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第6話:帰還の条件、地獄の訓練?

 ――ここから、じじいの必死の説得タイムが始まった。

「待つんじゃ。この国に来たということは、おぬしだけの魔法が使えるようになるぞ。後で魔法の属性を調べてもらうんじゃが――」

「いいってば。魔法なんて使えなくていい。どうせ、“炎”とか“氷”とか魔法が何かしら使えるとかなんかでしょ?」

「う、うむ……その通りじゃ……」

「ほら見ろ。使えなくていい」

「ま、まてまて! 魔物退治に魔法を使えるんじゃよ?」

「いや、それこそ嫌だわ。魔物退治とか戦っている途中で負傷とかするじゃん。痛いの嫌い。それに、下手したら死ぬじゃん。嫌だよ」

「そ、それは訓練すれば慣れるんじゃよ! 上手くなればケガも減るし、死ぬ確率も下がるんじゃ!」

「訓練? うわ、最悪。……それ一日、何時間?」

「最初の内は12時間ほどかの」

「長っ! 絶対ムリ! その時間があったら、漫画読んでゲームして昼寝してたい!」

「そ、そういうわけにはいかんのじゃ! 訓練しないと生き残れんぞ!」

「うっわ……ますます日本に帰りたくなってきた……! 毎日死と隣り合わせの世界とか、絶対イヤ。 日本って基本的に、災害以外でいきなり死ぬとかないからな‼」

 ……ほんと、なにが悲しくてこんな世界にいなきゃいけないんだよ……

「ぬぬぬ……否定ばかりしおってー!」

「いやいや、普通に考えてここの生活が嫌に決まってんだろ!」

『戦え!魔物倒せ!訓練しろ!』って、ブラック企業よりタチ悪いぞこれ。

 ……あの異常なクラスメイトたちは別として、な。

 一部はノリノリで「異世界最高ー!」とか言ってたけど、どうかしてるわ。

「そもそも俺、勇者じゃないんだよね? なのに訓練しろって、どういう理屈だよ」

「それは、扇動者として勇者のふりをするために必要なんじゃ」

「……は? 扇動するのに、なんで勇者のふりをすんの? 他国に行って、勇者のふりでもしろっての?」

 ジジイは首を横に振った。

「違うんじゃ」

「じゃあ何? 勇者のふり、必要ないじゃん」

「そうではないんじゃ……場所が違うのじゃ」

「場所?」

 眉をひそめる俺に、ジジイはさらっと言った。

「おぬしが“扇動”する場所は――ここじゃよ」

「……は?」

「聞こえなかったかの?」

「いや、たぶん聞き間違いだと思うから……もう一度どうぞ?」

「ここの国じゃよ」

 じじいは両手の人差し指を下に向けて、トントンと足元を指差す。

「え、ちょ、待て。俺ってこの国を扇動するために召喚されたの?」

 頷くじじい。

「んーっと……確認だけど、俺を敵地で召喚したの?」

「そうじゃ♪」

 満面の笑みで答えるじじい。

 無言になるおれ。

「…………」

「…………」

「なにしてくれとんじゃ、ボケーーー‼」

 もう一度、ジジイの胸ぐらをつかんで激しく揺らす。

「召喚だけじゃ飽き足らず、扇動者としてすぐに殺されそうな場所に召喚してんじゃねぇよ!」

「お、おち、落ち着くんじゃぁぁぁ!」

「落ち着いていられるかーっ‼」

 ブンッと胸ぐらを突き放すと、ジジイは後ろによろめく。

「ぜっっっったいに扇動者なんてやりたくない。バレたら速攻で処刑コースじゃねーか!」

「ごほ、ごほ、ごほ、大丈夫じゃ。ワシがフォローするから、殺されることはないんじゃ」

 ジジイは咳き込みながらも、妙に自信ありげに胸を張る。

「初対面のジジイに『フォローする』って言われても、これっぽっちも安心できねぇわ!」

「ワシはすごい魔術師なんじゃよ」

「……」

「……」

 沈黙。からの、何も言わないジジイ。

 おい、そろそろ続きを話せ。

「ん、それで?」

「それでとは?」

「いや、“すごい魔術師”だから何?」

「だから、安心できるじゃろ?」

「いや、ジジイがすごい魔術師かどうか、こっちは知らねぇし! ってか、どう“すごい”んだよ」

「魔法を使える勇者より強いんじゃ」

「ほぉ~~~う、それはすごいねぇ~~~?」

 俺はゆっくりと右手を上げて――目の前のじじいに向けて振り落とす。

「いたーーーいんじゃーーー‼」

 鋭いチョップが炸裂。

 床を転げ回るジジイ。

 めっちゃ痛がってる。

 しばらくして、勢いよく立ち上がったジジイが、顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。

「なにするんじゃー‼」

「おめぇー、ぜっっっったい、魔法を使える勇者より弱いだろ!」

「そんなことないんじゃ、ワシはめっちゃ強いんじゃ!」

「じゃー、なんでおれの魔法を使っていないただのチョップをくらっているんだよ!」

「そ、それは、たまたまじゃ……次、おぬしがチョップをしたとしても華麗にかわすのじゃ」

「へぇ~、そうなんだ」

 ていうことで、もう一度チョップを試みた。

 すると——

「いたーーーいんじゃーーー‼」

 ——見事にクリーンヒットして床に再び転げまわるじじい。

「ぜんっっっぜん、かわしきれてねーよ‼ もろにチョップくらってんじゃねーか!」

 スタッとジジイは立ち上がり、なぜか得意げな顔で胸を張る。

「そういう日もあるんじゃ。気にするでない。この最強魔導士のワシがフォローするから安心するんじゃ」

「安心できるか! 今ので余計に不安になったわ! そもそも、扇動なんて絶対やらねーからな!」

「まぁまぁ、そう言うでない。扇動を成功させてくれたら、見返りになんでもしてあげるぞ」

「そもそも扇動なんて、できっこないだろ!」

「できる、できる、できる、できる、できる‼」

 急にハイテンションになるジジイ。

「おぬしならできるんじゃ! 諦めたら何もできない! 大事なのは、自分を信じる心なんじゃよ!」

 ジジイは自分の胸をドンと叩いて、まるで熱血教師のような目で俺を見る。

「熱いハートを持て! 魂を燃やすんじゃ! そうすれば、おぬしは必ず扇動できる‼」

「……」

「できる、できる、できる! ネガティブな思考は捨てるのじゃ! ポジティブこそが力! おぬしはなんでもできる子なんじゃ‼」

 ジジイはキラッキラの笑顔で俺に親指を立ててきた。

「……いや、熱血教師みたいなこと言ってんじゃねーよ‼ そもそも“諦めるかどうか”の話じゃなくて、“最初からやりたくない”って言ってんの!」

「……じゃが、おぬしの望むものを“なんでも”与えるんじゃぞ? それでもやりたくないのかのー?」

「当たり前だろ! それに、“なんでも”って言っておきながら、どうせくれないんだろ?」

「そんなことないんじゃ!」

「さっき“一生遊んで暮らせるお金をくれ”って言ったら、“無理”って言ったよな?」

「……それは、別の話じゃ。扇動を成功させたら、その報酬としてなら一生分の金は用意できるぞ。この国の一部の財宝をおぬしに譲る手配もできるからの」

「いやいや、命懸けてまで一生分の金が欲しいとは思ってないから。別にいらんわ」

「ぬぬぬ……それなら、何が望みなんじゃ?」

「そりゃあ――日本に帰ることだよ!」


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