40話 大海の鯨は竜?
「人を辞め、悪魔に堕ちてまで姉妹を救うか…」
「そう仕向けたのはあんたでしょ。」
両者は距離を詰め、互いの一挙手一投足に目を移す
「無論、盗っ人の精神を操り教会の人間を殺し回っていたあの時は懐かしいな?」
「やーい性悪ー」
「蛇…お前は手を動かせ…」
真っ直ぐにイスカリオテを見つめるアスモデウスの目は歪み、震えを始める
「ワープ…空間と歪曲の悪魔、歪んだ世界を自分に合わせる為の能力…」
「ベルゼアブ…ハエと死の悪魔、自身の業により人を死なせた者は何回死んでも冥界へ行けない呪いを背負う能力。」
「なぜ私達が死を越え現世に縛り付けられたのか…」
「私が情をくれてやったからだ、破滅でな…」
両者の額に焼け跡のような傷が浮き、その業を晒す
「七つの頭、十つの角。」
「熊の足、獅子の口。」
イスカリオテとアスモデウスは共に唱える
「神を冒涜し迫害。」
「力と権威により人を扇動、不信…」
「「海から這い出よ、全ての竜の祖先…」」
「「背教の祈りに応えよ、タン・ニーン…!」」
二人は額を合わせ、海の獣を現世に呼び出す…
「あんたは破滅の能力を使って人を滅ぼしたい」
「貴公は姉妹を現世から解放したい…」
神は一日目に世を光と闇に分けた、その闇に潜み人を襲う怪物…
「私はあんたの血を分けた…分けられた元人間。」
「あんたの破滅の権能…地、海、空…全てを破滅に導く竜を召喚する…」
「だがそれは一人では使えない…血を分けた貴公が居なければな…」
審判の日を免れ生き延び、自己を複製し後世に甚大なる被害を出した竜の祖先が今、権限する。
「うわっぷ!」
渦巻く光の中より現れたのは…
「え、角付き…なんで…」
「…誰だ?」
ヴァイラだった。
~少し前~
「グリドールさん…!か、加勢しに行く…!」
「待って角付きちゃん、彼は大丈夫そうよ…だってあの魔王と対面して笑ってる…」
「わたシ達は下ノリオハに加勢すル、分カッたか?」
グリドールが魔王を外へ連れ出した時、ヴァイラ達は第一大隊の側に居た。
「で、でもこの人達は…!」
「オい、耳長起きロ。」
「んばっ…!あ、ヴァイラちゃんおはようございます?」
「お前、あいツラ治せ、元ニ戻っタらコレを通れ」
ワープはルナフェナを一人残し王宮地下へのゲートを開ける
「あの…」
「なンダ。」
「加勢する前に…行きたいところがあって…」
ワープ達と別れ、ヴァイラが所望し所は…
「し、失礼します~…」
「…」
明かりの着いていない静かな執務室であった
「あの…大丈夫ですか?えと…トリスさん…?」
「…どっちだい?」
刀をグリドールに奪われ廃人のように座るトリスは掠れて今にも消えそうな声で返事をする
「…わたしはわたしだよ。」
「そう…どうしてここに来たの?」
「あ、あのね?その…わたしのお母さんについての話なんだけどね?」
ヴァイラはトリスの手を掴み自身の角へ触れさせる
「これ…分かりますか?」
「…!これは…」
「わたしにもよく分からないから…知ってそうなあなたに聞きたくて…」
赤くなったヴァイラの角をトリスは撫でる
「あっもう触っちゃだめ!だめ…っふ!?」
「…」
トリスはヴァイラを抱き寄せ角の匂いを嗅ぐ
「すー…あいつと同じ匂いだ…」
「うぅ…」
「あぁ…少し危険だね、きみを誘拐したあの時の不完全な剥離が今来てる…ちゃんと寝れてる?魔力は使った?ご飯は?」
「えっあっあの…」
質問攻めに次ぐトリスのエルフ特有のヒノキのような匂いがヴァイラの鼻腔を襲う
「あの儀はね、君を極限状態にすることによって母親の生存本能を呼び起こす物なんだ、ちょっと難しいかな?」
「そしてそれが中途半端になると母親の意識が少し残る…体はそれに混乱して異常をきたすんだ」
「んぶっ…こ、このままだとどうなるんでふか…」
胸にうずめた顔を上げヴァイラは質問をする
「最悪きみの人格が消える…そして体は母親に乗っ取られ完全に竜となる、だね。」
「ひぇ…ど、どうすれば…」
「本当はもっと時間とか場所を考えないといけないんだけど…応急処置はしておくよ、おいで。」
トリスは弱々しく立ち上がり机の上に魔方陣を書き始める
「母親のルーツを辿って…血の濃い者を…」
「あ、あの今から何を…?」
「きみの祖先の意識体を間に入らせて中和させる、難しいから理解しようとしなくていいよ」
どこからか取り出した容器をヴァイラの前に差し出す
「へ…これは…?」
「唾液、ここに入れて。」
「え…いやです!絶対いや!」
「…なら無理矢理入れさせるよ」
そして…
「ぐぐぐ…えったいにやです!」
「ほら口開けて…!そうしないときみの人格消えちゃうよ…!」
口を掴み唾液を入れようとするトリス、それを拒否し抵抗するヴァイラの声が執務室に響く
「あっやべ」
力加減を間違えトリスはヴァイラ口を切り血を出させる
「んへ…?」
…気付くとヴァイラはアスモデウスとイスカリオテの決闘の場に召喚されていた。




