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レビュー中のお知らせ

※この章は、第一章の完全版(加筆修正版)です。

既に読んだ方も、新しいシーンや追加描写がありますので、ぜひご覧ください。

皆さん、こんにちは。


現在、全ての章を自分で見直しているため、更新が遅れております。

一度全ての投稿を削除しましたが、下記に旧版の第1章を掲載しておりますので、よろしければご覧ください。

全ての見直しが終わり次第、改めて最初から投稿し直し、そこからは継続的に更新していく予定です。


今のところは、そんな感じです!


第一章:石の囁き


「本当にこっちで合ってるの?」

エララの声が静寂を切り裂いた。まるで鋭利なナイフで淀んだ空気を断ち切るかのように、疑念に満ちた声だった。

「カエル、もうこの瓦礫の山、三回は通ったわよ。さっきなんて、あの死んだネズミがこっちにウインクした気がするくらいよ。」


俺の口元に、思わず微笑みが浮かんだ。焦るな、エララ。もう少しだけ我慢してくれ。

俺は静かに笑った。冷たい郊外の空気にかき消されるような微かな笑い声を漏らし、朽ちた木の梁を軽やかに飛び越えた。ボロボロの服装からは想像もつかない身のこなしだった。

「エララ、お前には冒険心が足りないんだよ。これは瓦礫なんかじゃない。忘れ去られた時代の遺跡だ! もしかしたら、ここにはかつて王の城が建っていたのかもしれないぞ!」


「…もしくは、王のトイレだったかもね。」

エララは皮肉っぽく返し、俺の後に続いて慎重に梁を渡った。その短く切り揃えた黒髪が揺れ、鋭く冷静な視線で周囲を見渡す。

「どっちにしても、臭いは同じよ。それで、結局のところ、何が目的なの? “気分転換”とか言ってたけど、私が感じるのはカビと後悔の臭いだけなんだけど。」


「目的は――呼吸すること、だ。」

俺は歩みを止め、両腕を広げて大きく息を吸い込んだ。ここなら、あの街のような息苦しさはない。

「煤と絶望の味がしない空気を吸うこと。あの石と絶望の牢獄から数時間でも離れて、腐った衛兵の顔や空っぽの酒杯じゃないものを見に来たんだ。見ろよ。」


俺は谷を指さした。


灰色と茶色の屋根が山間にぎっしりと詰まった街、オークヘイブンがそこに広がっていた。美しさなど微塵もない。効率性と残酷さだけを求めて築かれた、かつての壮大な遺跡の上に建てられた蜂の巣のような街。

煙突は絶え間なく煙を吐き、霧に溶ける油膜のようなその煙は、太陽の光が街の底に届くことすら許さない。下からは、荷馬車の軋み、遠くの鍛冶屋の金槌の音、そして何千もの囚われた命のざわめきが、ひっきりなしに響いてくる。俺にとって、ここは空の下の牢獄だった。


