2章12話 怒りと哀しみ
「「「「「シンジ様!!ダンジョンの入り口を里の外に出せませんか?!」」」」
「やってみる。昼まで待ってくれる?」
「「「「「ハイ!」」」」」
深夜、神殿まで乗り込んで来ての直訴に至る過程は里開きからたった3週間に冒険者達が起こした様々な罪が降り積もっての事だと判らない程鈍くは無い。
わざわざレニヴァル君達が居ない時を狙ってのお願いを聞かない程、人でなしでは無い。
「つまり、里に入れたくないんだよな?」
誰に言うともなく呟く。
神様お悩み相談箱に手紙を入れる。
ユーバリン神様にボーナスポイントと引き換えに転移陣を里の入り口に置いてくれるよう、お願いしたら返事があった。
【永久になら~、1億ポイントを超えるよ?カティスが引き換え条件付きでダンジョンまでの冒険者達専用の道作ってくれるって~!
今~、稔司のツケで素材採りに行ってるから稔司はダンジョンの入り口を下げておいて~】
お礼に今作った麻婆なすと回鍋肉とエビチリと炊きたてご飯を二人分お悩み相談箱から送る。
食べたくなって小篭包を作っていると神官棟からレニヴァル君が神官服の前身頃を合わせながら帯を片手に走って来た。
「お、色っぽいな?どうした」
「さ、里の入り口に技巧神様が降臨なさって、すごい勢いで何か作ってらっしゃるのです!!」
「ごめん、言ってなかったな。冒険者達が里の中で天罰恐れずに好き勝手し過ぎだからさ、冒険者達が里の中に入れないように工事してもらってんだ。ゆっくり寝てなよ。レニヴァル君」
「それならそうと、言って下さい!御神酒を用意して参りますから、稔司様はお酒のつまみをお願いします!」
里への転移陣に乗って行ってしまったレニヴァル君には悪いがそんなに良い食材があまりない。
穗高君が昨日焼いたバゲットをガーリックトーストにして、保存してたブイヨンでオニオングラタンスープをつくり、主菜に今朝レニヴァル君達、神官が焼いたピタパンにひよこ豆のサラダとレタスを詰め込む。パスタはボンゴレビアンコ、ペペロンチーノ、アスパラのケバブ風にキュウリのピリ辛漬け、トマトを器にしたトマトのファルシ。
気が付いたら、レニヴァル君が、人化して俺くらいになった技巧神カティス様をもてなしていた。あっという間に料理は無くなり〆の小篭包で終了。
「餃子が食べたい」
「30分待てますか?」
「次にする。座って飲め!」
失礼して上座の隣のイスに座る。
カティス様にお酌して小篭包を進める。
ぐ~~~~~っ。
顔を真っ赤にしてうつむくリップ君に後ろ手に小篭包を2つ渡す。
リップ君は神殿から出て行った。
「私の妻は妖精で、そろそろ命が終わるのだが、妙なことを言い出した。願い事を叶えてやりたいのだが、言ってるのが荒唐無稽で困っている。助けてくれないか?」
「俺で叶えられる願い事なら必ずお力になります」
「妻はハチミツと花の蜜が主食なのだが、金や宝石を食べたいというから小さくして飾り付けて食べさせようとしたら、【食べられないし私の食べたいのと違う!】と会ってもくれないんだ」
レニヴァル君が口パクで「わかった!」という。
「いつ、用意すれば?」
「明日の昼に迎えに来る。ではな」
「今日はありがとうございます!」
カティス様は一つ頷くと天界に帰って行った。
まずは、レニヴァル君と実李君にお使い魔法で日本で買い物してきてもらう。
レニヴァル君とお話したらなるほど、と納得した。
神様お悩み相談箱にカティス様宛ての手紙を出して、明日の下準備をしていただく。
エルフ達にも手伝ってもらって花の蜜や、ハチミツを集めてもらう。
その間に俺はダンジョンの入り口を下げる作業をするが、ユーバリン神様が創造されたからか力の差があり過ぎて動きもしない!
