ひとめ惚れ
1話完結の物語となっております。最後まで是非読んでください。
※誤字脱字、間違った言葉の使い方は大目に見てください。(そっと教えてください)
「千秋さん!好きです!」
生徒が学校に登校してくる時間。校舎前で突然告白が始まった。
部活の朝練だろうか、男子生徒は体操服姿で、登校してきた女子生徒をじっと見ている。
千秋と呼ばれた女子生徒は何も言わずに男子生徒を見つめている。
一緒に登校していた友人は、ニヤニヤしながら少し離れたところで2人を見ている。
「1年生の時からずっと好きでした。僕と付き合って下さい!」
体育会系らしいハツラツとした声が響く。
登校中の生徒も、告白が気になり足を止める。
周りが見守る中、女子生徒は口を開く。
「……えーっと、あなた、だれ?」
「え……っと、あの」
男子生徒は戸惑って次の言葉が出せないでいる。
千秋は軽く「ごめんね」と言いながら、そそくさと校舎の中に入っていく。
「朝からモテモテだね」
「瑞姫。あんた何笑っるのよ」
「朝から良いもの見せてもらいました」
「うれしいけど、知らない人に突然言われてもねぇ」
千秋は苦笑いを浮かべる。
「二人ともおはー。さっきの告白見てたよ。秒殺だったね」
「美緒、おはよう」
からかうように美緒も笑っている。
「2人とも少しは私の気持ちも考えてよ」
下駄箱前で3人で話していると、校舎前が騒がしくなった。
「あれって千秋のお姉ちゃんじゃない?」
またも男子生徒が女子生徒に声をかけていた。
「香織さん!!僕と付き合って下さい!!」
「ごめんなさい。初対面のあなたとは付き合えません。それに突然好きと言われても怖いです。あと、登校したばかりに告白されても迷惑です」
香織は男子生徒に一礼し校舎へ歩いてきた。
「千秋もひどかったけど、お姉さんもどぎついね」
「あれがグサッとくるね」
香織は美人である。
高校入学してすぐの時に三年生からの告白がきっかけで、定期的に告白をされているらしい。
笑った時の顔が可愛らしく、微笑まれた男子は一発で心を射抜かれるのだそうだ。
男性が苦手で、話す時どうすれば良いか考えた末、とりあえず笑っていたら今の状況になったらしい。
「ってことらしいよ。入学してすぐ3年生から告白ってすごいよね」
「瑞姫、あんたよく知ってるわね。妹の私でもそんなことまで知らないわよ」
「私も三年生にお姉ちゃんがいるから」
クラスが違う美緒と廊下で別れた後、姉についての話で盛り上がっていた。
「千秋もだけど、あのお姉さんが誰かと付き合うって想像できないよね」
「ムッ。お姉ちゃんはわかるけど、なんで私もなのよ」
「だって2人ともいろんな人に告白されてるけどずっと断ってるから。好きな人とかいないのかなって」
「お姉ちゃんはしらないけど、私だって好きな人ぐらいいるわよ」
「え?千秋好きな人がいるの?」
「なんであんたが驚くのよ。鈴木君ってずっと言ってるでしょ」
「あー、鈴木君」
瑞姫は呆れた顔をする。
「なによ、ずっと言ってるでしょ」
「そりゃずっと聞いてるけどさあ。あ!ほら、話をすれば鈴木君だよ」
廊下側の窓越しに、男子生徒が大きな荷物を軽々と持って歩いている。
身長が高く、高校生と思わないほどガタイが良い。
「見てよあの寡黙な表情。さすが剣道部エースって感じ。部活以外にも道場に通ってるんだって」
鈴木が窓から見えなくなるまで千秋は目で追った。
「えー。まだあいつの方が現実的な気がする」
瑞姫は同じクラスでしゃべっている男子生徒の集団を指差した。
集団の中心に、テンションの高い男子生徒が席に座って話している。
