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2章9話 寿司屋の事情(中)

◆◆◆side柳政美◆◆◆

寿司屋の修業は毎日新しいこと尽くめで楽しくて仕方なかった!

シャリの作り方から始まって、1ヵ月でネタの仕込み、更に1ヵ月で寿司の握り方を教わって半年が経った。

 一つ変わった事があるとしたら、南さんが良くウチ飲みに来るようになった。

「レニちゃん、ワインをもう一杯!」

「レニ、俺も、もう一杯!」

「酔いざましを用意しますね」

 レニは即効性の酔いざましを作ってくれるので二人ともべろべろになるまで飲んでも大丈夫だ。

「で?大事なお話があるんじゃなかったんですか?南さん」

酔いざましの黄色いシロップを南さんに渡すレニ。

 南さんはそれを一息に飲み干すと俺に言った。

「明日からお前はお前の店をやれ!初日には手伝ってやる。生意気な弟子も2人付けてやるから、頑張って宣伝してみろ!

 ここなら立地がいいし、花街にも近いから芸子さん達と鮨食いながら一杯やるのにいいだろうよ!開店日が決まったら、連絡しろ」

「南さんに迷惑かけるわけにはいきません」

「うるせー!!!オメェは俺の弟子何だよ!グダグダ言ってんじゃねぇ!迷惑かけとけ!そんでもって、有名になったら、俺の弟子だって宣伝しとけよ!」

 レニが片手で口を隠して噴き出してる。

俺も楽しくなって「ハイ!南さん!」と大きな声で答えた。


☆☆sideレニヴァル☆☆


どんなイタズラか判らないがアンシャルムに帰れなくなって35年が経った。

髪を黒く染め、カラーコンタクトレンズで目の色を変えて名前も日本風に「れい」と変えた。政美の店で接客担当として働いてもう33年が過ぎた。

政美は何故か独身で20年前に養子を貰い、厳しく息子として弟子として育てた。

当時14才だった晴海くんはよくぞ曲がらず真っ直ぐな潔い青年になった。今では和美さんという会計士のお嫁さんが居て、7才の娘と5才の息子がいる。

政美は孫2人に何でも買い与えるダメなおじいちゃんで時々キレた晴海くんに怒られている。

 

古民家を改装した寿司屋は外国人観光客で溢れていて、いつも忙しい。

 もうすぐ春休み。アルバイトの学生が来る。

 もうそろそろのハズだ。稔司様が雪柳に修業に来るのは。

 昨日、お寿司を食べに来てた時にはお茶をこぼしそうになった。

ご家族で来てたのか和やかな雰囲気だった。

政美とも楽しげに話していた。

 しかし、春休みには来なかった。

がっかりしてる私を政美と晴海くんが心配する。

夏休み前にかかって来た電話に出た政美は、電話を切るなり私に文句を言った。

「それならそうと、教えてくれ!レニ!春休み来るって言ったとき断っちまってたんだぞ!一人で落ち込む前に相談しろよ!

誠一と稔司、両方引き受けたけど、どちらにせよ扱いてやる!レニに35年も待たせやがって!!!」

「あ、政美?!お手柔らかにお願いします!」

「フン!やだね!」

「父さん、学生さんいじめちゃ駄目だよ?」

「晴海、レニに好きな奴が出来たんだよ」

晴海くんはおもむろに包丁を研ぎはじめた。

「へぇ?どんな料理人?」

「フレンチレストランの小せがれだ。ウチに明日から修業に来る」

何故か政美まで包丁を研ぎはじめた。二人とも研いだ包丁を睨みながら同時に言った。

「「俺達が見極めないと、ね?」」

いや、何する気ですか?!二人とも!!


翌日、如何にも良家のお坊ちゃま風の2人の高校生が来た。

「青空誠一です!高2です!よろしくお願いします!」

この方が稔司様のお兄様。

上品な顔立ちをしてますね。それなのに、体育会系のご挨拶。年相応で可愛らしいですね。

稔司様は何故かやる気が無い感じだ。

「青空稔司です。高1です。よろしく」

「稔司!何だ、その小さい声は?!頭ぐらい下げないか!!!だから一緒に来たくなかったんだよ!お前はブルースカイ財閥の恥だ!」

……前言撤回。こんな高飛車な奴は願い下げだ!稔司様がお可哀想。

政美も、晴海くんもあきれ顔を隠してない。

「あのな、ブルースカイ財閥は、今は関係ねえ!お前らは、ウチのアルバイトだ。真面目にやれば、それでいい」

「チッ!」

舌打ちする高校生。帰れ!

