8話 戦いの行方はどっちが握る
地下、魔王軍指揮官室にて、争う2人がいた。
「身体能力はないが…魔法なら使えるんだぜ…?」
「同じくっす…でもあたしにはこれがあるんで…」
取っ組み合いをしている2人は単純な腕力勝負ではなく、経験と技術のせめぎあいをしていた。
「ちょうど新しい機能追加したんすよ!」
ジャックの義手は煙を吹かせ、ギアが作動し、指が鋸のような形状に変化していた
「グリドールさん!足っす!」
地上に合図が送られる
「ヴァイラ!足を切れ!」
「うん!」
同時に、キメラと指揮官の足が真っ二つになる。
「…な!再生しない!」
指揮官の魔物は生まれて始めての出来事に困惑していた、その隙を狩るようにジャックは次々と猛攻をし始めた。
「自分格闘もいけるクチなんすよ!」
「攻撃は効かないけど、スタンは出来る!あんたの弱点はそれっす!」
「調子に乗るなよ小娘ェ!」
指揮官の魔物の身体中に魔方陣が書かれ始める、それと同時に地上のキメラの体から心臓の鼓動の音が響いていた。
「これはやばいっす~!」
ジャックがステップを踏み、魔物の体から溢れる攻撃魔法を避けるが、数回もろに食らってしまった。
「グリドールさんそっちは大丈夫すか!」
「こっちもやばい状況だ!キメラの野郎、足が切れているのになんて身のこなしだ。」
双子の呪いを受けた2人は息ぴったりに反撃していた
「小賢しいハエがぁ!」
キメラが腕を振ると、空気が衝撃波として空を飛んでいるヴァイラに襲い掛かった
「避けれなっ」
瞬間、ヴァイラの下半身に衝撃波が直に辺り骨は砕け血が吹き出し筋肉がだらんと垂れてしまっていた
「ヴァイラちゃん!」
人間で言えば10代の女の子があんな仕打ちを受けているのに又しても何も出来ないでいる自分にルナフェナは深く絶望した。
「ジャック!不味いぞヴァイラが負傷した!」
「こっちも限界っす!そっちも耐えてください!相手のスタミナ切れを待つんす!」
唯一小回りが効くヴァイラが負傷し、状況は一気に悪くなっていた。
「俺がなんとかしないと…」
グリドールは槍を持ち上げ、闘志を燃やしていた。
「いい加減死ね!小汚ない小娘ぇ!」
「無理な相談す!」
「グリドールさん!同時に頭に鋭い物をぶちこむしかないす!何か無いですか?!」
「あるさ…合図はそっちでいい!早くしてくれ!」
敵も味方も限界であった、一縷の望みは相手が倒れることのみだった。
刹那にキメラは息切れし、動きが鈍くなった
指揮官は魔力切れが発生していた。
「今っす!」
ジャックが義手を指揮官に向かって放つと地上でもグリドールが槍を発射していた。
「射出!」
両者の動きが止まり、その場に倒れ体が崩れていった
「弟よ…何処だ…今助けて…や…」
「兄上…手を握っ…て」
文字通り最後の言葉を話す2人は人間の兄弟同然であった
「大丈夫っす、自分が近くにいます。」
ジャックが味方に多くの死傷者を出した者に向けた感情は正に慈愛そのものであった。
「はい、手を握ってあげます、だからどうか次の人生では幸せになってください」
それは地上のルナフェナも一緒である。
こうして第6回セントゲート争奪戦は指揮の崩壊と主戦力の喪失により、人間側の勝利で幕を閉じた…
「もう、立ってもいいのか。」
「それはグリドールさんもっすよ」
あれから数日が経っていた、戦いは熾烈を極め、多くの死傷者を出してしまっていた。
街の病院は負傷者でごった返しに、野外にまで病室が作られていた。
「ルナフェナは…ヴァイラを中心に怪我人の治療をしているらしい、慌ただしい様子だったよ。」
「そうっすか、あの娘、大丈夫っすかね」
ジャックは物憂げに自分の右腕があった部分を見つめている、義手が建物の崩壊で壊れたからである
「また、作り直さなきゃっすね」
「そうだな、俺もまだあばら折れてるし」
「なんで普通に歩けてるんすか…」
「ドワーフは痛みに強い」
2人は軽く乾いた笑いをした。
「なぁ…ジャック、相談があるんだが…」
「えなんすか、告白っすか?えーもう困っちゃうっす~♡」
「お前、俺のパーティに入らないか。」
補足
加護について
ルナフェナが所持している加護、「ゴーレムの加護」は傷を契約を結んだゴーレムが肩代わりしているだけである。
加護はとある儀式を踏んで契約を結ぶと得られる物で基本的にメリットしかないが、契約の内容によっては争いの種となることもある。
一つ加護を紹介しよう、「奴隷の加護」これは契約するとランダムに奴隷と契約者に分かれ、双方にとてつもない強化が得られるが、契約者の命令を絶対に聞き入れなければならないという内容がある、そして奴隷となった方が死んでしまうと契約者も連動して死んでしまう。