エララは俺の視線を追った。彼女の小さな微笑みはすぐに消える。

「そうね…分かってる。だけど、これが私たちの牢獄よ、カエル。少なくとも、ここの鉄格子は見慣れてるわ。」


――鉄格子、か。

彼女はその格子に馴染んでいる。だが、俺には無理だ。

その諦めきった声が胸を刺す。いつもそうだった。

俺は逃げ出す夢を見て、彼女は生き抜く現実を見つめる。

この街での暮らしは、汚れた水の底に沈んでいるようなものだ。たまには顔を出して、息をしなければ溺れてしまう。

俺たちの友情だけが、崩れかけた世界の中で唯一の支えだった。


地面の亀裂を跳び越えた瞬間、足元が滑った。

湿った石に足を取られ、バランスを崩しかけたその時、エララの手が俺の手首をしっかりと掴んだ。

彼女は俺を力強く引き戻し、低く呟く。「馬鹿…足元、ちゃんと見て歩きなさいよ。」

けれど、その口元には微かな笑み。俺も無言で笑い返す。感謝は、もう言葉など要らなかった。


俺たちは街の輪郭が霞むほど、さらに山の奥へと進んだ。

山腹では、自然が少しずつその力を取り戻しつつあった。

石造りの土台の間からねじれた木々が生え、蔦がかつて誰かのものであった壁を覆い尽くしている。


その時だった。

「…エララ。見て。」


瓦礫の山ではなかった。

それは、建造物だった。

蔦に覆われ、長い年月に半ば埋もれながらも、確かにそこには入り口があった。

継ぎ目のない黒い石のアーチが、山の闇へと続く門を形作っていた。

石には複雑な幾何学模様の彫刻が施され、昼の薄光の中で微かに脈動するように輝いていた。まるで、息づいているかのように。


「……神々の御名にかけて……」

エララは息を呑み、目を大きく見開いた。

「これは……古い。街よりも、ずっと前のものよ……」


背筋を冷たい悪寒が走る。恐怖と魅惑の入り混じった感覚。

俺は知っていた。確信していた。

何かがある、と。

俺が想像してきた通り。誰も信じようとしなかった“失われし過去”の秘密が、ここに。


本能が俺を突き動かす。


「入ろう。」

その声は、自分でも驚くほど低く、敬意に満ちていた。


「正気じゃない……絶対、正気じゃないわ……!」

エララは俺の腕を掴み、必死に止めようとする。

「カエル、こういう場所は私たちが足を踏み入れる場所じゃない。封印されたのには理由があるって、いつも老アリスが言ってたでしょ?」


「『この街には、錆と欲よりも古いものが眠っている』だろ?知ってるよ。」

俺は苛立ち混じりに彼女の言葉を遮る。

「でも、その話をするのは誰だ?俺たちを飢えさせる連中だろ?ただ、少し覗くだけだ。こんな機会、次はないかもしれないぞ?」


しばらくの沈黙の後、エララはしぶしぶ手を離す。

「……五分よ。五分だけ。少しでもおかしな気配を感じたら、あんたを髪の毛引きずってでも引っ張り出すからね。その上、明日のパンは奢りだから、覚悟しなさいよ……本当にどうしようもない奴……」