「あー、相原ね。この間告白されたけど断った」
「えー!もったいない。サッカー部の時期部長候補らしいのに」
「なんなのその情報。どっから聞いてくるのよ」
集団を見ていると不意に相原と目があった。
相原は顔を赤くして視線をそらす。
「まだ意識してるんじゃない?」
「何とも思ってないから普通にしてくれてもいいんだけどね」
***
授業も終わり、瑞姫と美緒と一緒に話しながら家に帰る。
「ただいまー」
靴を見るとまだ誰もは帰ってなかった。
(まだ誰も帰ってないのか)
部屋で部屋着に着替え、リビングでテレビを見ながら携帯を触っていると、
「ただいまー」
香織の声が聞こえた。
リビングの扉が開き、香織は冷蔵庫を開けて飲み物を取る。
ふと姉の顔を見ると少し赤かった。
「お姉ちゃんなんかあった?」
タイミングが悪かったのか、香織は飲んでいたお茶を吹き出し、何度も咳き込んだ。
「んなっ……なんでそう思うの?」
「いや、なんとなく……だけど」
「……好きな人が、できた」
「ブッフ!」
千秋も飲んでいたお茶を吹いてしまった。
「ちー!大丈夫?」
「っえ?ごめんもっかい言って?」
「好きな人が……出来ました」
香織はモジモジしながら言った。
「今まで好きな人なんて出来たことなかったのに。え?でもお姉ちゃん男の人苦手じゃん」
「ま、まあそうだったんだけどね」
「……もしかしてだけど、女の子ってオチ?」
「違います!ちゃんと男の人です!!」
男性の苦手な姉に好きな人が出来た状況に、千秋は上がったテンションを飲み込む。
「へー、ふーん。で、だれ?」
「たぶん同じ学校の人だと思う」
(たぶん?)
「え?知ってる人じゃないの?」
香織は首を横に振って今日の出来事を話し出した。
家に帰る途中、とある男子生徒に呼び止められ告白されたらしい。
いつものように断ったが、その男子生徒はしつこく声をかけてきたとのこと。
ちょうど目の前の信号が点滅していることを見て、香織は横断歩道を走った。
歩道を渡りきって振り返ると、男子生徒は赤信号で渡れていない。
ひと安心したが、男子生徒が赤信号にもかかわらず横断歩道を渡ろうとしてきた。
男子生徒が数歩走った時、横からクラクションと共に車が走って来た。
香織はとっさに顔を背けて目をつむった。
車がぶつかった音がなく、恐る恐る目を開けて見ると、歩道で倒れている男子生徒が2人いた。
信号が青に変わり、香織は駆け足で倒れた男子生徒の元へいく。
仰向けになっている告白して来た男子生徒と、馬乗りになっている男子生徒がいた。
「だ……大丈夫?」
上に乗っていた男子生徒が仰向けの男子生徒を立たせた。
告白して来た男子生徒は少し震えているが、助けた男子生徒がやさしく背中をさすっている。
香織に気が付き、告白して来た男子生徒は謝って来た。
もう1人の男子生徒が何かに気がつき、
「あ……それ」
「あ、これですか?」
カバンから出ている猫の定期入れを見ている。
「……かわいい定期入れですね」
男子生徒は微笑んで去って行った。
香織は名前も知らない男子生徒を見えなくなるまで目で追っていた。
***
「まさか、ひとめ惚れとは」
香織は顔を赤くしている。
「で、なに?その人に告白でもするの?」
「告白は……しないと思う。けど、あの人とまずはお近づきになりたい」
香織は千秋の手を取った。
「ちー!お願いなんだけど、あの人が誰か一緒に探して欲しいの」
「めんどくさ!」
***
翌日、千秋は学校までの登校中ずっと考えていた。
(誰かもわからない男子なんてどうやって探すのよ)
考えていると、隣にいた瑞姫が声をかけた。
「どうしたの?」
