第4話:魔女の部屋と爆弾発言
じいさんに連れられた場所は、何やら怪しげな部屋だった。
昔のおとぎ話に出てくる魔女の家って感じで、部屋の中は薄暗く、真ん中にはやたらデカい土鍋がドーンと鎮座。その中には得体の知れない緑色の液体がプクプク泡を立ててる。隣には木の長テーブルと椅子がいくつか。さらに棚にはガラス瓶がズラーッと百個は並んでる。
そして……とにかく、めちゃくちゃ薬草くさい。
天井に吊るされたロウソクに、じじいが火を灯すと、部屋がぽわっと明るくなった。
「まずはこの世界にようこそじゃ。歓迎するのじゃ」
「……」
歓迎されても困るんだけど。
勝手に呼び出しておいて「ようこそ」って、図々しさが天井突き抜けてるぞ。
マジでさっさと日本に戻してほしい。
「ところで、おぬし、名前は何と言ったかの?」
「朔宮さくな」
「さくな……うむ、良い名前じゃ」
「ああ、どうも」
異世界の住人に俺の名前の良さが分かるわけないだろ。どこをどう評価して「良い名前」とか言ってるんだ、こいつ。
まあ、ツッコむのもめんどいし放っとくけど。
「じいさんの名前はなんて言うんだ?」
「ワシは魔術師のザハル・レクナードじゃ、よろしくなのじゃ」
「あ、ああ、よろしく」
にしても……こいつを見てると余計に腹が立ってきた。
勝手に召喚しやがって。
ここに連れてこられたの、絶対あの赤いローブ軍団の仕業だろ。あいつらがなんか変な呪文唱えて光ったし。
まぁ、あいつらにもイラッとはしてるけど、どうせ“命令された”だけの立場なんだろうな。
真にムカつくのは、召喚を命じた“元凶”だ。
たぶん、王様とかだろ?
見つけたら正拳突き入れてやる。王冠吹っ飛ばして、地面に土下座させてやる。
「すみませんでしたあああ‼」って涙流して謝るまで許さねぇ。
……いや、さすがにそこまではやらんけど、
だが、それぐらいには、すでに不満MAX。
「さくなよ、今から大切な話をさせてほしい」
ああ、そういや言ってたな。
勇者の説明なんかより、よっぽど重要な話があるとか何とか。
しかも、勇者の話なんて「くだらん」とまで言い切ってたからな。
いったいどんな話を――
「実はな、おぬしだけ――」
ジジイが、意味深に言葉を切る。
……そして次の瞬間、爆弾を投下した。
「――勇者ではないんじゃ」
「……は?」
今、なんつった? 勇者じゃない?
じゃあ、なんだってんだよ。
ジジイは胸を張って、満面のドヤ顔で言い放った。
「ワシが特別に――『扇動者』として召喚したのじゃ!」
…………
…………
「………………はあああああああああああああ⁉」
一回、深く深~く深呼吸してから、
目の前のジジイをじっと見つめる。
こいつが――俺を――この異世界に――召喚した張本人……?
「なにしてくれてんじゃああああああああああああああ‼ じじいィィィィィッッ‼」
胸元を掴みブンブンと前後に動かしまくる。
「ぬわ、ぬわ、ぬう! 揺らさないでくれー‼」
「おまえがこのおれを、この世界に召喚した犯人か!」
「ぬわ、ぬわ、揺らさないでくれーっ‼」
「だまれー、じじい! 俺の怒りをぶつけてんだよ‼」
こいつが元凶――そう思った瞬間、俺の怒りが天元突破した。
理不尽の塊みたいな状況に放り込まれて、アニメもマンガもゲームもない生活? いや、まだないとは決まってないけど……
それでも冗談じゃねぇ‼
これはもう怒って当然だろ。なにが“扇動者”だ。寝言は寝て言え。