28話 醜い男
「後ろ、離れるなよ。」
「はっはい!」
背中を合わせいつトリスが来てもいいように構える二人、それを踏みにじるように人影は迫る
「抵抗しないでよ。」
「っ!」
声の鳴る方向に拳をやるも不発、空を切るだけであった
「僕今すっごい不機嫌なんだからさ」
「こっ来ないでっ!」
トリスの放つプレッシャーは霧のようにグリドール達の感覚を鈍らせていた
「くそっ流れが読めねぇ…」
グリドールは思い出す数日前のアルディスとの鍛練の日々を…
「魔流にだけ頼っちゃだめだよ?野生の勘に頼るとか…戦術の幅を広げるんだ」
「もし、自分が獰猛な獣なら、もし自分が魔王ならと…相手の立場になって考えるんだ」
「闇雲に攻撃をしちゃだめだ、まずしっかりと息を整えて相手の技、癖を読む…それを全て予測して相手の隙を突くんだ。」
グリドールは目を閉じ、深く息を吸う…
「すぅー…ふぅー…」
一撃目、トリスは振りかぶるようにグリドールの首を狙う
「ふっ!」
反射神経で交わすも直ぐにニ撃目が襲う、マリアッチを狙うフェイントを掛け死角からグリドールの足首を狙う
「首…足…」
グリドールは足に力を掛け衝撃を相殺、トリスは直ぐ宵闇に隠れる
三撃目、グリドールの肩、腕の関節、手首と順を追って切り刻む。
「首、足、腕…!」
グリドールは不敵な笑みを浮かべる
「ははっトリスお前…その短刀で切れる細い部位しか狙ってないな?」
「…」
「それもそうだな、腹に刀が刺さったら力を入れられて反撃を貰うもんなぁ!」
相手の癖を読み終わり、グリドールはトリス…盲人がどうやって戦闘をするかを考える…
「マリアッチ、何か匂いの強い物出せるか?」
「えっで、でも…」
「心配すんな俺が守ってやる。」
マリアッチは指示通り体内で流黄化合物を生成し始める…
しかしその間にもトリスの猛攻は続く、傷は増える一方、だがグリドールは未だ笑っており反撃の機会を伺っていた
「うぷ…できまじおぇぉぇ…」
「次は…」
鼻を潰されたがトリスはその刃をついにグリドールの首に届かせる…
「まんまと引っ掛かりやがって…戦ってて楽しいぜお前はァ!」
が、グリドールは手をトリスの耳に合わせ強烈な力で強打する…結果、一時的に聴覚を失せなわせる…
「はぐっ…」
「癖、長所を読み…隙を突く…!」
瞬間、トリスの腹部に襲い掛かる規格外の衝撃
「ふんっ!」
拳はめり込み、捻り、めきめきと唸らせる
筋肉を貫通し骨は折れ臓器にダメージを負わせられたトリスはそのまま地面に伏す
「はぁ…はぁ…これで大人しく…」
刹那、グリドールの目を見覚えのある刀が掠める
「あぶねっ!?」
その実、マリアッチが所持しているトリスの刀は彼女の胃の中にあり先程の流黄化合物を吐き出したときに一緒に排出されていた。
そして運は天にありそれが転がりトリスの手中へと収まり…
「…!ま、マリアッチ!」
横たわる血だらけのマリアッチ、まるで魔物のような醜悪な姿のトリス、初撃の傷から出血が止まらなく視界がぼやけているグリドール…
最悪な状況に至る。
「それだけじゃ…ないだろ?」
「…勿論。」
だがグリドールの闘志は燃えていた
空を切るトリスの刀は鋭い金属音を靡かせグリドールの肉を切り骨を断たんとしていた
「…いくぞ。」
両者はゆっくりと近付き…瞬時に血の霧が発生する
「ぐふっ…お、お前強くなってないか?」
「…君もね」
グリドール浅い傷を全身に付けたトリスは腹部の痛みに耐えふらついていた
「お前っ…なんでこんなことをする!」
「黙れよ…色を知ってるくせに、光を知ってるくせに…!」
「今関係無いだろっ!刀を手に入れたあと何をする気だ!」
グリドールのその言葉がトリスの逆鱗に触れた…!
「ふざけるなよっ!」
「…!?」
「みんなして僕をバカにしてたんだろ!エルフの癖に刀しか握れなくて何が悪いんだよ!母親がいないからなんだよ!目が見えないからなんなんだ!」
「僕にも心があるんだぞ…」
トリスは床に倒れ駄々をこねる子供のように涙を流しながら宛名の無い狂言を吐き続ける
「切ってやる!全部!君もヴァイラも!全部切り伏せたあと僕も死んでやる!」
「お、おいトリス…いきなりどうし…」
「うるさいっ!うるさいうるさいうるさい!もう戻れないんだよ…ヴァイラぁ…なんでいなくなっちゃんたんだよぉ…」
「…殺してやる。」
トリスの目は今までの白い色素の無い色ではなく赤く、血に染まり醜くなっていた
「見えるよ、僕の醜態がね、千年間ずっと…それだけ僕は見える。」
貧血となったグリドールに歩みを進め刀を天にやり、その首を落とさんとしていた時…
「やめて。」
その一言にトリスは刀を止める…




