、クラック様は伯爵家の跡取りから外されるかもしれませんわね」


 おや、二人の顔色が急速に悪化いたしましたわ。

 考えていなかったのかしら? 企業同士の契約を色恋沙汰で破綻させるのに。



「もちろんペトレル家にも慰謝料を請求いたしますわ」


「ど、どうしたらいいの」

 ペトレル嬢は真っ青。



(ちょっとかわいそうだったかしら)


 なので対案も出して差し上げましょう。

「近日中にお二人が別れるのでしたら、婚約解消のお話は忘れてあげましてよ」


「え、え、よろしいの?」

 ペトレル嬢は飛びついたみたい。


「そんな、僕たちが別れるなんて」

 隣のクラック様がショックを受けていますわよ。

 真実の愛のお相手が簡単に受け入れるとは思っていないのでしょうね。


「もしわたくしを謀ってお二人の仲が続きましたら、慰謝料請求と校内新聞への暴露、両方を覚悟なさってね?」

 自分史上最高にあざとくほほ笑んでみます。


「一週間、待って差し上げますわ。しっかりお考えになって下さいまし」

 わたくしは優雅にその場を立ち去りました。



 ***



「アーティカ嬢、すまなかった」

 クラック様がわたくしに頭を下げています。



 今日は休日。場所は我が家の応接間ですの。


「君のことを好ましく思っていたはずなのに‥ 今の僕は彼女無しでは生きていけない」


 あの後二人で話し合ったさい、ペトレル嬢は分かれるフリを提案してきたそうです。


「誠実に対応してくれた君にそんなことはできない。だから」

 そして深くため息をつきました。


「校内新聞の話、受け入れる」



 クラック様いわく、ペトレル嬢には話をしても秘密の交際を主張されるだけなので彼の独断ですって。

「せめて、僕が彼女の不名誉を回避するため記事をチェックする」


 彼の夢見る瞳に、覚悟が混ざりました。


 別にわたくしとしては最初の提案が通っただけなので、素直にうなずきます。

「ではお父様を説得しだい、ご連絡いたしますわ」




「で、で、我が校内新聞に、婚約解消の経緯をお話しいただけると!」

 新聞部の部員たちに話を通すと、それはそれは盛り上がってくれました。


「ええ、条件はわたくしたちが記事の最終チェックをして、真実のみを記すことですわ!」


 放課後の教室で、わたくしと元婚約者様はこれまでの経緯をつまびらかにお話いたしました。


 クラック様とペトレル嬢の出会いとか逢瀬とか、わたくしも知らない話が聞けて結構楽しめましたの。



 ***



 そして一週間後。


 学園の玄関ホールにはいつにない人だかりが。


 みなさん大さわぎしながら壁の新聞を読んでいますわ。

 わたくしは昨日の内にもう読んでいますので、教室にゆっくり向かいます。


『ヴェッセル伯爵令息、婚約を解消! 選んだのは真実の愛!』


 記事には泣いていた令嬢を元婚約者がなぐさめたことから二人が出会い、彼が図書館で本を探していた時に偶然彼女の指とふれあったりしたことが書かれています。


 そしてその令嬢が『まるで運命みたい』とほほ笑んだ瞬間、伯爵令息のハートが撃ち抜かれたのです!