「ううん?考え事してた。ごめんね」
1人で考えるよりも、瑞姫に相談した方が早いかもしれない。
「お姉ちゃんに好きな人が出来たみたいなの」
「えー!香織さん好きなひとが出来たの?」
「そーなのよ。だけどその人が誰かがわからなくて、一緒に探してほしいって言われてるの」
「何それ、面白そうな話してるじゃん」
後ろから美緒も話に入って来た。
「びっくりした!急に出てこないでよ」
千秋は昨日聞いた話を2人に話した。
「何その男子。イケメンじゃん」
「そんな漫画みたいな。この学校も捨てたもんじゃないかも」
二人が顔のわからない男子を絶賛している。
「で、その人の特徴とか聞いてないの?背が高いとかガタイが良いとか」
「んー。これといった特徴は聞いてない」
「顔も一瞬だったから説明が難しいみたいだし。ただ、会ったらこの人!ってわかるらしいよ。」
「難解だな」
美緒が困った顔をする。
「でもとっさに飛び込むぐらいだから、運動神経いいんじゃない?」
「じゃあ運動部の誰かってこと?」
探す方針が決まらないまま学校へ着いた。
「!?」
「千秋どうしたの?」
「瑞姫、今日私いいことがあるかもしれない」
千秋は校舎前で立ち止まった。
二人が千秋の視線の先に目を向けると、登校中の鈴木がいた。
歩いている姿勢も良く、寡黙な雰囲気を出している。
「登校中の鈴木君を見るなんて。良いことあるかも」
「なにいってんの。お花畑もそこまでにしなさいよ」
瑞姫はあきれながら言った。
***
体育の授業になり、男女に分かれてテニスとサッカーをする。
「千秋、ちょっと休憩しよ」
「なによ瑞姫、始めてまだ10分じゃない」
「もー動けない。むりー!」
瑞姫の体力がなくなり日陰に入って休憩する。
「千秋なんでそんなに体力があるの?運動部に入ればいいのに」
「あんたの体力がなさすぎるだけよ」
ふと、男子がサッカーをしている様子に目を向ける。
サッカーコートの脇でクラスメイトを座って眺めている男子がいた。
「あ、今日相原見学なんだ。珍しい」
「昨日腕を痛めたみたいだよ?昨日部活も早めに切り上げたらしいし」
「もしかして!相原君なんじゃない?」
「なにが?」
「なにって、香織さんがひとめ惚れした男子の事だよ」
千秋はすっかり忘れていた。
「千秋忘れてたでしょ」
「べ、別に忘れてないわよ」
「……でも相原がそんな事すると思う?」
「んー。よくわかんないけど、サッカー部だし運動神経は良いと思うよ」
お姉ちゃんが相原にひとめ惚れ。
(……無いな)
「ほら、休憩終わり。続きするよ」
千秋はテニスコートに向かう。
瑞姫は嫌そうな顔をしながら、しぶしぶ付いて行った。
***
自宅に帰ってから千秋は相原の事を考えていた。
もし相原がひとめ惚れの相手だった場合を考えると。
「気まずい」
1度振った相手が姉の好きな人となると相当に気まずい。
「考えてもしょうがないか」
千秋は立ち上がり、香織の部屋へ向かった。
「おねえちゃーん。ちょっといい?」
ノックして部屋のドアを開ける。
机に向かって勉強をしている香織の姿があった。
「あ、ごめん勉強中だった?」
「ううん。今丁度きりが付いたところだから。どうしたの?」
「あ、いやぁ。昨日話してたお姉ちゃんの事なんだけど……」
姉に目をやると、顔を赤くして少しオドオドしている。
(可愛いな)
「うちのクラスにちょっとそれっぽい男子がいてさ。もしかしたらその子かな~って思って」
「ど……ど、どんな子?」
「相原って言う、サッカー部なんだけど」
「あいはら……どんな子?」
「えーっと、サッカー部の次期主将になるらしくて、髪は耳にかかるぐらいで、身長がわたしの頭一つぐらい……高く、て」
