41話 テサロニケ│4:16─17
「だ、誰…?」
「それは此方の台詞だアスモデウスよ、この角付きは一体誰だ?見たところあの海の獣とは思えないが…」
召喚されたヴァイラに本人含めその場の全員が困惑する
「え…なに?ここどこ…?」
「…私の記憶だとこのような幼子ではなかった筈だが…」
「ね、ねぇそこの角付いてる子…」
座り込み辺りを見回すヴァイラにアスモデウスは歩み寄る…
「あなた…名前は?」
「ヴァイラ…」
「ほんとに誰よ…いやまぁそれはあなたも同じだけど…」
アスモデウスとイスカリオテは矛を収め一時休戦、落ち着いて話をヴァイラとすることに…
「…で、竜の祖先である海の獣を呼び出す時に現世に引っ張られた意識体があんたの体に入って…」
「そのまま依り代ごとここに召喚された、と?」
「そうなる…としか考えられない。」
「あ、あの…わたしは一体どうすれば…」
イスカリオテはヴァイラの体を隅々となめ回すように吟味する
「…変態」
「うるさい!…だが、一応はあいつが入っているな、能力も残っている…」
「…つまり?」
「貴公も分かっているのでは?」
緩んだ空気は引き締まり、重圧感が漂う。
「急性心不全」
「保身・iscariot demonade.」
両者の戦闘の合図が重なり、血が滴る音が一つ…
「…知識で負けたな、病気…!」
「ごぶっ…」
その実イスカリオテには臓器という臓器が存在しなく、急性心不全の能力は通じなかった
保身の能力は不可視の壁を作る物…それを鋭く鈍く加工しそれがアスモデウスの首に刺さる…
「膠原びょ…」
「epektasi.」
それは空気を押し退け拡大、アスモデウスの脊椎と神経を切ろうとしていた
戦闘時間約4.8秒、決着は角の影により阻害される
「だめー!」
ヴァイラはイスカリオテを蹴飛ばし、アスモデウスに刺さる保身の能力を取り除こうとする
「あんた…なにやっで…」
「よくわかんないけどきっとあののっぽの人悪い人だよね!?わたし悪いことはだめって教わったの!」
「いいから…離れてよ…!私首切り落とされても動けるの!」
「だめ!痛いのはだめなの!」
「あんた…っ危ない!」
直後、ヴァイラの角は根元を残し血を吹きながら飛ばされる
「ふん、依り代に随分と面倒な者をよこしたなタンよ…」
「っ痛いのは我慢するから…!あんた戦える!?」
「っはーっ…」
竜人の角は層になっており古い物は脱皮等で排除される…
しかし中心部は骨で出来ており勿論これにも神経が通っている、そして頭に近い…つまり…
「ぁ…ぎゅ…」
息すらままならない程の激痛…意識を失っては痛みで起き、痛みで気絶する…そんな状態にヴァイラは陥る
「っそこで寝てて!」
「幼子にうつつを抜かすとは貴公も堕ちた物だ」
ヴァイラを投げ飛ばした隙をイスカリオテが逃すはずもなく数百…数千の保身の能力がアスモデウスを襲う
「ふっ…ぐっ…!筋萎縮性側索硬化症!」
「くく…私も人間のことは少し知っている…そのような進行性疾患でのそのそと私と戦っていられるとでも?」
「言語両断、神と…たたかっ…て…」
イスカリオテはふらつき、目線が合わなくなる
「なんだ、これ…は…?」
「頃合いだと思ってた…あんたに80年も昔に掛けた遅発性精神病…!」
アスモデウスは呑み込んだ裏切りの舌を吸収し、己が力としていた…完全には吸収出来ておらず、少しの不死性と姿を間違って見せる程度であったが…
戦況は目まぐるしく変わり続け、劣勢からの優勢、落ちぶれ舞い上がる…
「あんたの脳にずぅ~っと…仕込んでた私の芽が!今開いた!」
「へ、へび…たすけ…」
「やだよ~だ、イスちゃんの苦しんでる顔おもしろいもん~…」
外部に助けを呼ぶことは不可能、これはアスモデウスとイスカリオテ…一対一の戦いである。
「私とて元はヒト…見せてやろう…醜い執念を!」
「あんたを視界に入れる前に殺してやる…!」
追い詰められた獣は時に絶大な力を発揮する…
「海の獣よ!目覚めろ…!」
ヴァイラに飛び移り角をその歯で噛むイスカリオテは正にそれであった
「汚い真似を…」
「何とでも言うが良い!私は不信!神を冒涜し悪魔を増やすイスカリオテ!」
「えぅ…」
アスモデウスが近寄る寸前…ヴァイラの角は光り、新たな角が禍々しい魔力を生じながら現れる…
たった一人の竜人から出でる七つの頭は終焉のファンファーレを鳴らす…