仕方なくエルフ達が要らない土や石、岩を仮置きしてる場所から素材を借りて来てカティス神様が作った道までなだらかな坂道を創造した。
植物育成魔法で芝生を植えて馬車が通ってもいいようにする。
ふう~、くたびれた。
ダンジョンの外の作業は神力を一気に使うからぶっ倒れそうになる。
神殿でレニヴァル君達が帰るまで少し休もう!
☆☆side???☆☆
今日も来てくれなんだか……
無茶なお願いをしたら毎日私の所に来て、あれはどうだ?これはどうだ?と日替わりで宝飾品を持って来て愛情を注いでくれると信じてたのに!
「まさか、本当に宝飾品を姫様に食べさせようとするなんて言語道断です!」
「姫様に相応しい神様ではなかったのです。明日の夜には本国の王太子様が姫様に妖精の秘薬を持って来て下さるのですから、不細工な神のことなど忘れてさぁ、眠りましょう!」
まさか、そんな会話をそこに居た技巧神カティス神が聞いてるとも思わずに夜は明けていく。
**side稔司***
「稔司様、お上手です!」
「ふあ?!マジで料理チート!!」
飴細工は先生がよかったのだ。
目の前にはハチミツの飴を琥珀に見立てて作った指輪やネックレス、クラウンなど色々ある。今はカティス神と金箔を金細工部分に竹串をピンセット代わりにして貼り付ける細かい作業をこなしている。
ヨシ!!出来た!
後は里のバラで作った薔薇ジャム。同じく里のミントと花の蜜とダンジョンの寒天で作ったナスタチュームを飾り付けたゼリー。
たくさんの妖精達で食べられるように飴細工以外は数百個づつ作った。
アクセサリーケースはカティス神様が持って来ていた。
「妖精の里に行って給仕を手伝ってくれるエルフはいないか?」
「美形を見繕って参ります!15分下さい!」
レニヴァル君が張り切っている。
お菓子を持って行くはずのカティス神様が俺に頭を下げる。
「ありがとう。俺に勇気を与えてくれた。何か困ってる事はないか?道を造るだけではこの恩義に見合わない」
「いえ、ものすごく助かりました!奥さんの人生に彩りを与える一日を俺に託してくれた栄誉をきっと、一生俺は忘れないでしょう。ありがとうございますカティス様」
集められたエルフ達は皆使者の着る特別な衣装を身につけていた。
顔面偏差値天井知らずのエルフ達100名がカティス神様と献上品を持って妖精の国へ転移する。
「レニヴァル君も行ったか」
しかし、使節団はカティス神様と一緒にすぐ帰って来た。
「早かったね。レニヴァル君。贈り物は届けた?」
エルフ達は全員キレている。
カティス神様も黙っているので雪柳に誘ったら使節団も皆付いてきたから俺はカウンターの中で政美さんと晴海さんを手伝うのにした。カティス神様にはカウンター席に座ってもらってグチでも何でも聞くつもりだった。
カティス様はお寿司を大切に味わっていて微笑みながら静かに涙を流していた。
「稔司、ありがとうな?」
「はい。カティス様。今日は餃子も作っておりますよ。たくさん召し上がって下さい」
情けない!俺はこんなことしかカティス様に出来ないのか!
「稔司」
「はい!」
カティス様はもう泣いてなかった。
「俺は友がいない。……こんな見た目だからな」
「それは古の神様だから、皆さん近寄り難いだけです!カティス様は男の子からするとかっこいいです!」
隻眼に黒の眼帯、格闘家のような筋肉質の良く日に焼けた体。顔付きはコワイが整っている。酒場の姉さん達には人気だろう。
「……そうか?稔司、友になってくれないか?」
「俺でいいなら、友達になりましょう!」
初めての神様の友達。良いことも悪いことも食べて飲んで騒いで乗り越えて行こうよ。
そういうと涙もろいカティス様はまた、泣いていた。