スタンピードと食肉加工
昨夜は皆早く寝た。
レニヴァル君も俺の隣で爆睡していたが、夜明け前に朝食の匂いで起きた。
俺が作ったのはスピ鳥のパエリアだ。サフランとシメジを森で採取して来たので白ワインを少し入れてなんちゃってパエリアを30人前作った。
岩塩とコショウをひと壺、ロクシターナさんが俺に献上してくれたので、パエリアの半分はその場で持って行かせた。
ロクシターナさんは遠慮してたが、強く進めると頭を下げ持って帰った。
今日、狩りに参加するヨークヴァルさんとレニヴァル君にはお代わりさせた。
俺が育てた米はデトックス&治癒の効果があったようで、ヨークヴァルさんの腰痛も治ったらしい。
ただし2人は里まで魔物達が来たら、対応する役割で、200人いる本隊は天の岩戸ダンジョン前を二重に囲んで討ち洩らしが無いようにするらしい。
ロクシターナさんいわく、
「過剰戦力だ。500頭くらいならエルフが30人いたら十分ですよ」
と言っていたが。
俺は燻製の準備で忙しい。
村長んちの一番小さい倉庫を借りて簡易燻製小屋にする。
あとは塩水を子供が一人入る壺にたくさん用意した。
解体部隊160人のエルフのお母さん達が待ち構える中8の刻に獲物を引っ提げて本隊の男達が帰って来た。
ロクシターナさんがボアの子供を掲げて宣言した。
「スタンピードに勝利した!祝杯を挙げよ!」
「「「「「「オオオオ!!」」」」」」
「何言ってんだい!ロクシターナ!!飲むのは燻製肉作った後だよ!」
村長の奥さんラインライトさんに怒られて見る間に意気消沈する男達。
ラインライトさんが村長にパンパンに詰まった麻袋を2つ持たせてやって来た。
「解体して塩水に漬けるまではこっちでやっとくから酒のつまみをある物で作っとくれ!アンタ!シンジ様に渡しな!」
村長が渡してくれたのは大量のタマネギと硬くなった田舎パンだった。
村長夫妻の後ろからソレを覗き込んでいたロクシターナさんが森へ駆けて行った。
これしか材料が無いのに1000人分作れと?
どんな無茶ぶりだよ!!!
「肉はどれだけ使ってもいいよ!」
「……ボアを解体したのを20頭下さい!」
「それじゃあ足りないね!大きなのを50頭あげるよ!」
「骨も欲しいです」
ラインライトさんは怪訝そうに骨を俺に渡した。
ハァ~、香草採りに森へ行くか。
お祭り用の巨大鍋にボアの骨と木っ端肉と一緒に水を入れてコトコト煮る。
「シンジ様!!これ!使って下さい!」
ロクシターナさんが森から持って来た荷車にはたくさん壺やら麻袋、木箱が乗っている。
小麦粉や、ハチミツ、植物油に乾燥ハーブ、卵にミルクまであったが、せいぜい100人分。
********************
【ロクシターナの献身により、店舗作成の条件が満たされました。場所を選んで下さい】
********************
何だ、それ!?
「ロクシターナさん、俺が店開いていい場所あるかな?」
「……店かぁ!あ!よかったら、この家使って下さい!出稼ぎから帰ってこない弟の家なんですけど、ムダに古くて広くて使い勝手が悪いんです」
た、確かにボロボロだ。廃屋寸前の屋敷に思わず口が滑らかになった。
「では、遠慮なくいただきます」
********************
【召喚魔法解放!倉庫内召喚!】
********************
すごい勢いで体中から魔力が吸い出されて行く。
シュゴゴゴーー!!
ぐぬぬぬ、負けてたまるか!
しかし、1度目に比べると呆気ないほど早く終わった。
召喚魔法は失敗したのか、何も起きて無い。
********************
【マスター、店が出来ました。ご自身で確認して下さい】
********************
おそるおそるボロボロの屋敷の玄関の引き戸を開けるとそこは立派な厨房だった!