二人が真に愛し合っていることを知った婚約者の令嬢が祝福と共に身を退いたのですって。


『悪いのは心変わりをした僕だ。美しく聡明な婚約者がいながら、それでも恋に落ちてしまった』

 クラック様のインタビューは多少盛ってありますが、わたくしへの悪評を減らそうとした努力は認めますわ。




「何でこんなことをしたのよ!」

 ペトレル嬢がどなりながらわたくしの教室に入って来られました。怒りの表情を隠そうともしていません。


「これはヴェッセル子息と相談の上決めたことですわ。お二人とも末永くお幸せに」


「ふざけないでよ、私情を周りに広めて恥ずかしくないの! 侯爵家から抗議させていただきますわ!」


 確かに実名を出したのはクラック様だけですけど、わたくしとペトレル嬢のことを書いているのは明らかですもの。


 しかしわたくしはニヤリとしてしまいました。

「それは難しゅうございますわ。だってペトレル様が不利にならないよう、徹底的に美談に仕立てたのですから」


 お父上に訴えても取り合ってはもらえないでしょうね。



「あんたは婚約者を奪われた惨めな女をやっていればいいのに!」


 あら、ペトレル嬢のお口から本心が漏れてしまったようよ。

 教室にはもうずいぶん人が集まっていると言うのに。


 クラック様とか。



 わたくしが教室を見回したことにより、ペトレル嬢も失態に気がついたようね。

 そそくさとご自分の教室に向われたわ。



 ***



 一か月後と少し経ったある日の午後。

 我が家の庭園でクラック様がうなだれております。



「僕が愚かでした‥」


 丸い小さなテーブルを、二人で囲んでおりますの。

 もう婚約者ではないから、口調も丁寧ね。



 あの後、真実の愛で祝福されたはずのお二人はすぐに破局いたしました。


 クラック様がペトレル嬢をヴェッセル邸に招いたところ、伯爵がおっしゃったんですって。

「構わないが、その場合は家督を渡さない。良いな」


 クラック様は覚悟の上だったようですがペトレル嬢には受け入れられないようで、その日のうちに別れを切り出してきたそうよ。


「判断がお早いことで」

「僕のような地味な男は好みじゃないと言われて目が覚めました。彼女が欲しかったのは伯爵夫人の肩書だけだったようで‥」

「良かったのではなくて? 騙されていたことに早々にお気づきになられて」


 わたくしはお茶菓子を口に入れます。

 甘味が脳を癒しますわ。



「しかしまさか彼女があんな醜聞まみれだったとは。気がつかなかったのは僕の失態です‥」




 ペトレル嬢は恋人のいる殿方に愛想を振りまき、婚約を何組も破綻させていました。


 彼女は他人の恋人を奪うだけでなく傷ついた令嬢を見て優越感に浸るのがお好きな方だったのです。



 今まで大問題にならなかったのは侯爵家が口止めしていたから。

 わたくしもお友達が被害に遭って初めて知りえたことですの。


 

 友人が傷ついて泣いている姿を見たわたくしは、すぐ噂を集め始めました。 

 その段階で友人の元婚約者はもうすでにペトレル嬢から捨てられていたのです。


「興味がなくなったからっていきなり‥ 侯爵家から慰謝料は渡されたけど、これからボクはどうしたらいいんだよ」

 大切な友人を捨てた男の行く末など興味ありませんが、被害が連続しているのは問題です。



 そして自分が当事者だったらどう一矢報いるか作戦を練っていたタイミングだったのですわ、中庭に呼び出された時は。



 校内新聞は、わたくしの思った以上の成果をあげました。

 わたくしの記事をきっかけにして、他の醜聞まで暴露されることになったのですから。



 もちろんゴシップ記事に学校側が許可を出すわけありません。

(第一陣は当事者のわたくしたちが乗り気だったことと美談に仕立てたことからギリギリ許可が下りたようですわ)


 しかし味をしめた新聞部が、こっそり許可なく売り出したのです!



『偽りだった真実の愛! 捨て去られた令息!』

『件の令嬢、男爵家子爵家の令息を次々と略奪!』


 印刷所で大量に刷られた新聞は、それなりのお値段でしたが完売したそうです。


 みなさん匿名での発表ですが‥ 校内の話ですし『件の令嬢』がどなたかはすぐ知れ渡ってしまったのね。



 侯爵家からは一度学校にクレームがあったそうで、新聞部の部長は一週間の停学になりました。


 それでも「新ネタがあったら教えて欲しい」とせがまれたのですから、校内新聞の人気は天井知らずのようですわ。



 わたくしとしてはこれ以上令息が毒牙にかからないように、ペトレル嬢の『運命』や『真実の愛』がどれだけ軽いかを皆様に知っていただきたかっただけですのに。


 積み重ねられた恨みは恐ろしいものね。



 ***



「貴方には本当に迷惑をかけ傷つけてしまいました。それで、これは本当に自分勝手な願いで申し訳ないのですが」


 クラック様のお顔が真っ赤になります。


「また私と婚約してくれませんか」


 わたくしは目を丸くしました。



「それは何と申しますか面の皮がお厚い? でしたっけ」

「恥知らずなのは百も承知です。だがアーティカ嬢、貴方のことは本当に好ましく思っていまして‥ その、頼む」



 わたくしは砂糖菓子を口につめこみました。

 判断が追いつきませんもの。


(でもちょっとドキドキするのはなぜかしら)



 とりあえず、今日の所はクラック様にお引き取りをいただきます。




 数日後、以前より我が家に都合の良い条件で、婚約を結び直すことが決まりました。


 両家が集まった話し合いで、わたくしは再びクラック様の手を取ります。



「ありがとう。愚かな僕を許してくれて。嫌いにならないでくれて」

「ふふ、別にそこまで好きじゃなかったのが良かったのかしらね」


 クラック様の笑顔が引き締まります。

「今度こそ、君との仲を深めて見せる」


 お父様に「次はない」と睨まれて震えるクラック様ですが、それでも今の彼はフワフワした部分が減って、たくましく見えますわ。


「賢い人とは自らの愚かさを知っている方ですし」


 彼の瞳を見てほほ笑みたかったのに、恥ずかしくなってしまいます。



 もしかして恋をしてしまったのかしら? わたくし。

 そうなのでしたら‥ 次の浮気は許せませんわね、きっと。


 主人公たちも元サヤのせいでかなり噂が飛び交う羽目になりますが、


 テーマは肉を切らせて骨を断つ、なので多少の中傷くらいアーティカは覚悟の上です。



 このサイトでは元サヤが少ないので書いてみました。

 元々愛していないから傷が最小限なことと相手が精神的に成長した事と、家が決めたわけじゃなく本人がきちんと口説いたことからやっと収まりました。 (-_-;)


 つまり浮気した男性を許すのって至難の業なのですね! (*^▽^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まぁ下手に新しい婚約者を探すより良いかもしれませんね。 そうそう絶対に浮気しない都合の良い令息が落ちてるとも思えませんし。 前よりいい条件で婚約してしっかり手綱を握ったので。
元鞘は無いな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