指導者
孤児が集まった。
スラムみたいなのは無いんだそうな。
奴隷商人から売ってる子供達を財力任せに買ってきたそうな。
ぶっちゃけ子供達の怯えたり睨み付けたりする視線にオロオロしてる元日本人3人。
エルフ達は俺に奴隷首輪を外して欲しいといってるが、これってアンシャルムの古い神様の契約で出来てるから、俺にはお手上げだ。
「へっ、なにがかみさまだよ!おれたちのことたすけてくれないじゃないか!」
心が痛む。俺の気持ちを慮って子供達を殴ろうとするレニヴァル君を羽交い締めして止める。
興奮状態のレニヴァル君に耳打ちする。
「それじゃ、奴隷として扱ってるのと同じだよ。落ち着け。」
「だって!」
否定される度、神様の力は弱くなる。レニヴァル君にはそれがわかってるから、俺の為に怒っている。
「うわぁああああん」
俺に抱き付いて泣くレニヴァル君の背中を軽く擦りながら俺は勇気を振り絞って発言した男の子に視線を合わせて優しく言う。
「首輪を外してあげられなくてごめんなさい。…それでも俺は君たちを救いたいと思う。それまで側に居ることを許してくれますか?」
「ふん!オマエがおれのドレイになるならゆるしてやる!」
エルフ達全員が気色ばむ。
ヨークヴァルさんがその子に左手のひらを上にして差し伸べる。
「シンジ様申し訳ありませんでした。このような恩知らずの礼儀知らずは買ってきた奴隷商に売り戻してまいります。さあ、帰るぞ!奴隷商まで」
「うあぁああああああん!やだやだやだー!だれかたすけて!!いいこにするから!」
エルフ達は誰一人として相手にしない。
仕方なく穂高くんを見た。
穂高くんは、ため息一つつくと「一つ貸しだからね、稔司」とすれ違いざまに言い、その男の子のヒーローになってみせた。
☆sideリコロ☆☆☆
神様だという黒髪のお兄さんは何もたすけてくれなかったくせにまだ、俺を助けたいのだという。だから、おれのドレイになってみせたら信じてやろうと思い口に出した。
俺を奴隷商人から買ってここに連れて来たエルフのじいちゃんはそれを聞いて奴隷商人に叩き売るとか言い出した。……本気だ!
俺は泣いて許して貰うつもりだった。
エルフ達は全員俺を睨み付けていて、甘えを許してくれなかった。
声がかすれるまで許してといってたら、壁によりかかって面白そうに俺を見物してた、ニセモノの神様の仲間が俺を助けてくれるらしい。
「ヨークヴァル。そいつは俺が預かる」
よく日に焼けた肌と、ごつい体付きにびびると、ヒョイと抱きかかえられた。
怒っているエルフ達はニセモノの神様の仲間に強く言えないらしい。
やったぜ!助かった!
「俺はタカホ。お前の名前は?」
「リコロ!よろしくな!タカホ!」
次の瞬間、ほっぺたがちぎれるくらい指でつねられた。
「年上には名前の後ろに【さん】を付けて呼べ!よろしくお願いします、タカホさんだ!口の聞き方には気をつけろよ?リコロ」
やべえ!コイツやべえ!
涙ぐみながら、いうことを聞き、表面上では逆らわないようにした。
*****side穂高*****
うっかり真名を呼ばれ無いように「タカホ」という偽名を使ってクソガキ(リコロ)をまず言葉使いから躾ける事にした。
神様なんかいないと思ってるリコロに神様がいると教えることは返って危険だ。
稔司が神力を殺がれてボロボロになるのを防ぐことが先だ。
ほっぺたを抓るくらいで無礼を許してんだ。稔司に2度と会わせない。
実李を見た。
「絶対近寄るなよ、バカホ」
実李も農業体験でどうせ教えることになるのにな!
****side稔司
身の内にある神力が揺らいでいる。
胸を押さえてしゃがみ込むとレニヴァル君がエルフの武闘派達に俺をダンジョンへと運ばせて薬草殿の奥の間に眠る。
すっきりして目覚めたのは2週間も経った夕方だった。
レニヴァル君が作ったミョウガのお味噌汁を飲み、スピ鳥と舞茸の炊き込みご飯をごちそうになった。
「料理出来るようになったんだな。美味しかったありがとうレニヴァル君」
「穂高様に教わってパンも売り物になる物が焼けるようになりました!もっと食べて下さい!お焦げがありますよ」
進められるまま3杯食べて、食後に昆布茶をごちそうされた。
8階層が気になったのでエルフの精鋭部隊200人を連れて道なりに8階層まで進んだら邪竜が誰かに討伐されて、遺体がダンジョンに消化されてない。
アルティムさんが邪竜の遺体を清めの炎で燃やした。斥候部隊が8階層の隅々まで調べると、あちこちにダンジョンが消化してない強力な魔物の遺体が放置されていたらしい。
いずれも雷魔法による死因で、神気が微かに残っていたようだ。
遺体の状態からして、ここ数日のことらしい。
俺がいる状態のダンジョン内で俺に知られずそんな御業ができる神はユーバリン神だけだ。
アルティムさんにそう言うと8階層の魔物を間引き始めた。
明らかにいつもより、数が多い。
ひょっとしてスタンピード寸前だったんじゃないか?!
