ダンジョンマスターとは
夜はさすがに森は危ないからとエルフの里のレニヴァルの実家に泊まらせてもらった。
ホーンディアというシカの魔物を狩ってお土産にすると、大歓迎してくれた。
11人家族のレニヴァルの実家は、幼い子供達とお年寄りだけで、狩りなどに行けるのはレニヴァルだけだったらしい。
ヨークヴァルさんも腰を悪くしていて、里の中をうろつくのがせいぜいらしい。
鹿肉の果実酒煮は、大量に作ったのにペロリと無くなった。満腹になった子供達が雑魚寝している居間の隅に呼ばれた。
ヨークヴァルさんが、ローテーブルを組み立てて木の板の床の上に直に座って木のコップを差し出す。
「すまぬな、シンジ。木いちごの果実酒しか嗜好品が無いのだ」
「俺にはごちそうです。いただきます」
コップ一杯分ちびちびと飲んでいるとヨークヴァルさんが疲れた顔で呟いた。
「……もうこの里は終わりじゃ」
ギョッとした。
「これからですよ!ヨークヴァルさん!森の恵みもありますし!」
「この里には1000人のエルフが居る。森の恵みもいつまで保つか、ひと月保てばいい方だろう。神域には、何があろうと手出ししてはいかんとオババ様達がキツく禁じて来た。今日一日で800匹近くの魔物達が狩られた。これには村長も仰天している。今日の糧だけ獲らせるつもりが、皆、保存することを考えて多く狩ってきたのじゃ…もう、後戻りでき無い。シンジよ、どうか、わしらを助けてくれ」
ヨークヴァルさんは深々と頭を下げた。
「協力します!何が出来るかわからないので色々お話しを聴かせて下さい」
聞けば聞くほど悲惨な話だった。
ここも神域の一部だったが輪作農業がこの世界では確立されて無いらしく気が付けば不作の年が続き、狩りで生計を立てるようになり、肉食になると精霊魔法が使えなくなった。弓矢と剣で何とか糊口を凌いで来た。
やがて里は荒れ地になり今では出稼ぎに行ったきり帰って来ないエルフが490人もいるらしい。半数以上が出稼ぎ先で奴隷として売られたという。
話しが聞こえるのかレニヴァルが起きて来た。
「じいちゃん、私も聞いていい?」
「レニ。シンジはまだ使徒になって日が浅い。分からないことがあればお前が教えてあげなさい。それでも分からないなら、いつでも相談に来るんじゃぞ?」
「はい!大好き、じいちゃん」
翌朝、起きると俺の心は決まっていた。
レニヴァルを連れて天の岩戸ダンジョンに行き中に入った。
その途端目の前にステータスボードが現れた。
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名前 ダンジョンマスター稔司(亜神)
レベル 0
所持金 20万円
ボーナスポイント 0
スキル 植物育成レベル0.土魔法レベル0.水魔法レベル0.時空魔法レベル4.召喚魔法レベル1.料理レベルMAX
今できること 所持金を使った1階層作成
用意出来る種 稲一斗
用意出来る益獣 鴨10羽
【始めますか?YES.NO】
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「…YESだろ!」
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【各魔法を解放します。……読み込み中】
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「あの、何を叫んでらっしゃるのですか?シンジ様」
あ、しまった!レニヴァル君から見たら変な人だよな!
「今、ダンジョンの一階層から作り直してるんだよ」
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【召喚魔法解放*五味稲作召喚。農業指導歴史50年一日一万円で交渉成立】
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「え?」
ダンジョンの一階層をトラクターで耕してる麦わら帽子を被ったおじさん登場。
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五味稲作「思ったより広いから機械で植えてくから手間賃弾んでくれ!あと、水場はどうした?!」
【わかりました。手間賃15万円でいかがですか?】
五味稲作「一日で15万円か!契約だ!姉ちゃんは用水路作ってくれ!」
【了解しました。土魔法解放、続けて水魔法解放。魔力切れに注意して下さい】
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体中が熱い!凄い勢いで出来る用水路。
シュゴゴゴーー!!
体から力が抜けて行く。
用水池も準備が出来た!頑張れよ俺!気絶したらどうなるんだ?
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【15万円が無為に消えます。時空魔法解放】
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「ギャアアアアアーー!!ま、負けるものか!」
「シンジ様!シンジ様!大丈夫ですか?!もう、止めた方が」
俺の15万円をドブに捨てるか、どうかの別れ目!!俺は目を見開き、歯を食いしばり、ウ○コしながら踏ん張る。
その間にもおじさんは様々な機械を駆使して田んぼを作成。
時空魔法で半年が稲の成長と共に半日で刈りいれまで終わる。
は、ハァ~終わったあ!
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【送還魔法を覚えました!五味稲作を地球に送還します】
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シュゴゴゴーー!!
「ァア?!アアアアアアア!!」
「シンジ様!!シンジ様!!死なないで!」
泣きじゃくるレニヴァル君の声。
暗くなる視界。
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【レベルアップしました!
レベルアップしました!
レベルアップしました!
レベルアップしました!
レベルアップ……】
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ガンガン頭が痛い。
米の炊ける良い匂いがする。
「シンジ様、どうか目を開けて下さい…グスッ、グスッ」
「レニヴァル君、生きてるから、心配無い」
ヨワヨワの声をかけるとレニヴァル君が、板の間に横たわる俺に抱きつく。
「ウワァアアアーン!1ヶ月も目を覚まさなかったんですよ!バカバカバカバカ!!」
「グハッ!首が絞まる、た、助けてくれ!」
「これ、レニ。病人だぞ?だが、シンジも悪い!う○こまみれの下着は洗っておいたぞ」
グハッ、吐血死できるぜ。恥ずかし過ぎる!
お粥が差し出されてお腹が鳴る。
お代わりしたかったけど、あんまり絶食後にがっつくと死んじゃったりするらしいからガマンガマン!
「シンジ、米は皆で分けた。ありがとう」
「お米食べた事あるんですか?よかったです」
ニコニコのヨークヴァルさんが驚きの報告をしてくれた。
「あの米を食べたら、精霊魔法が使えるようになったんじゃよ!だからダンジョンで米を育てておる。皆張り切って育てて、あれから3回目の収穫を迎える。ありがとうシンジ」
3回目?
「皆さんひょっとして植物育成か、時空魔法が使えたりします?」
ヨークヴァルは胸を叩いて自慢げに言う。
「植物育成はエルフの十八番よ!そうか、シンジは時空魔法何か使えるから1ヶ月もぶっ倒れてたんじゃな、今度ダンジョン創造するときには手伝わせてくれねぇか?」
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【無理です。最初はマスターの仕事です】
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淡い期待が粉々に壊された。
「ヨークヴァルさん気持ちだけ受け取ります。何か作るのは最初のテコ入れは俺がやらなきゃいけないみたいなんで、また、ぶっ倒れたら、お願いします」
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【ソレなのですが、ダンジョンにいたら3日程で自己治癒しますよ】
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「……レニヴァル君、君には迷惑かけたね?ありがとうございます。でも、ダンジョンにいたらすぐ治るみたいなんでぶっ倒れてもダンジョンに寝かせて置いて下さい」
レニヴァル君は俺の腕を枕にして眠っていた。
「そうじゃったか、後で言って聴かせておく。レニが起きるまでに、色々と話があるでな、渡したい物もあるしの!」
ヨークヴァルさんはそういうと席を離れ、部屋を出て行った。