食材特化型ダンジョン
「これがわしらの記憶から作った種じゃ。ダンジョンにわしらが植えても芽吹くことが無かったんじゃよ。最初はシンジにして貰わんといかんらしいの」
ヨークヴァルさんは木箱に様々な野菜の種を端布に種類ごとにくるんで持って来た。
「ありがとうございます。ヨークヴァルさん。助かります。稼がないと種も買えないんで、助かりました」
ヨークヴァルさんはため息を付くと眉根を寄せて問題点を挙げる。
「懸念した通り、魔物がゴブリンしか見なくなった。狩り尽くしたんじゃよ。馬鹿共が…」
「じゃあ、2階層は食べられる魔物にしましょうか?早速創って来ます」
そういうと同時に俺の視界が赤く点滅し始める。
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【スタンピード、始めますか?YES.NO】
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スタンピードって何だろう?
ヨークヴァルさんに聞くと真っ青になった。
「魔物達の大暴動の事じゃ!数十万超えの魔物達相手にわしらじゃ戦えん!死ぬ!」
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【数は調整出来ます。マスターのレベルが低いので、せいぜい500頭程度で、魔物達もヨワヨワです。
角ウサギ、スマッシュボア、時々ホーンディア。始めますか?YES.NO】
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ヨークヴァルさんにそれを伝えると、明日の日の出からスタンピードすることになった。
日時の予約設定を済ませると起きたレニヴァル君と天の岩戸ダンジョンに行く。
途中でレニヴァル君がゴブリンを撲滅しながら天の岩戸ダンジョンにたどり着く。
エルフ達がダンジョンいっぱいになった稲穂を刈りいれしている。
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名前 ダンジョンマスター稔司(亜神)
ダンジョンレベル 2
マスターレベル 1
ボーナスポイント 0
所持金 18000円
スキル 植物育成レベル1.時空魔法レベル1.土魔法レベル1.水魔法レベル1.召喚魔法レベル4.送還魔法(NEW!)レベル1
今日できる事 無し
農業指導 五味稲作
【指導を受けるには所持金が足りません!】
レニヴァルの献身 120%
【100%を超えると無料でユーバリン神からスキルがプレゼントされます】
☆プレゼントスキル☆
スタンピード レベル1(1ヶ月/1回)
スタンピードできる魔物 角ウサギ.スマッシュボア.ホーンディア
【スタンピード明日6の刻起動待ち】
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「……お金が足りません?ああ!」
「……もうすぐ里に商隊が着きますから、米を売ったお金が手に入ります。お金が必要なのですか?シンジ様」
ジッと俺を見つめるレニヴァル君に説明する。
「ダンジョンに直接、育成方法を教えてくれるおじさんに支払う日当が必要何だ」
「……幾らぐらいですか?」
「1階層作成で15万円くらい」
「マンイェン?え~と、ミアロス帝国の貨幣はミロアです。町では、一つの黒パンが300ミロアです」
「黒パン?それ美味しい?安いの?高いの?」
するとレニヴァル君は顔をしかめて、はっきり言った。
「焦げてて、腐ってるのかと思うくらい酸っぱくって高いです!」
多分、酵母がビールの酵母か何かで、ライ麦のパン?かな。砂糖なんて使って無いんだろうな。
「じゃ、安くて美味しい庶民的な味の物はいくら?」
「ん~、シンジ様が作った串焼きの香草が無いのが1本200ミロアです!あ、シンジ様の作った串焼きとは天地の差の味わいですからね!」
ふはっ、レニヴァル君が面白い。
という事はパンは500円くらいかぁ…
「だいたい9万ミロア欲しいんだけど」
「……それは、帝国の食糧事情にもよりますね。高く売れるといいんですが」
「ん~、お米って街の方でも食べてるの?」
「食べてますよ。普通に」
稲の刈りいれが終わったのか、ダンジョンの入り口向かって大人エルフ達が上がって来た。
「シンジ様!米をありがとうございます!レニは知らないんですが、米は平民の食べ物でそれ程高く買ってもらえないでしょうね」
聞こえてたんかい?!