アイテムボックスに食べられる魔物は収納して、食べられない大きな魔物は魔大陸に生きたまま、送還した。
翌朝まで、その作業に没頭していて、あっ、と思った時には遅かった。
久しぶりの魔力枯渇。
ダンジョンに引きづりこまれるような感覚を最後に感じてそれから6ヵ月ダンジョンの壁に埋まっていたらしい。
レニヴァル君が毎日祈祷してたおかげで献身ポイントが貯まりユーバリン神からスキルがプレゼントされていた。
********************
名前 ヴァルヴェール神(稔司)
ダンジョンレベル 3
神域レベル マイナス9
所持金 60兆億ミロア
12万8490円
ボーナスポイント 4501
スキル 植物育成 レベルMAX/全魔法属性 レベルMAX/時空魔法 レベルMAX/召喚魔法 レベルMAX/送還魔法 レベルMAX
レニヴァルの献身 ∞
プレゼントスキル
☆スタンピード レベル2
(ひと月1回必須!レベル0ならひと月15回~)
☆お使い魔法 レベル7(20人まで1日1回何処の異世界でも可能!)
NEW!☆換金魔法MAX改
(異世界通貨への両替可能!)
NEW!☆隷属契約解除!MAX
【地上の稔司の様子を見て思う所があったから下さるそうです。神力を使うので何もしないと決めた日に使いなさいとの伝言です!】
NEW!☆不動産購入(異世界)
【神域の木を伐るのは危ないので、緑豊かな異世界バスヴァールの山を一つ購入して活用しよう!お使い魔法を上手に使って木材を入手しよう!】
NEW!☆お悩み相談箱
【新米神様稔司の悩みを手紙にしてこの箱に入れるとヒマつぶしに手の空いてる古い神様の誰かがお手紙でアドバイスして下さいます!お礼は稔司の手料理が良いそうです。相談箱に入れて下さい】
********************
奴隷首輪の解除は明日しよう。
「レニヴァル君、心配かけたね。明後日だけれど予定がなかったらヨークヴァルさんと異世界の山を一つ購入してきてくれないか」
「じいちゃんとお使いはいいんですけど、言葉が通じるでしょうか?ホダカ様もお願いします」
そうだった!
「穂高くんにも頼んでみるよ」
なんか作って食べたい。
そういうと里の店に帰った俺にレニヴァル君がダンジョンからいろんな野菜を採って来てくれた。
ここ数年でミルキーカウのチーズまで作ってるそうだ。
ヨークヴァルさんが持って来た。
肉は8階層で獲ったランニングコッコを使ったフライドチキン。某フライドチキン店風で。
トマトソースとホワイトソースを作って、地球産パスタを使ってナスとチーズたっぷりのラザニア。ピーマンのピカタ、レニヴァル君の焼いた山型食パンのガーリックトースト。スープは、夏らしくヴィシソワーズに刻んだパセリを散らして。夏野菜のサラダにはオニオンドレッシングを添えて。
レニヴァル君が助手してくれたからいつもより、楽しんで作れた。
今日のお客様はヨークヴァルさん一家と実李くんと穂高くんだけ。
家族でワイワイガヤガヤ賑やかな食事だった。
実李くんと穂高くんが懐かしい味わいに人間だった頃のようにはしゃいでいたのが、嬉しかった。
夕食後はお子さまを客室に寝かせて広場で会合。
里長のロクシアーナさんが植樹事業の進捗状況を話し始める。
「この15年で里から遠くに植えた木のほとんどが育つと伐採された。人間の生活の為に、だ!」
「そっか、緑が無いのが、どういう事かアンシャルムでは、教育されてないんじゃ仕方なくね?」
実李くんの意見に一理あると思ってたのは俺だけだった。
穂高くんがとんでもないことを言い出したのだ。
「エルフが植樹した木を切ったら天罰下るようにしたらどうよ!」
エルフ達全員が賑やかに議論し始めた。
その隅っこで実李くんと穂高くんがケンカしている。
「温暖化対策とか異常気象とか話しても、訳分からないで、終わっただけならいいけど、新しい宗教団体と勘違いされて迫害を受けるより既存する神様からの天罰!わかりやすいだろうが!」
「そんなことになったらエルフ達が来ただけで追い払われるようになるだろ?!」
激しくにらみ合う二人。
ヨークヴァルさんが提案する。
「異常気象を木を育てることで避けられると、創造神様に神託してもらったらどうじゃ?何もしないと神罰。木を切ったら神罰。ほれ、シンジ様相談箱に手紙じゃ!」
早速、ことの経緯を手紙を書いて相談箱に入れると遠くの空が荒れて絶賛落雷中。
創造神ユーバリン神様や他の神様たちの神気が大気中にコワイくらい溢れ出していてレニヴァル君が正装に身を包んで起き出すような騒ぎになった。
俺は無言で、店の厨房に立つと神様たちあてに怒りを静めて下さるようにパーティー料理をせっせと3日間近く作った。
エルフの奥さん方も手伝ってくれたのでそれなりに楽しめたのではないだろうか?
4日目の朝にようやく天気が回復し、神様たちからの返事がいただけた。
「【やっておいたからな!神託もな!】」
「「事後報告じゃねぇか?!」」
実李くんと穂高くんのノリ突っ込みにお悩み相談箱に相談してはならない事実とズラリと書かれた料理名に、俺はまた料理を作り始めたのだった。