「……どうしたの」
香織の顔がみるみる冷めている。
「その子って髪の毛にヘアピンしてる?」
「あー、確かにヘアピンしてるね」
「もしかしてもしかする?」
「いや、その子……」
次の言葉がなかなか出てこない。
「なんて言ったらいいのかな……」
「その相原って子、昨日告白してきた子なんだよね」
「……は?」
「昨日私に告白してきた子で、車にひかれそうになった子がその相原って子なん……だよね」
「…………」
香織は千秋の顔を見て、
「あ、で、でも昨日謝ってもらったし。そんなに怖い顔しないで」
香織に言われ自分が怒った顔をしているのに気が付いた。
「え?別にイライラしてないけど?とりあえず相原は明日締めるけどね」
「ダメダメダメ!そんなことしたらダメだよ!ちゃんと反省してたし。」
「あ、そうだ。聞いて。」
香織は何か思い出したように言った。
「今日助けてくれた人とすれ違ったかもしれないの」
それは、放課の時だったらしい。
***
「香織、次移動教室だから準備して行こ」
「……」
「香織!」
「あー、ごめん。準備するから待って」
「あんた学校始まったばっかなのに、何惚けてるのよ。悩み事?」
「え?なんでわかったの?」
「あんた顔に出るタイプなんだからわかるわよ。この紗奈さんに話してみなさいよ」
香織は紗奈に学校の男子にひとめ惚れをした事を話した。
「っは~!あんたもちゃんと乙女なのね」
「なによそれ。私をなんだと思ってたのよ」
「いや、あんたが好きな男子は沢山いるけど、あんたが男子を好きになるとは思わなかったから」
「……紗奈には無い?そういう、ひとめ惚れみたいなの」
香織は自分で言って顔を赤くする。
「かわいいな。もう」
「なによ。馬鹿にして」
「馬鹿にしてないわよ。いいなー。私も青春したーい」
香織はむっとしながら移動教室の仕度をする。
「もう紗奈には話さない」
椅子から立ち上がり紗奈を置いて廊下に出る。
「ちょっと待ってよ。ごめんて」
2人で移動教室に向かっていると、ぞろぞろと移動している学生たちが来た。
ぶつからないように脇に移動しようとした時
「!?」
香織の頭から背中にかけて緊張が走った。
振り返ると学生達が階段に向かっていく。
「今の上履きの色的に2年生かな」
「2年生なんだ」
「香織?」
「んーん。ほら、行こ」
二人は教室に向かった。
***
「ってことがあったの!」
「……どういうこと?」
「だから、あの時あった人と移動教室の時にすれ違ったの!」
どうも信じられないが、香織の顔は真剣である。
「でも、2年生で移動教室ってなるとかなり絞られない?」
「2年生かあ。お姉ちゃんは同い年以上の人が好きだと思ってたけどな」
「こういうのに歳はあまり関係ないと思うな」
香織はムッとした表情をした。
「とりあえず明日聞いてみるよ。見つかったら教えるから」
「ごめんね。ありがとう」
千秋は自分の部屋に戻った。
翌日になり
「ねえ瑞姫。昨日の2時間目の授業で移動教室だったクラスってどこか知ってる?」
「たしか美緒のクラスが昨日移動教室があったって言ってたけど?」
「え?鈴木君のクラス!?」
「千秋ってすぐ鈴木君って言うよね。告白すれば良いのに」
「何言ってんのよ。鈴木君はほら、遠くから見てるだけで良いの」
廊下から男子の声が聞こえ、教室のドアが開く。
朝練が終わったサッカー部の男子が入って来て、楽しそうに話していた。
男子の中に相原の姿を見つけた。
「……あいつ」
香織に言われたので何も言わないが、ギリギリと相原を睨む。
