第7話:唯一の道? 魔力の核という希望
俺の言葉に、ジジイは一瞬考え込むような素振りを見せた後、意を決したように顔を上げた。
「……分かったのじゃ。扇動を成功させた暁には、日本に帰してあげるのじゃ!」
「なんでだよ‼ 今すぐ帰せよ‼」
おまえのせいで、強制的に連れてこられたんだぞ?
なら帰還は報酬じゃなくて、当然の権利だろうが!
「それは無理なのじゃ……」
「は? なんでだよ?」
「おぬしを帰すだけの魔力が、今は無いのじゃ……」
その瞬間――
バッ!
気づけば、俺はまたしてもじじいの胸ぐらを掴んでいた。
「おまえのせいで! この世界に住まないといけねぇじゃねぇーかァァァ!!!」
「ま、ま、ま、まつんじゃ! 魔力さえあれば、日本にはちゃんと帰せるんじゃ!」
「じゃあ、その魔力を今すぐ取ってこい!」
「それが……それがな……なかなか難しいんじゃ……」
「なんだとぉぉぉおおおお⁉」
怒鳴りかけた俺に対して、じじいはストップの手を前に突き出し、「まぁまぁ」みたいな顔をしてきやがった。
「……実はの。扇動がうまくいけば、この帝国にある“莫大な魔力”が手に入るんじゃ。それを使えば、日本に帰すことができる」
「莫大な魔力…?」
「そうじゃ。『魔力の核』と呼ばれる代物じゃがの」
「ほーん……なるほどな。ちなみにじじい、お前の国ってこの国とは別だよな?」
「うむ。魔物の巣窟を越えた向こう側に、ワシの国がある」
「で、そこには日本に帰すだけの魔力はあるのか?」
「……ないのじゃ」
「……」
「その他の国は? 日本に帰せるくらいの魔力持ってる国、あるか?」
「ん~……正直、分からんのじゃ。たぶん……ないかもしれんの~……」
「なるほどね。なるほどなるほど……」
――つまり、だ。
日本に帰るためには、この帝国の「魔力の核」ってやつを手に入れるしかない、ってことか?
いや、待てよ。さっき魔術師の代表は「魔物を討伐すれば帰す」って約束してたよな?
勇者として帝国に協力して、信頼を得て、魔物を倒して――
んで、正式に帰してもらう方が、よっぽど現実的じゃねーか。
扇動なんかに命懸ける必要もない。
それに、この目の前のじじいは、どう考えても“敵国のスパイ”だ。
こんな奴にくっついて行動する方が、リスクしかねぇよな。
……だったら、いっそ――帝国にチクってやるか?
スパイを捕まえた功績で、俺の評価も上がって、VIP待遇で帰還、なんて展開もあるかも。
じじいの横顔をチラッと見た。
何食わぬ顔でローブを整えてる。
こいつは、俺をこんなところに召喚しやがった。
そのことを考えたら——
……今はまだ、黙っておこう。でも、いつか必ず…
「……密告だな……」
と、小さく呟いてしまった。
じじいの目がカッと見開かれた。
「み、密告だな……⁉ お、おぬし、ワシをこの国に売ろうとしておるのか⁉」
……しまった、思わず口に出してた!?
じじいは、可愛い子犬みたいに潤んだ目でこっちを見上げてくる。
「や、やめろ。そんな目で見るな……!」
「ワシを売るようなことはせんよな?」
「……しない」
「その間はなんじゃ‼ おぬし、今一瞬迷ったじゃろ!?」
「いや、そもそも裏切るもなにも、お前と仲間になった覚えないからな」
「くそぉぉぉ、なんて悪行を考えておるのじゃ……」
「悪行でもなんでもねーよ。むしろ善行だろ? 帝国側からすりゃ、スパイを発見して報告するのは正義のヒーローだ」
じじいは苦虫を噛み潰したような顔をしたあと、急にニタァっと悪そうな顔になった。
「……ならば、こちらにも策がある。もしワシを売ったらの、おぬしのことを“あることないこと”吹き込んで牢獄送りにしてやるからの‼」
「おい、それこそ悪行じゃねーか! 冤罪でぶち込もうとすんな‼」
「プイ」
じじいは頬を膨らませてそっぽを向く。
って、女子か! じじいの頬膨らませ顔なんか誰が見たいんだよ! 全ッ然可愛くないわ‼
「……はぁー、分かった。大丈夫だ。密告はしない」
「ほんとか?」
「ほんと、ほんと」
もちろん、嘘だけどな。チャンスがあればすぐに密告してやる。