真の覚醒
前回のあらすじ
異世界バスヴァールでは男だけがかかる流行病で男は滅亡し、人類の存続をかけた女性達にアンシャルムの老エルフ達が子宝を授けた!
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一緒に異世界を旅したラインライトはバスヴァールに大量の野菜を持って行っててお留守だ。
レニヴァル君が言うエルフ老人会メンバー全員と大工さん達を連れて集落の堀と狼除けの柵を作る為にお使いしてる。
ほぼ毎日だ。
レニヴァル君も呆れている。
「ふふ、エルフは情に厚いよね。そういう所好きだよ」
「シンジ様のお体のご負担になってませんか?」
鋭いな。レニヴァル君。
もう2週間も往き来してるから、本当は3日に1回くらいにして欲しい。
でも、狼除けの柵と堀はいる。わりと広いらしいので1~2ヵ月見てくれとラインライトさん達に言われた。
レニヴァル君が真剣な顔で言う。
「ダンジョンにいきましょう!その方が良いです!」
「……わかった。行こう」
「歩いて行けますか?」
待て待て。
「そういう感じに見えるか?」
レニヴァル君は肯く。
「神気がわずかに揺らいでます。輿を用意します!少しお待ちください」
レニヴァル君は店から出て行った。
「神輿なんか、いいんだけど、な」
でも、神気が良い状態じゃないなら、途中で倒れたら迷惑が掛かる。
何時まで経っても自分の状態さえ良く判らない俺。レニヴァル君にオンブに抱っこしてる。
なんか出来ることあるかな?
レニヴァル君がして欲しいことを叶えてあげたい。俺が!
そう強く思った瞬間、俺の意識は爆散した。
「シンジ様?!今、神気がほとばしって…」
ああ、これが本来の俺の姿。
神域の落ち葉を集めた腐葉土を貧しい土に混ぜたエルフ達の努力が凝った私の大地左手のほんの少し残った神域の力は全てダンジョンの為に使われている。
ひざまずくエルフ達を見下ろす俺は神域全体の自然になっていた。
俺はまだまだ力が足りない。それでも俺に付いて来てくれるか?
「何時までもお側に居させて下さい!エルフの里の者達は貴方様に付いて行きます!」
森の葉擦れの音のように心地よいレニヴァル君の声。
ああ、彼は神々の声を聞く者。民に神々の声を届ける者。民の代弁者。
貴方の望みを聞かせて。俺に言って。力が足りない俺なりに力いっぱい叶えてあげる。
レニヴァル君は迷うことなく俺の心に届くように言った。
「古の神域に緑を願います!ダンジョンだけじゃなく貴方様のお身体いっぱいの緑を!」
それが心からの俺と、皆を思い遣る貴方の祈りと願い。
【その願い叶えてあげる】
俺は種、俺はそよ風、俺は雨、俺は大地、俺は木や草、稔る稲穂、命の糧を形にして貴方にあげる。
貴方の渇きを癒やし、緑の大地を見せてあげる。
さあ、俺を貴方に全部あげる。
バキッ!ミシミシミシ。
ああ、ダンジョンコアが壊れた。
さよなら、エルフ達
sideレニヴァル
シンジ様がご自身の力ことを理解したのは、すぐにわかった。
畑も道も関係無く草や野菜、稲穂や麦畑が好き勝手に出来る中、異変を感じ異世界バスヴァールから戻って来たじいちゃん達と最速で薬草が生い茂る広場の一部を整地して祭壇を組み上げ私以外の皆は涸れ井戸から吹き出る清水で禊ぎを済ませて里の者全員で祈祷する。じいちゃんが少しの間代わるから禊ぎをして着替えて来いと私と位置を変わる。
私はシンジ様の家に駆け込むと日干ししてあった儀式用の服を物干しざおから取り、広場の真ん中の井戸水を頭から被る。夏でも凍るように冷たかったが、今は禊ぎに丁度良い。
心を無にするように、と巫女だったばあちゃんが言ってたがそれはムリだから、シンジ様が消えないように、一生懸命祈る。
シンジ様が消えないようにシンジ様に祈るのはおかしいかもしれないが、私たちの為に神さまであろうとしたシンジ様がエルフ達は皆、大好きなのだ!
人であった時、料理人であった為か、食事をまともに取れてない私たちに1日3食食べる喜びを教えてくれたシンジ様。
一緒に作業して民と苦労を共にしようとしてくれたシンジ様。
野菜や肉の加工技術を惜しみなく教えてくれたシンジ様。
慣れない集団生活に疲れてもグチも言わず頼まれたら気軽に美味しい料理をたくさん作ってくれたシンジ様。
里全体が収穫し放題の森になり、シンジ様は一欠片の石になった。
私は木の蔓を編んでシンジ様だった石を包むと首輪にした。
1章完