洞窟の中は息が詰まるような冷気に満ちていた。

湿った土と石の匂い。そして、その奥に微かに漂う金属臭。嵐の後の空気のような、肌が粟立つ匂いだった。

壁は氷のように冷たく滑らかで、彫刻は奥深くまで続き、やがて闇に消えていく。


俺は数歩、踏み込んだ。

エララは入り口に立ったまま、不安げに俺を見つめている。


「……何もないじゃない、カエル。ただの空っぽの……」


その瞬間、暗闇の奥から声が聞こえた。

いや、違う。

“声”ではなかった。

それは俺の頭の中に直接囁かれた“言葉”だった。

音もなく、だがエララの声以上にはっきりと。

冷たく、鋭く、まるで侵入者のように心に突き刺さった。


――ルビー……。


その名は、鍵だった。

俺の意識の扉を開け、めまいの底へと引きずり込む。

洞窟が歪む。壁の彫刻が蠢き、溶け出すように見えた。

目の奥で痛みが弾け、闇が俺を完全に飲み込んでいく――


最後に聞こえたのは、エララの悲鳴だった。


「カエル! カエル、起きて!」

まぶたを開けると、洞窟の入り口から差し込む光が痛いほど眩しかった。

エララの顔がすぐ目の前にあった。心配に眉をひそめたその顔が、俺の肩を激しく揺さぶっている。

その小さな手は驚くほど力強かった。

「な、何が……起きたんだ?」

俺の声はかすれ、喉はカラカラに乾いていた。

「気を失ったのよ!」

エララは叫んだ。安堵と怒りが入り混じった声だった。

「突然、バタッと倒れて、いくら呼んでも返事もしないし……私、本当に……」

彼女は最後まで言葉を続けられなかった。

俺は体を起こし、ずきずきと痛む頭を押さえる。

周囲を見回せば、洞窟はもうただの冷たい闇。さっきの異様な力は、跡形もなく消えていた。

けれど、何かが、確かに俺の中に残っていた。

「…分からない。たぶん、ここは空気が悪すぎたんだ……」

俺は立ち上がろうとするが、足元がふらつく。

「もう十分! 帰るわよ、今すぐに!」

エララは俺の腕を肩に回し、しっかりと支えてくれる。

「そして、まっすぐアリス先生のところに行くの。異論は認めないからね。それと、パンの件は忘れてないわよ。」

帰り道は、言葉もなく静かだった。

俺の中は奇妙なほど空っぽで、それでいて満たされていた。

何かが体の内側に流れ込んだような感覚。

得体の知れない力が、皮膚の下で微かに蠢いている。

俺はあの“囁き”を思い出せなかった。

ただ、遠い夢の残響のように、耳の奥にこだまするだけだった。

**

アリス先生の診療所は、下街で数少ない“安らぎ”の場所だ。

乾いた薬草と消毒薬の匂いが漂い、歪んだ眼鏡と白髪の乱れた髪を持つ老医師は、街でも珍しく信頼できる人だった。

「おいおい、こいつはどうしたってんだ?」

エララが俺をベンチに座らせると、アリス先生はすぐに駆け寄ってきた。

「気を失ったんです!」

エララは切迫した口調で話す。

「山の斜面にある、古い遺跡の近くで……中に入った途端、突然倒れて……」

アリス先生は動きを止め、険しい顔でこちらを見る。

小さな懐中灯を取り出し、俺の瞳を照らしながら尋ねた。

「遺跡だと? 黒い石のやつか? ……お前たち、あんな場所には絶対に近づくな。」

いつものしわがれ声が、今は低く重苦しい。

その目には、一瞬、遠い過去の痛みが宿っていた。

「この街には、錆と欲よりも古いものが眠っている。触れてはならんものだ。……俺の忠告は無駄かもしれんが、覚えておけ。」

アリス先生は、俺に真剣な眼差しを向ける。

「中で、何かに触ったのか? 何か、聞こえたのか?」

――聞こえた。名前を。

全てを“感じた”。

だが、言葉にできない。自分でも理解できないことを、どう説明すればいい?

俺は首を振る。自分でも呆れるほど薄っぺらい嘘だった。

「いいえ。ただ、寒気を感じて、意識が飛んだだけです。」

アリス先生は黙って脈を測り、呼吸を確認し、首や頭のツボを押していく。

そして最後に椅子へ深く腰掛け、無精髭を撫でながらゆっくり言った。

「体には異常はない。脈も呼吸も正常。熱もない。」

だが、俺の目をじっと見つめると、低く尋ねた。

「……で、本当はどう感じてる? 正直に話せ。」

俺はエララを一瞥し、しばらく躊躇った後、ようやく口を開く。

「……疲れてる。でも、それ以上に、混乱してる。誰にも聞こえないはずの、かすかな音がずっと体の中で鳴ってるような……耳じゃなくて、骨の奥で響いてる。まるで、俺の中に張られた弦が、今にも切れそうに震えてるみたいだ……」

