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パチンカスの魔女

作者: ムタムッタ


 20XX年。

 ギャンブル依存症は増えるばかり。



 とりわけパチンコ依存症はポピュラーであり、身近なもの。負けると分かっていても挑む蛮勇ばかりなのである。



 それは私もなのですが……



 この事態に政府は、かねてより探していた私こと、「パチンカスの魔女」にギャンブル依存症対策を依頼したわけで……


「要は絶対に勝てないと思える絶望を与えればいいのです」


 勿論政府としては大した効き目がないことなど織り込み済みである。ポーズが重要なのだ。


「ま、私には都合が良いので構いませんが」





 とあるパチンコ店にて。こけら落としの第一回目。


 広い通路の中央、そこでローブを纏っている私は、左袖に隠していた杖を取り出し、一振り。


「魔女の攻略法0──『災厄の7(カラミティセブン)』!」


 天井の照明がほんのわずかに明滅する。これが今回の魔法の合図。対象は遊戯台。指定範囲は人ではなくモノだ。


 ちらっと脇の台を見やる。

 死んだ目で台を眺める中年男の視線の先、液晶画面の左右に金色の「7」が揃う。


 すると男は、生気が戻ったように襟を正す。画面いっぱいの金色演出、滅多に見ないレアなシチュエーションに興奮が隠せない様子。


 その男だけではない。遊戯している者たちの台全てが「7」のリーチ……7テンとなっている。


 偶然? いいえ、これは私の魔法。

 しかしこれは幸福をもたらすものなどではありません。


「アツいぞこれはーっ⁉︎」


 思わず声が出た青年が、当たりかハズレのボタンを押し込む。


 ──プシュン


「え……?」


 ──プシュンプシュンプシュン


 続々と、周囲の台が期待度の高いリーチを次々に外してゆく。一人の例外もなく、非情に、そして無情に。


 そして希望を失った人間たちから幸運の光が抜け出し、私のもとに集う。


「ふふふ、さぁ集まりなさい! 本来使われるはずだった幸運たちよ!」


 私の目的はただひとつ!

 7テンを外した者たちから幸運を巻き上げる! 政府の依頼はついで!


 やがてバランスボール大の光が集まり、そして私はその光に包まれる。


 今の私は、幸運値MAX!!

 どんなリーチでも当たるはずです!


「あっはっはっは! これなら勝てます。見るがいい、魔女の実力を!」


 魔法を解除して手近な台で遊戯を始める。今の私なら、どの台でも──!




     7  7




 何の因果か、私の台にも7が並ぶ。


「ほぅ……勝利の美酒ならぬ7テンですね」


 勝ったも同然。行く末を見届けるまでもありませんが、一応見てあげましょう。


 

    7  7



 金、金、金……豪華絢爛な演出が続く。

 しかし、大当たりがほぼ確定する虹色はない。刹那、胸がざわめく。


 い、いや……私の幸運は振り切れているレベルなのですから大丈夫……


 滞りなく進む演出へ、次第に不安が募る。



      7  7



 ええい、何を不安になる必要がある⁉︎

 他者の幸運ラックを吸収した今、敵はいないのです!


 ボタンを押せ!


 このところ連敗続きでオケラなのです!

 他者の幸運でもいいから当たれぇっー!



    7  8  7



「なんでだぁっー!!」


 思わず台を叩く。

 ありえないありえないありえない! 今の私は幸運最大のはず──!


 無惨にもリーチは終わり、次の変動が始まる。


「あぁ……せっかくの魔力が……」

「お? 魔女じゃん、どうした?」


 項垂れていた私のもとに、見慣れたパチンコ仲間である青年が現れた。


「せっかく運を奪って大当たりすると思ったのにぃー!」

「あ! お前またセコいイカサマしようとしたんだろ⁉︎」

「違う! 依存症対策のために全員7テンリーチを外す魔法をかけただけです! そこから……ちょっと運をもらっただけで」

「運がなくなって当然の報いだろうが!」



 そして魔法に巻き込まれた者たちは、パチンコを打ち続ける。



 もちろん、魔女わたしも例外なく。

 勝っても打ち、負けても打つ。

 




 それが、パチンカスの魔女。



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