2章7話 お仕事の時間です!
里開きが行われて2日目から冒険者達のダンジョンの攻略が始まった。
結局、全階層の緊急避難所になりそうな場所、数カ所づつにポーションと干し肉、干し果物を小さなセーフティーゾーンにまとめて置いた。
場所はエルフの精鋭部隊が思い浮かべた場所に俺が設置して来た。
深層は15ヵ所程、レベルが下がるにつれて小さなセーフティーゾーンは数カ所に。
全部で小さな宝箱ゾーンは400ヵ所を数えた。
一つの階層が広いのでエルフ達が作った地図通りにショートカットしても魔物が通せんぼして倒すのに時間が取られて、大体ダンジョン初日の冒険者達は進めて3階層のセーフティーゾーンで夜営してる。
良く見てると肌を露出した冒険者達は酷い虫刺されの被害に遭っていた。
仕方なく実李君が情報収集のついでに長袖のシャツと虫刺されの薬を差し入れてやっていた。
「ツリーキングビー、って言うミツバチが3階層に巣を作ってるんだってさ。刺されたら2倍以上に腫れるヤバい奴らみたい」
ハチミツ欲しい。
「実李君、冒険者ギルドにハチミツ採取の依頼出して来て!」
「何食わせてくれるの?!」
「ランニングコッコの丸焼き?そんな気分」
「ヨッシャー!」
実李君はすぐいなくなった。
「食べ物に目が無いのかな?」
それはある意味デブまっしぐらだ。
エルフの精鋭の非番の人は36階層で採取に励んだり、俺とレニヴァル君にダンジョンの不具合を訴えたりして過ごすのがデフォルトらしい。今日はエリックがお休み。
「めちゃくちゃつらかったのは、ミラージュリザードのいた26階層辺りですかね!アイツら、岩に擬態してるんですよ!!しかも動かないと気配が無くて紛らわしいんです。砂漠地帯で暑くてやっと岩陰で一息つけると思ったら化け物の巣だった、って言う最悪のオチ。さすがにあの時は死ぬかと思いましたね」
「お疲れ様です」
その感想を攻略地図に書くエルフの里の15人の文官の長アリアルドさん。
この人の書く字はとても綺麗で読みやすく、ウルシメズ大陸中の言語を自由に操るいわゆる天才言語学者だ。
今、書いてるのは大陸共通語だ。綴り方は中東の方の言葉に似ていて、実李君は読めるけど書いたらミミズが暴れてるような文字になったので、手伝ってない。
というか、実李君ってば、ダンジョン内で冒険者の悲鳴が上がると助けに行っちゃう世話焼きさんで、エルフ達も俺も呆れている。
また、冒険者達を助けているのかと思って翌日まで呼ばなかったら、強張った顔で36階層の神殿に帰って来た。
「ごめんなさい!危うくエルフ達共々、天罰喰らう所でした!」
そんな爆弾発言をした実李君を皆が事情聴取する。
「生意気な冒険者達でもブチ殺しちゃった?」
「悪意があっても、やって無いならこちらの被になりますから、落ち着きましょうね」
「いえ、稔司の眷族がダンジョン内で直接、冒険者達を助けるのは、神々が召し上がるいろんな感情が目減りするから、天罰ぞ、って言われました!ごめんなさい!」
「見逃して貰えたのは何故?」
生きて(?)帰って来たのには理由があるだろう。
「それが、よく分からないけど……今回だけ見逃してくれるって言われました!」
「レニヴァル君、ユーバリン様宛に3年物のワインあるだけ献上して置いてくれる?」
「稔司様のお料理もあった方が良いかと思いますが」
神官見習いのケティアルが滝汗を流しながら土下座した。
「3年物の在庫がございません!」
「ああ、いいよ。ケティアルのせいじゃないから。じゃ、今、収穫出来る果物で何か作るから1階層の店まで持って来てね。あと実李君もやさいを収穫してきてくれる?」
「「かしこまりました!」」
ま、そういうわけで久しぶりに1階層に行くと俺の店兼家がグレードアップしていた。
どう見ても新築2階建ての結構大きい宿兼食堂で、エルフの子供たちがお客様だ。
「「「「「シンジ様来たあ!」」」」」
子供たち5人が隣の大人エルフの警備宿舎に駆け込んで行く。おぉ、おぉ。子供たちは元気だな!
偶然、居たのかカリュンさんが子供たちに引っ張られて出て来た。
「シンジ様、何かあったのですか?」
「ちょっと神様にお供え物を作りに来たんだけど、皆が食べたいなら作るから明日の朝まで待って」
「「「「「「えええええぇえ!!!お腹空いた!」」」」」」」
レニヴァル君にお使い魔法でぽかぽか弁当にお使いに行ってもらった。もちろんカリュンさん付きである。
俺と実李君も自分が食べたいものを頼んだ。
さて、神様たちへのオードブルには、今が旬のブドウとメロンと小夏を使ってシャーベットとタルトを何十ホール作った。
レニヴァル君が、お悩み相談箱にタルトを次々突っ込んでたら、お悩み相談箱からお使いの天使が出てきた。
ひざまずくレニヴァル君にお手紙を渡して、ぽかぽか弁当の鶏唐丼を食べる俺と実李君に手を振り帰ってしまった。
俺達が食べてるから、レニヴァル君がお手紙を読んでくれた。
「サシミ、
スシ、
フナモリ、
カツオノタタキ、
オスイモノ、
タイノニツケ、
アワビノツボヤキ、
ウナジュウ、
シメの和菓子。
150神前。
これが明日の夜のメニューだそうです」
「最悪、寿司職人は【召喚】かな。ちょっとコネがあるから、聞いて見る」
「稔司でも、ダメな感じ?」
「神様にお供えするんだから、寿司職人に握って貰う方がいい、一応、修業はしたけど褒められたのは魚の裁き方だけだったしな。
店ごとの出張っていくら支払ったらいいかな?」
「1人前いくらの店?」
実李君がびっくりするだろうと思いながら言う。
「30万円くらい?」
実李君の目が目が据わる。
「ちなみに、稔司の実家のレストランのフルコースの値段は?」
「35000円~20万円くらいまで、いろいろ。レニヴァル君手紙書くから、届けてくれるかな?」
「セレブめ!」
高校時代の友達が言ってたような実李君の文句を聞き流しながら、そう言えば俺が死んでから、120年経つんだよな。
ま、いいか。一晩で1億円の稼ぎなら悪くないだろう。頼むぜ!江戸前寿司雪柳。
「レニヴァル君、これ持って行ってお金、前払いして来てくれる?あと、市場で魚一緒に仕入れてくれないかどうか聞いて来て。政美叔父さんいい人だから、そのリスト見せたら市場に連れて行ってくれるよ」
「はい!行って参ります!」