異世界へ
「ここが異世界かぁ…」
空気がおいしい!
まるで世界遺産の森の中みたいだ。
人の手に犯されてない無垢な自然が美しい。
魔物に会うたびビクビクするけど神様の魔除けが効いてるのか魔物が素通りして行く。
まるで何も居ないかのように。
「災難であったな。我が社を守ってくれてありがとう」
緑の肌の炎を背負った男前が立派な着物を着てぐちゃぐちゃになった俺を見下ろしている。
近くでは、救急車両のサイレンと小学生達が号泣しているのが聞こえる。
「しかし、勇者召喚に失敗したら、予定にない死人が増えるだけではないか!この責任はそちらで取ってもらうぞ!ユーバリン殿」
「……わかったけど~、今募集してるのはダンジョンマスターしか、空きが無いもんね~。勇者召喚なんて、もう150年は出来んしな~」
チャラそうなオレンジの短髪の美青年がそう答える。緑の肌の青年がぐちゃぐちゃになった俺に触れて痛みを無くしてくれた。
ユーバリン殿に俺を手渡すと、緑の肌の青年は御守りを俺の首に掛け「魔除けだ」と言い俺を撫でると消えた。
ユーバリン殿は俺を小脇に抱え面倒くさそうに空へと飛んで行く。
「まずは~、何の代償も無しに生き返れると思わない~。地球の神様の手前引き受けたけど~俺が失態を犯した訳じゃないし~、むしろ、アンシャルムの創造神だから敬うこと~、わかった~?」
さっきの神様だったのか!このユーバリン殿も神様!
神様を祀る気持ちは大切だが、俺、何の代償払うんだろ?
「こちらの世界では~、ダンジョンで活動する人間の生命力や魔力が~、神様への供物となる故にダンジョン創造に励めよ~!体が無いからダンジョンコアで形成してやろう~!」
ふっと、体が重くなった。
宇宙空間を飛んでいて、心なしか息苦しい。
「やれやれ~、お前は亜神だから人間とは構造が違うんだから~、これぐらいで息苦しい訳無いからな~?ほら、あれが俺の惑星アンシャルムだ~」
地表がむき出しになった2つの茶色の大陸と海の惑星。わずかに緑が残っている。
「うちは、焼き畑農業が過ぎて、元々少しだった森が無くなった~……出来れば森も復活させてくれると助かる~。…そうだな、木を一本植える毎にボーナスポイントをやろう~。ボーナスポイントがたまったら~地球から何かを取り寄せることが出来るようにしてやる~。あと、お前自身の強化に使えるようにするか~。魔除け付けてもらったけど敵対したら魔除け意味ないからな~、じゃ、ダンジョンの近くに降ろすか~。ダンジョンの事はダンジョンコアから教えてもらえるから、俺は長々と説明しない~。頑張れよ~俺達の為に~」
あ、ウソだろ?亜神って何だよ?何で高校生時代に若返ってるんだよ!
色々ツッコミ処があるが、俺はこうして異世界転移した。
森はそれ程続かず30分程歩いたら、里に出たが汚い泥水が流れる川があり、そこで洗濯している第一村人発見!
恐る恐る話しかける。
「すみませーん!この近くに【ダンジョン】ありませんか?」
洗濯してた小学生ぐらいの少年達が、一斉に俺を凝視した。
その中でも特別な美少年が俺に近づいて来た。
「今、森から出てきた?」
「うん、ユーバリン様に降ろされてダンジョン探してたけどどこか判らなくて気が付いたらここに出てた」
あっ!この子達耳の先が尖ってる!これってエルフ?!
思わず手を伸ばしてその耳を抓んだ。
殴られた。イテェーー!!
「いくらユーバリン神様の使徒でも、やっていい事と悪い事がある!」
「ごめんなさい!」
美少年は泣きながら走って里に帰って行く。
それを見ていたかわいい子供達も耳を手で隠して一斉に俺から逃げた。
どうしよう?嫌われた!
そうだ!大人を探してみよう!