「……これ、俺が貸し倉庫に預けてた道具類……」
涙が出そうになった。
三和土から上がった板の間には、見覚えあるブラウンのテーブルとイスたち。
店なんか、諦めていたのに胸に希望の灯りがともる。
「ヨシ、ヨシ!……頑張るぞ、俺!」
縁側を開け放ち陽を入れると、レニヴァル君がやって来た。
「シンジ様!!大鍋はほっといていいんです、か…?こ、これは、何ですか?」
「地球から召喚した俺の店だ!」
万感の思いを込めて言う。
クソ、まだ、泣きそうだ!
レニヴァル君は、何となく察したのか、微笑む。
「じゃあ、ボア50頭持ってきます!」
電気や水道は他の何かで賄われているようで、ちゃんと稼動していた。
まずはボア肉をミンサーでミンチにする。
その間に卵白をハチミツを入れながらハンドミキサーで泡立て、別立てで卵黄を白っぽくなるまですり混ぜる。卵黄にミルク、小麦粉をふるいに掛けたものを混ぜて、メレンゲを何回かに分けてサックリと切るようにヘラで混ぜる。
フライパンに薄く油を引きコンロにかけ、やや弱火で加熱する。
フライパンが温まったらタネをオタマですくって落とす。こんもりしていてもよい。熱が伝わったら自然と平らになるのでプツプツと泡が立つとひっくり返す。この時も押さえつけない。両面がきつね色になったら出来上がりだ。
レニヴァル君に教えると、レニヴァル君は2枚目からスフレパンケーキを手際良く焼き始めた。
料理の勘がいいのかもしれない。
俺は燻製肉作りの現場にありったけのジップ○ックとキッチンペーパーを持って駆けつける。
塩水に漬け置きした魔物肉をキッチンペーパーで拭きお手ごろな大きさに切りジップ○ックに入れ茹でる。だいたい20分ほど茹でたら、湯から上げ10分ほど休ませ熱を取る。
そして燻製。約半日。ジワジワじっくりと燻す。
エルフの奥さん達が請け負ってくれたので、今度はボアのフォン(ダシのような物)作り。灰汁を片手鍋にすくって棄てるのを繰り返す。
途中でレニヴァル君が呼びに来た。
「それやるんで、パンケーキのタネ作って下さい!全部焼きました!」
「ありがとうレニヴァル君」
すくう所を教えてスフレパンケーキのタネ作り。
タネ作りが終わったら、フォンの灰汁取りに戻る。
なかなかのカオス具合だ。
フォンを煮詰めていいお出汁が出ました!
骨を巨大鍋から苦労して取ってると、レニヴァル君が漁に使う網を持って来た。
見事に網で骨をすくい取った。
「レニヴァル君って、頼りになるなあ…」
「シンジ様のお役に立ててなによりです!」
フォンに乾燥ハーブ、塩コショウで味を整えて、なんちゃってスープの出来上がり!
さて、タマネギのみじん切りをしてる隣で硬くなったパンをミルクと溶き卵に漬けてふやかす作業をレニヴァル君にお願いした。
何のことはない、ハンバーグを作る。
ミンチ、塩コショウ、ふやかした硬いパン、ミルクと溶き卵、みじん切りにしたタマネギをレニヴァル君とエルフの奥さん達に手伝ってもらって混ぜて大きな小判型に成形。
フライパン3つで次々焼き、皿に乗せて行く。
匂いで集まって来たエルフの男達に渡す。
スープも勝手にすくって飲めとコーヒーカップを渡すと、広場が混雑している。
エルフの奥さん達が炊きたてのご飯をハンバーグの皿に盛り付け、食べたエルフが「美味しいいいいいいい」と絶叫している。
奥さんと、子供達にはスフレパンケーキをレニヴァル君が配っている。
「シンジ様!!美味しい!フワフワで甘~い!」
そうか、そうか、よかったな。
皆、笑顔だ。
でもパンケーキ1枚じゃ足りないよなぁ。
すると広場のあちらこちらで男達が子供達にハンバーグを分けている。
俺は夕方までハンバーグを焼き続けた。