アリス先生はゆっくりとうなずき、重たい溜息をついた。

「休め。水をたくさん飲め。それから……もし、その弦の震えが強くなったり、“見えるはずのないもの”が見え始めたら……すぐに来い。」

**

診療所を出た頃には、夜の帳が下り始めていた。

紫と濁ったオレンジに染まる空の下、俺たちの不安はさらに深まっていく。

「……骨の奥の音?」

エララは低い声で問いかける。

夜の街は次第に暗く、危険な空間へと変わりつつあった。

「カエル、本当はあそこで何があったの?」

「説明できないんだ。……まるで血の中を電流が走ってるみたいなんだよ。」

俺は腕を擦る。寒くもないのに、体は震えている。

まるであの洞窟の一部が、俺の中に残っているかのようだった。

**

夜の下街は、影と危険の迷路だ。

俺たちは安全な場所を求め、倉庫街へ向かった。

そこは、湿った木材と石の骨組みが並ぶ、かつての商人たちの墓場。カビとネズミの匂いが漂う場所だった。

そこで、運命は俺たちを待ち受けていた。

古びた樽の陰に身を潜めると、低い囁き声が聞こえた。

肥満体の衛兵隊長、ヴァレリウスが、蜘蛛のように不気味な静けさを纏ったフードの男と話している。

「……北埠頭の穀物が、明後日届く。ザ・シャドウは、その積荷を“消せ”と望んでいる。下層地区の連中を数週間ほど飢えさせれば、我らが隠し持つ穀物は金同然になる。」

金、か。

胸の奥で骨の震えが、冷たい怒りと共に脈打つ。

あいつらは、金のために人を餓死させるつもりだ。

いつもの話だ。強者が弱者を食い物にする――それだけのこと。

ヴァレリウスは汗で光る額を拭いながら、低く笑う。

「俺もたっぷり報酬を期待してるぞ。港の労働者どもを黙らせるのにも金がかかった。あいつら、余計なことを嗅ぎ回り始めてたからな。」

「仕事が済めば、約束通りの報酬を渡そう。ただし、邪魔者は一人残らず消せ。」

フードの男は、ナイフで石を削るような声で応じた。

その時――

足元の小石を踏み、俺の足がわずかに滑った。

小さな音のはずだったが、この静寂の中では雷鳴のように響いた。

「誰だ!」

ヴァレリウスが吠え、剣の柄に手をかけた。

心臓が凍りつき、同時に炎のようなパニックが弾けた。

俺たちは一目散に走り出す。

石畳に響く足音。怒号が夜の路地にこだまする。

俺たちはこの街の路地を熟知している。だが、あいつらはこの街を支配している。

錆びた非常階段を駆け上がり、きしむ鉄の音を背に屋根の上へ飛び出す。

不揃いな屋根を駆け抜け、闇に開いた隙間を跳び越える。

その下には、怪物のように眠る街が広がっている。

薄暗い灯りが、邪悪な目のように瞬いていた。

肺が焼けるほどの息切れ。

裏路地に飛び降り、革なめし場の悪臭にむせる。

背後の追手の足音が、どんどん近づいてくる。

角を曲がった先に――壁。

行き止まりだ。これ以上、逃げ場はない。

ヴァレリウスとその手下三人が、唯一の出口を塞ぐ。

松明の灯りに照らされたその顔は、獲物を追い詰めた捕食者そのものだった。

「おやおや、こんなところで何をしているのかな?」

ヴァレリウスは楽しげに舌なめずりする。

「耳ざわりの悪い話を聞いちまったネズミどもか。残念だが、証人は生かしておけねぇ。」

エララは震える体で俺の前に立ちはだかる。

腕を広げ、鋼のような決意の眼差しで俺を守る。

「彼は関係ないわ! 体調も悪いし、何も知らない!」

ヴァレリウスは嗤う。

「関係ねぇよ。」

手下の一人が棍棒を構えて近づく。

その瞬間、エララは振り向き、俺をまっすぐ見つめた。

時が止まった。

彼女の瞳の奥に、これまで共に過ごした全てが蘇る。

七歳の冬、最後のパンを分け合ったあの日。

煤で汚れた頬と、意地っ張りな笑顔。

俺に固結びの仕方を教え、泥水に転んで笑い転げたあの少女。