里に入るとよそ者が珍しいのか、いずれ劣らぬプラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳の美男美女エルフ達が、ジロジロと俺を観察している。
しかし、人が多いな?皆さん頬が痩けてて体つきは細すぎる。
「すみませーん。この近くの【ダンジョン】に案内してくれませんか?」
「レニヴァル様を泣かせたな?色キチガイ使徒め!」
「色キチガイ?!いえいえ!!滅相もありません!そんな気持ちはこれっぽっちもありませんから!」
「近づくな!皆!!耳を触るつもりだぞ!」
俺を中心に空き地が出来た。
耳触るのって、何かやばかったのか?やば~い。俺ってマナー違反よくやるんだよね。
フランスで路上喫煙して警察に捕まったし、バンコクでは、タバコのポイ捨てして捕まったし、だから、禁煙したんだよなぁ。13年前のあれこれを思い出して苦笑していると弓矢が頬を掠めた。
「え?」
白髪の紳士エルフが弓を構えて出てきた。
「堕ちた使徒よ!お前を殺して私も死ぬ!」
「ヨークヴァル!落ち着け!!レニヴァルを嫁がせるのは、業腹だろうけど村に取っては、利益になる!それに村の食糧難が解消するだろう?」
ヨークヴァルと呼ばれた弓矢のエルフは弓を降ろすと肩を落として男泣きし始めた。
「嫁がせる、ってどういうことですか?」
「やはり、死ね!」
暴れるヨークヴァルさんを村人総掛かりで押さえつけて、俺は違うエルフに村長の家に連れて行かれた。
そこには泣き腫らした目のレニヴァル君がいて白髪の大人エルフの隣に座っていた。
「ようこそ使徒様。我が里にいらっしゃいました。レニヴァルが気に入ったようですね。嫁がせましょう。しかし、タダという訳には行きません。神域での狩りの許可を求めます」
「イヤ、それ誤解なんで!好奇心で触っただけで男の子を嫁に貰おうとか考えてないから!」
「そんな言い逃れが通用するとでも?この世界では、耳に触るのは、両親と伴侶のみ。人前で触るなぞ強姦したも同然!
レニヴァルは傷物にされたのです!責任は取って貰いますぞ!」
「えぇーー?」
神域とはユーバリン様に降ろされた森のようだ。ダンジョンもそこにあるらしい。ユーバリン様に村長が許可を得ると弓矢と小さな風呂敷包みを持ったレニヴァルを受け渡された。
レニヴァルは両親兄弟姉妹に別れを告げ俺の手を引いて森に入って行った。
ダンジョンの入り口は天の岩戸みたいなエキゾチックな古代遺跡だった。ちょうどエルフの里から北上して1時間だ。
「レニヴァル君。そろそろ昼食にしようか?」
森に入ってからレニヴァルは大きな角の付いたウサギを弓矢で仕留めていた。
レニヴァルは角ウサギを渋々、俺に差し出すと俺がどうするのか、ジッと見ている。
ジビエの解体はお手の物だ。レニヴァルからナイフを借りて解体の仕方を詳しく教える。
心臓の所に綺麗な宝石があった他は地球のウサギと変わらなかった。
綺麗な宝石はレニヴァルにあげた。
「……いいんですか?」
「レニヴァル君が取ったんだものレニヴァル君の物だよ?」
「ありがとうございます」
自生してた香草を天の岩戸に来る途中で色々仕入れて来たので一口大に切ったウサギ肉に擦り込んでかまどを組み立てて木の串に刺して焼く。焼けた肉と香草の良い匂いが辺り一面に広がる。
レニヴァルのお腹がゴォオオと鳴る。
恥ずかしいのか真っ赤になったレニヴァルに最初に焼けた串を差し出す。
「え?でも…これは、シンジ様に献上した物です」
「子供は黙って喰ってりゃいいんだよ!他人に食わせるのが、俺の楽しみ何だよ!いいから食え!」
そこまで言うとレニヴァルも食べる気になったらしい。勢いよく齧りついた。
「んんん!!めちゃくちゃおいしいです!」
「そうか、そうか。もっと喰ってちゃんと太れ。どんどん食え!」
「はい!」
我ながら異世界に来て初めての料理だというのにこれ程美味しくて良いのかと自画自賛した。角ウサギの力強い野性味溢れる肉と爽やかな香草の味がマリアージュして何本でも食べられる。
惜しむらくは塩コショウが無い事だ。
「シンジ様。とっても美味しかったです!」
おお~!懐いた!
「水浴びに行きましょう!」
「あの川か?俺はいい」
泥水被るくらいなら汗をかかないようにジッとする。
「神域には、綺麗な泉があるんです。シンジ様と一緒ならそこが使えます」
「行く!」
里がホコリっぽかったから服も汚れてるんだよなぁ。
この天気なら夜までに乾くだろ。洗濯しよう。何で俺の服コックコートなのかな?
やっぱりイメージ何だろうか?
生前一番着てた服には間違いない。
泉には、徒歩10分くらいで着いた。
魔物の水飲み場だった。ちょっとしたホラーだ。
【そこを空けよ!】
レニヴァルが魔物達に伝えると、泉から一定の距離を置いて各々木陰で休み始めた。
「さあ、シンジ様からどうぞ」
「レニヴァル君すごいな?洗ってあげるから一緒に入ろう」
小さな頃は兄貴とよく洗いっこしてたので、その感覚で誘ったら青い顔をしてブルブル震えるレニヴァルを見て、まだまだ俺達の間の溝が深いことがわかったので慌てて取り消した。