プロローグ
初めまして。よろしくお願いします!
「何をやってる!?お前の担当はスープだろうが!誰が肉を焼いて良いって言った!」
問答無用でシェフの誠一に殴り飛ばされる。いて~~っ!
でも俺、デカイから半分は演技何だがな。床に這いつくばった俺の顔に唾をはいて、足を蹴ると何かに取り憑かれたような目で俺を睥睨して誠一の手下達に宥められる誠一。
「まあまあ、シェフの下で働くのがイヤならいつでも放り出してやればいいじゃないですか!世界最大のオーベルジュ【ラカン】をクビになった奴らが、どんな目に合ったかを稔司さんも知らない訳は無いでしょう?惨めったらしい余生を送るか、ここでシェフの下僕として大人しくスープとソースを作るか、今選んだっていいんだぞ?」
「バカ野郎!!余計な事を言うな!」
誠一は手下達を慌てて叱った。
手下達は、面食らっている。
俺は立ち上がってシェフの誠一に頭を下げた。
「お世話になりました!」
死んだ師匠への最後の親孝行と思って、この4年間兄貴の誠一の下で我慢してきたが、何で手下達にまで馬鹿にされて、我慢しなきゃならん!
ソースの秘伝は俺しかマスターして無いからこれから大変だな、誠一。ザマミロ。
「稔司キサマ!思い知らせてやる!吠え面かくなよ!」
あれから、1カ月が経ち俺は、田舎町で小さな食堂を開くべくあちらこちらの業務用厨房機器の店に行くのだが、まずおかしい事にキャッシュカードが使えないので、現金がどんどん減っていく。
「クソ兄貴。何かしやがったな?オヤジの遺産相続したはずの田舎町の別荘まで、売却されてたし、銀行の融資が受けられないし、本当にクソだな!」
俺に残ったのは、たくさんの食器と厨房機器と、店に置くはずのイスとテーブル。調理器具だけだった。
財布の中身はたった20万円。
貸し倉庫代もバカにならない金額だ。
気分転換に引っ越しの支度を整え段ボールだらけのアパートの部屋から出て、弁当チェーン店まで散歩がてら買い物に行く。
夕方の雨降る中近道しようと近くの神社の敷地内から小学生達が垣根の間をくぐり抜け歩道にぴょんと降りる。
可愛らしくて俺も結婚してたらあれくらいの子供が居たんだよなぁと、微笑ましく見ているとパァン!と破裂したような音がした。
目が眩むようなヘッドライトと目の前には大型トラックの傾いで制御不能になったドライバーの叫んでいる顔が。
ドンという衝撃を前にも後ろにも受けて俺の、青空稔司としての地球での命が終わった。
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