「1袋で幾らぐらいですか?」
麻袋に入った玄米を肩から降ろして、まずは、自己紹介する紳士エルフ。
「村長イチゲンフュールが一子、ロクシターナと申します。つい先日、勇者との旅から解放されてやっと里帰り出来た所です。…レニ、シンジ様と2人で話したい事がある。少し席を外してくれ。不埒な真似はしないと誓う」
ロクシターナはレニヴァル君に優しく言い聞かせた。
「イヤです!」
レニヴァル君俺は男に興味ないよ?
「ロクシターナは両性具有です!」
「ああ、ふたなりね。イチモツが付いてるだけで、恋愛対象外だからご心配無く」
ロクシターナさんは、泣きながら俺に訴えた。
「ふたなりキターーー!!とか言わない!あの地球から来た女勇者無茶苦茶怖かった!水浴びは常に覗かれるし!山賊が出て苦戦してたら息が荒くなって助けてくれないし!一度騎士に乱暴されそうになってたら、スケッチし始めるし!だから、私は、勇者パーティーの中で一番強くなるしかなかったのです!
勇者は私の方見て不気味に笑うこと数え切れない!自分の事を【貴腐人】と言い男同士で話してるだけで勝手に恋人関係にする!
気持ち悪いから里帰りしてハーレムを築きたいとウソをつき、やっと解放された途端目の前にまた地球からの亜神!!
しかもレニに早速手をつけたと聞き、何とかレニ1人の犠牲で済ませるようにと勘違いしていた私たちをお許し頂けますか?」
あぁ、高校時代に居たな、腐ってる女子。
「災難だったな。安心してくれ。レニヴァル君の事も責任を取って家族として大切にはするが、欲望の対象外だから」
地球人=変態と思われたくない。
ロクシターナさんをなだめながら、ダンジョンの入り口の岩に座り、地球の事情にある程度詳しいロクシターナさんとレニヴァル君と俺でダンジョン開発について話し合う。
「どうも、勇者に聞くには、里で創った種を育てても地球の野菜とはほど遠いそうです。勇者のワガママで、地球の野菜の種を育てたことがあるのですが、食べたのは勇者だけでした。私たちにはあんな毒々しい色の野菜を食べる勇気はありませんでした」
毒々しい色?ナスとかかな?
「なんて名前の野菜だった?」
「……確か、トマト?と、パプリカ、あとはカブの仲間だとか言ってましたね。あとはマンドラゴラもニンジンだとか喜んで食べてました」
……うわ~。明るい色の野菜は毒々しいのか!ニンジンとマンドラゴラが似てる、と。
こちらの野菜を試してダメなら地球産の野菜を育てる事にしよう。
一度だけ試食させれば美味しいってわかるだろうから、街で試食販売するか。
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【マスターは神域から一歩出たら死にます。ダンジョンから離れて活動出来ません。里で動けるのは元、神域だからです】
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マジか…。詰んだな。
待てよ?俺にはレニヴァル君がいるじゃないか!
「レニヴァル君に協力して欲しいんだけど?」
「私でお役に立てるなら!どんな事でもします!」
おお!眩しいばかりの崇拝。
あまり寝ずに看病してくれてたみたいだし、俺の誤解が少し解けたみたいで嬉しい。
まずは俺を知って貰おう!
「俺ね、15才から18年間、料理人として地球で働いて来たんだ。だから、少しは料理が得意なんだ。俺の弟子になってアンシャルムの食糧事情を解決しよう!」
ロクシターナさんもレニヴァル君も目を見開いて言葉を無くしている。
レニヴァル君の手を取り、そのエメラルドグリーンの瞳を見つめて、柔らかにしっかりと伝える。
「ダンジョンで食材を生産して、飢える人がいない世界を作ろう。まずはこの里から」
「……シンジ様…ありがとうございます。まずは里から!頑張ります!」
レニヴァル君は協力してくれるようだ!
ロクシターナさんは美麗な自分のアゴを抓んで考え込んでいる。
「シンジ様。それは神域を広げるという認識でよろしいでしょうか?」
「うん。森を広げるようにユーバリン様から命令されてるからね。植樹も進めて行くよ!」
「ユーバリン神からの託宣ですか!解りました!村の者で情報を共有します!では失礼します!」
ん?何か大ごとになったか?