3話 時計の道しるべ
「そういえば、君はなんであんなに怪我を負っていたんです?」
「…いえない」
「まぁ、言いたくなったら言ってくださいね。」
竜と人のハーフであるヴァイラは、未だ警戒心を解いていなかった。
「ルナフェナ、これを見ろ、宝箱だ。」
グリドールが指を指した先には古ぼけたおそらく長年土に埋まっていたであろう木製の宝箱があった。
「おー!さっそく開けてみましょうよ」
目を輝かせながらルナフェナが手を翳すと、宝箱はぎいぎいと錆び付いた音を立てて開いた。
「この施錠魔法ずいぶん古い物ですよ、きっと数十年前にここにきた冒険家の日記が…」
「いや、これは…」
「これ、しってる!時計!」
箱の中に入っていた物は時計というよりそれの残骸であった。
「何かの手がかりかもな、一応持っておこう。」
「あっ!グリドールさんて手癖悪いですよね、そういう遺物はそっとしておくのがセオリーなのに…」
「ふん、お前だって鉱石持ち帰ってるくせに」
「これは、そのー科学の発展の為に…でしてね」
2人が談笑していると、壁の照明が点滅し、洞窟の奥まで照らされた。
「おーすごい、まだ動いてるんですねここ」
ヴァイラがルナフェナの服の裾を引っ張ると、分かれ道の片方を指差した。
「あっち…」
「どうしたんです、あちらに何かあるのですか?」
「あっちにたからある…かも」
「まぁとりあえず行ってみよう、動物の勘は凄まじいからな」
グリドールが笑いながらそう言うと、ヴァイラは顔をしかめながら
「わたし動物じゃない!」
とグリドールに頭を撫でられながら足を進めた。
「これは…古代遺跡ですかね」
「あぁ、俺もここまでの規模は初めて見た。」
3人は目を丸くさせながら景色を一望する、その先には岩や精巧に作られた宝石の装飾が飾られている遺跡があった。
「あそこ、てっぺんになにかある。」
「行ってみますか!」
道中、遺跡を守る魔法人形に阻まれたが、ヴァイラの魔法で消し飛ばし、遺跡の頂上に着いた一行。
「ヴァイラちゃんがあんな強いとは思いませんでしたよ、さすが竜の子ですね。」
「あぁ、基本的に混血は体が弱かったりするんだがな、こいつは特殊なんだろう。」
3人は辺りを見渡して何かめぼしいものはないかと、捜索を始めた。
「あれ、玉座じゃないですか?」
「しかもそれに座っているのは人骨という…」
「あれ…おとうさん…」
「え"」 「マジかよ…」
ヴァイラの話によると母は生まれた時に、父は200年ほど前にこの世を去ったと言う。
「そこから、きおくない…」
「そっか、ヴァイラちゃん辛かったね」
(このヴァイラとかいうやつ、何か裏がありそうだな)
グリドールが物思いにふけっていると玉座に座る人骨もといヴァイラの父が動きだし、近くの錆び付いた剣をこちらに向けだした。
「ぅえー!アンデット化しましたよヴァイラちゃんのお父様!」
人骨はグリドール目掛けて走り、戦闘を仕掛けた。
「こいつ、俺だけを狙ってきてる…?」
「おい!お前!何が狙いだ!」
人骨は顎の骨をガタガタと痙攣させながらグリドールのポケットを指差す。
(さっき拾った時計が狙い?でも一体なぜ?というよりアンデットなのに意志疎通が…)
グリドールの頭に様々な疑問が浮かぶが、それはヴァイラの角より発せられる熱線により書き消された
「え!?ヴァイラちゃん!?あれお父様じゃ…」
「アンデットは死体に移る悪魔、だからあれはお父様じゃない」
冷たく、そしてとても冷徹に人骨を消したヴァイラの目には、生気という光が灯っていなかった。
「ヴァイラちゃんそんな上手に話せて…ってあれ?」
ヴァイラはその場に崩れ落ちるように倒れ、一帯を静寂が支配していた。
瞬間、グリドールのポケットが淡く照らされ、中から時計の残骸が浮遊しながら出てきていた。
「これは一体…」
ヴァイラの体から時計の部品が次々に出てきて、浮遊している残骸にくっつき初め、時計の針が9時を刺したかと思えば、バラバラにくずれてしまった。
「ルナフェナ、一旦離脱するぞ。」
グリドールの一言で我に帰ったルナフェナは、ヴァイラを抱えそそくさと洞窟を後にした…