全てが、その瞳に映っていた。

「絶対に……あんたまで失わないで、カエル。」

そして――

鈍い、嫌な音。

湿った骨の砕ける音。

世界は、無音になった。

俺の肺の中の空気が、一瞬でガラスになった。

音も匂いも、路地裏の冷たい感触すら、一切が消え去る。

俺は見た。

エララの体が、物のように投げ飛ばされたのを。

叫び声すら上げずに崩れ落ちた彼女を。

まるで壊れた人形のように、冷たい地面に転がる彼女を。

ついさっきまで、あの瞳にはあんなにも強い意志と忠誠が宿っていたのに――

今は、何も映さない空虚な瞳。

その頭からは、深い赤が溢れ出し、石畳を染めていく。

血の海が、じわりじわりと広がり、世界の温度を奪っていく。

そして、音は戻ってきた。

波のように、ではなく――

鋭い杭のように耳を貫き、現実が一気に押し寄せる。

胸の中で轟く、骨の奥の唸り。

怒りと悲しみが混ざり合い、全身を焼き尽くすように爆発する。

ヴァレリウスは、何も知らずに俺を見下ろす。

「さて、次はお前の番だ、坊や。」

手下たちがにじり寄る。

だが、その時だった。

俺の胸の奥――

あの張り詰めた弦が、ついに“切れた”。

考える暇もなかった。

それは、“爆発”だった。

俺の体から放たれたのは、深紅の光。

荘厳で、恐ろしく美しい光だった。

火でも雷でもない。

俺の“痛み”そのものが、力へと姿を変えたのだ。

無数の紅い粒子が、俺の周囲を舞う。

血のように赤く、ルビーのように輝き、渦を成す。

まるで、血塗られた月の下で砕け散る宝石のようだった。

俺は、もはや“俺”ではなかった。

ただの器。

暴走する力の“通り道”に過ぎなかった。

最も近くにいた手下は、悲鳴すら上げる暇もなかった。

紅の粒子は、一斉に奴へと殺到する。

それは爆発音ではなく、湿った“引き裂き音”だった。

紅の光は、無数の微細な刃となり、男の体をズタズタに裂く。

まず、服が細かく千切れ、次に皮膚と筋肉が瞬時に剥がれた。

血飛沫が吹き上がり、壁や地面を真っ赤に染める。

男の腕が、まだ棍棒を握ったまま空を舞い、向かいの壁に叩きつけられて落ちた。

そこに残ったのは、もはや人の姿ではなかった。

肉片と砕けた骨の山。

血の池が広がり、紅の光はまだ美しく舞い続ける。

その残酷な光景に、俺の体も反応する。

皮膚が焼かれ、無数の傷が腕に刻まれる。

膝をつき、吐きそうになるほどの苦しみに喘ぐ。

口の中は鉄の味で満たされ、骨の中でヒビが走るような激痛が走る。

この力は、ただ暴れたのではない。

“俺の一部”を喰らい、代償として放たれたのだ。

俺は震えた。

恐怖に。

そして、もっと恐ろしい真実に――

あの瞬間、俺は“俺”じゃなかった。

怒りも、悲しみも、全てを飲み込み、俺の中の“何か”が目覚めた。

俺は、ただその門を開いただけの存在だった。

**

その凄惨な沈黙の中――

新たな“影”が、静かに路地へ足を踏み入れる。

ゆったりと、だが確かな足取りで近づくその男は、あまりにも場違いなほど落ち着いていた。

黒いコートを纏った長身の男。

顔は影に隠れていたが、鋭い眼差しは全てを見据えていた。

エララの亡骸。

肉塊と化した手下。

蒼白な顔のヴァレリウス。

そして、俺――

膝をつき、紅の光の残滓を纏う“怪物”となった俺を。

その男は、何も言わなかった。

ただ、黙ってこちらを見つめる。

その沈黙は、あまりに重く、叫び声よりも恐ろしかった。

こうして、俺の“物語”の第一章は、血と灰に塗れて幕を下ろした。

そして、もっと恐ろしい“第二章”が、今、静かに幕を開けようとしていた。


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