「じゃあ、米を洗って炊飯器に仕掛けろ!」

「何升ですか?」

「3升炊きに2つだ。1人一つ担当しろ!」

稔司様が信じられないことを口に出す。

「おじさん、米はどの洗剤で洗うわけ?」

「アーハッハッハ!バカだ、バカだと思ってたけど、米を洗剤で洗う~~?お前、このバイト辞めろよ!2度と来るな!」

政美は暴力は嫌いだ。

 しかし、躾けには厳しい。

誠一にゲンコツした。

「痛っ!な、何をするんですか?!」

「誰にでも初めてはある。聞いてくるだけマシだ。それにお前さんにウチのアルバイトのクビを決める権利は無いし、笑ったり、けなしたりするより、教えてやればいいだろう?仲間は大事にしろ!次にこんな事をしたらお前さんに辞めてもらう」

「パパに言ってやる!」

「あ、そう。クビだ!帰れ!」

「覚えてろよ!この僕にそんな事を言ったのを!」

リュックを手に玄関から出て行った。

稔司様は馬鹿兄が途中まで洗っていた米を磨いで炊飯器に仕掛けてから、政美に水をどのくらい入れたらいいのか聞いている。

政美は水の位置を稔司様に教えると稔司様にデコピンした。

「……テメェ、米研ぐのも炊くのも慣れてるだろ?!ガキが小ざかしいウソついてんじゃねえ!」

確かに、目盛り通りに普通は水を入れるが、寿司飯にするご飯は少し固めに炊くので水を控えなければいけないし、3升のお米を素人さんが洗うのはちょっと大変だ。時間がかかって米が吸水してしまう。

 稔司様のお米の研ぎ方は両手を使ってリズム良く。見慣れてたから政美に指摘されて気付いた。

稔司様は先程までの投げやりな様子が無くなり私が良く知る稔司様の真剣な眼差しをしています。

 姿勢を正した稔司様は政美に深々と一礼した。

「兄がご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんでした!」

「まあ、あんなのが兄貴で大変だろうが、俺達はあれこれ言わないからお前さんはお前さんで頑張れや」

「アルバイト、私が続けてもいいでしょうか?」

「ほら、米洗って仕掛けろ!」

「ありがとうございます!」


稔司様はとても努力家でいろんな予習をして来ます。中でも柳一家を驚かせたのは寿司魚の裁き方が完璧に近かったことです。

 滅多に弟子を褒めない政美が手放しで褒めちぎっていました。

 稔司様の照れた顔が見られて可愛らしかったです。

 稔司様がアルバイトし始めて1ヵ月が経ちます。稔司様と休憩時間が同じになりました。

 稔司様がつまんでいるお菓子が気になった私に気付いたようで、袋ごといただけました。

稔司様がマヨネーズを作った残りの卵白でいつも作って下さるメレンゲの焼き菓子。

 上手に焼けてます。

「甘さはどうかな?玲さん」

「少し控えめですね?もうちょっと甘い方が良いです」

「そう、ありがとう」

 稔司様お菓子作りも好きなんですね。

「……玲さん。俺、いろんな料理が作れる料理人になりたいんだけど、兄貴が、パティシエになれって言うんだ。そうしたらブルースカイホテル内にパティスリー部門を立ち上げて俺に任せてくれるって言うんだ」

 それは、体の良い厄介払いじゃありませんか?!あの愚か者、許すまじ!

「稔司君、私や貴方のお兄様の意見に惑わされないで下さい。貴方がやりたいことは貴方が1番知ってるでしょう?まずは、お父様にお兄様の意見も含めて相談してご覧なさい。貴方が夢に近づく時、お手伝いぐらいは私が、して差し上げますから」

稔司様は私にはにかむように笑顔を見せる。「ありがとうございます」

可愛い稔司様。貴方の為なら50年、100年見守るくらい簡単です!

 子供な稔司様は私が守って見せます!

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