37話 争いの側で
「ああもう!取ってこい!」
「わぅーん…」
杖を放り投げマリアッチはそれを追いかけ去っていく…
「実に腹痛、面白いものを見せてもらったぞ…」
「見せ物じゃねんだよ…」
ため息を吐くグリドールの耳に聞き覚えのある声が響く…
グリドール君、動揺せずに聞いてくれ、声は出すな。
(っ!?この声…リオハさん?何で…)
今君の鼓膜付近にワープ君のゲートを開け話している、私とスリーフ君そして悪魔達は王宮地下に居る。
現在イスカリオテと交戦中、少々面倒な事になっている…どうやら協力者が居るようだ、君の言っていた蛇とやらだろう
「ぬははっくく…獣人が…人の姿を捨て獣還り…自身でしたことだが笑い死にそうだ…」
魔王は笑い、グリドールは水面下でリオハの話を聞く…
その蛇がしている事…かなりとんでもなさそうだ、あの浮かぶ月を呼び寄せ大陸ごと生命を根絶するとのことだ。
(マジかよ…手早くやんねぇと…!)
制限時間はおおよそ数時間、聞き出せた情報が少ない、すまない…もう切るよ。
(OKリオハさん…任せてくれ!)
「見ろドワーフよ!あの醜態を晒す獣人を!知性が!理性があるとは思えぬ四足での歩行!」
「てめぇさっきからうっせぇんだよ、マリアッチの事バカにしやがって…大体お前魔物だろ!」
「はっ!知性が無いのは汝の方であったか!余は魔物ながら聡明なる理性を持つ完璧生物!興が乗ってきた、そろそろ終幕としよう…」
風は魔王に吹き、地は蠢きその大地の全てが悪しき魔力に侵される
「ルナフェナ、お前は逃げ…通じないか…」
「逃げるんですね?!分かりました逃げてます!」
何故かグリドールの言葉は通じそれを如何なることか聞く前にルナフェナの背中は小さくなっていった
「ルナっ…」
「友人か…ではあやつから殺してくれよう、今余はとても機嫌が良い、楽にやってやる。」
身体が灰に包まれ、際限無く膨張していく魔王の姿は正に怪物…魔流は邪な物と成り果て、体と空間を歪に湾曲させていく
「そうはさせねぇのが俺の仕事だ、仲間は誰一人殺させん。」
いばらを手に巻き付け、手首、脇腹等…所謂聖痕と呼ばれる箇所から血を流しグリドールは臨戦体勢を取る
「その姿実に忌々しい…やはり汝から殺す、余は不機嫌だ…!」
「おうおう情緒不安定だな魔王様ぁ?そうだそれでいい、俺だけを狙えよ…」
血は流れるが、痛みは感じず…いばらは伸び兵士を遠くへと避難させる
「トリス…もう少し借りるぞ。」
それに応えるように刀は輝き眼前の者を倒さんとその薄く強靭な刀身で空を切っていた…
オーロライト王国の戦火を対岸の火事としていた西側諸国、とある街にて一人の悪魔が目覚める…
~マリアッチ宅~
「んん…あたまいた…」
(あれ、私なーにやってるんだっけ…確かあの刀男にぶっ叩かれて…てか何であいつ能力効かなかったの?あー頭痛い…)
「おねーちゃ…ああそうだここには居ないんだった…」
(えっとここにはグリドールと来て…そうだ、あのもふもふを守って…あれでも皆居ない…)
「あら起きたの」
「…誰?」
アスモデウスは布団を掛けられ寝ていた
「母親?あのもふ耳の?」
「そうよ、リオハさん?っていう人から名前は聞いてるわ、貴女はアスモデウスさんね?」
「あーうんそうだけど…もう用事無いから帰るつもり…」
「駄目です!そんなに幼いのにほら!」
アスモデウスは服をたくしあげられる
「骨が見えてるじゃない!ちゃんと食べないと駄目です!ご飯用意してるから下に来なさい…」
「あいや、私ご飯食べなくてもよくて…あ。」
アスモデウスは自身の失言に気付く
「食・べ・な・さ・い…!」
「はい…」
(私百越えてるんだけどな…子供扱いされるなんて久しぶりだな…いっつも悪魔とか魔物扱いされてたし)
アスモデウスは座り目の前の大量に並べられた暖かいご飯を食す
「い、いただきます…?」
「昨日の残り物しか出せないけど、存分に食べてね?」
(…美味しい、なんだろう…味は普通なのに…)
庶民的な食事、普遍かつ素朴…芋は大きく切られ塩の効いた野菜…アスモデウスの口に運ばれる全ての食事はどこか暖かく優しい味わいであった
「どうかしら…口に合うといいのだけど…」
「あ、えと…美味しい…です。」
悪魔は娯楽の為に食事をする、生きるために栄養が必要無いためである。
…その悪魔が、今や涙を流しながらただの、装飾等無いただの食事を掻き込んでいる。
「あ、あらら…?どうしたの?」
「い、いや大丈夫です!あ、あれ何か止まんな…」
幾年ぶりの抱擁、グリドールには一方的にしていた物が今無償の愛としてアスモデウスに振り掛かる
「大丈夫よ、ゆっくり食べなさいね…」
「あぇ…はい…」
(どこか懐かしい…この感じ…)
生物はあまりにも辛い記憶を消そうとする、それは悪魔も例外なく存在する…
アスモデウスはマリアッチの母の抱擁により自身の脳が封印していた記憶を呼び覚ます…




