教室、もぬけの殻。そして光。
「ふぅー、スッキリしたぜ」
俺、朔宮さくなは、トイレから教室…三年一組に戻ってきた。
新学期始まってまだ数日だけど、このちょっと古めかしい校舎のトイレにも慣れたもんよ。
ガラッ…
ドアを開けて、教室に足を踏み入れる。
…ん? あれ?
「え、誰もいないんですけど……え⁉」
マジかよ。シーンとしてる。
俺がトイレに行ってる数分の間に、みんなどこ消えた?
五時間目、普通の歴史だろ? なんで誰もいなんだ?
さっきまでの休み時間、クラスの奴らがギャーギャー騒いでたはずだよな?
「どゆこと?」
机と椅子はある。
でも、そこに座ってるはずのクラスメイトたちが、マジで一人もいない。
俺の席の周りも、当然ガラ空き。
窓の外に目をやる。
校庭では体育の授業やってるし、隣の二組の教室からは…うん、なんか古典の先生の声が聞こえる。普通に授業してんじゃん。
ってことは、この三年一組だけが、もぬけの殻ってことか。
「集団ボイコット? いやいや、んなわけねーか」
だって、ほら、みんなの机の横には普通にスクールバッグがかかってるし。教科書とかノートも置きっぱなし。
集団でサボるなら、もっと計画的にやるだろ、普通。
「つーか、どこ行ったんだよ、あいつら…」
まさか、俺だけハブられて、どっか別の場所で授業受けてるとか?
…いや、それもねーか。
担任の山岸だって、さっき授業をする準備をしていたしな……
自分の席にドカッと座る。
机の上には、さっきまで読んでたラノベが開きっぱなしだ。
「んー…」
しばらく考えてみる。
…いや、考えるだけ無駄か。
どうせ俺には関係ねーし。
「つーか、ラッキーじゃん? 授業サボれるってことだろ、これ」
正直、歴史の授業とかクソだるいし。ヤマギシの話、眠くなるだけだし。
いなくなったクラスの奴らなんて、どうでもいいわ。マジで。
俺の知ったこっちゃない。
「よし、帰るか…」
って思ったけど、やめた。もし、急にみんな戻ってきて、俺だけ欠席扱いとかになったら、それもそれでダルい。内申点とか響くかもしれんし。
「はぁー…しゃーねーな。ここで時間潰すか」
スマホを取り出そうと、ポケットに手を突っ込む。
「さーて、ソシャゲのイベントでもやるかな。スタミナ溢れる前に…」
指先がスマホの冷たい感触に触れた、その瞬間だった。
パァァァァッ!
「へ?」
突然、教室全体が目も開けられないくらいの、強烈な白い光に包まれた。
え、なに? フラッシュ? 誰かのイタズラ?
いや、そんなレベルの光じゃねぇ!
「うおっ、まぶしっ!」
思わず腕で目を覆う。
でも、光は瞼を通り越して、脳みそまで真っ白に染め上げるみたいだ。
同時に、体がフワッと浮くような、変な感覚。
「ちょ、マジかよ…これ、何の展開だよ…!」
視界の端で、教室の机や椅子がぐにゃりと歪んで見える。
窓の外の景色も、なんか水彩絵の具を水で滲ませたみたいに、ぐちゃぐちゃになっていく。
「やば、これ、本気でやばいやつじゃん…!」
体が引っ張られるような、押し潰されるような、訳の分からない力に翻弄される。
息が、詰まる。
意識が急速に遠のいていく。
あー、クソ…最悪だ…。
せっかく授業サボれると思ったのに…。
床に、さっきまで俺が読んでたラノベと、あと…誰かの、確かクラスの女子がキーホルダーにしてた、なんか変なキャラのお守りみたいなのが、コロッと落ちたのが、見えた気がした。
(…マジで、めんどくせぇ…)
それが、俺が最後に考えたことだった。