相原は視線に気がつき香織を見ると、笑顔が段々と消え、俯いてしまった。
2人のことを交互に見ていた瑞姫が不思議そうに
「なんかあったの?」
「え?いや別に。なんでもない」
相原のことをにらみながら、千秋ははぐらかした。
昼休憩になり
「やっほー」
美緒が弁当を持って教室にやってきた。
「美緒。聞きたいことがあるんだけど」
「なに?男子紹介してくれるの?」
美緒は目をランランとさせている。
「違う違う。あんたのクラスにお姉ちゃんの好きな人がいるかもしれないの。なんかない?」
「なんかない?ってまたざっとした質問ね」
千秋は姉から聞いた話をした。
「んー。うちのクラスでそういうのしそうな男子いないんだよね」
美緒はクラスの男子を思い浮かべるがなかなか厳しそうだ。
「ねえ。今日放課後どこか遊びに行こうよ」
瑞姫が唐突に提案してきた。
「ダメよ。来週からテスト週間でしょ。ちゃんと勉強しなさいよ」
「えー!すぐ勉強しなさいって言うのなんかお母さんくさい。遊びにいこーよー」
「だーめ。前もあんた成績悪くて外出禁止になってたでしょ。テスト終わったら遊びに行きましょ」
瑞姫が不貞腐れていると。
「いるわ」
美緒が唐突に言った。
「何がいるの?参考書?」
瑞姫が聞いた。
「違うわよ。香織さんの探している男子。うちのクラスに1人いるわ」
「え!だれ!?」
二人の勢いに少しのけぞりつつ、
「うちのクラスの大志」
「たいし君?」
「あー、鈴木君か」
「鈴木君!?」
「うわ、びっくりした」
「あー、ごめん。でも鈴木君は、でもそうかあ、鈴木君かー」
「なんか歯切れ悪いわね」
「千秋鈴木君が好きだからね」
2人は戸惑っている千秋を微笑ましく見ている。
「昨日からあいつ朝練しなくなったし、部活も早めに切り上げてるらしいのよ。それに正義感も強いから、私のクラスってなると大志じゃない?」
「……ありえる。けど、美緒 鈴木君のこと名前で呼んでるの?」
「え?普通じゃない?」
(このコミュ力お化けめ)
「……そおかあ。鈴木君かあ」
千秋は納得したように遠い目をした。
***
どうやら姉が自分と同じ人間を好きになってしまった可能性が高い。
でも、鈴木君だと決まったわけではないし。
「……うーん、悩んでてもしょうがないか」
そう思ったと同時に、部屋のドアをノックする音がした。
「ちー。今いい?」
「おねえちゃん。いいよー」
香織が部屋の中に入って来た。
「どうしたの?」
「あのね。最近話してる男子のことなんだけど」
「なに、進展あった?」
香織はうなずいた。
「紗奈がね、あ、私の友達なんだけど、その子の1つ下に妹がいてね、その子が言うには鈴木君って子なんじゃないかな?って」
(っぐ!)
千秋は胸の奥が締まった感覚になった。
「へ、へー。鈴木君かあ」
「……うん。鈴木君。ちー知ってる?」
「ぅえ?まま、まーね。となりのクラスの男子だし。剣道部の、部長の人」
「……」
「……」
二人の中に沈黙が続いた。
「それともう1つ聞いたんだけど」
「……なに?」
「ちーが、その鈴木君ってこのこと好きって話し」
「わ、わたし!?ななな、なんで!?」
思わずびっくりしてしまった。
「えっとね、紗奈の妹 瑞姫ちゃんって言って、ちーの友達だって。紗奈が瑞姫ちゃんからいろいろ話を聞いて、それを聞いてって流れで」
「……ああ、そういうこと。瑞姫あいつ」
わなわなと恥ずかしさと怒りが出てきたが、恥ずかしそうにしている姉を見て自分の気持ちは収まってしまった。
「まぁ、私のことは置いといて、話を聞いて鈴木君って思ったの?」
「、、、うん」
また小さくうなずく。
姉ながら照れてる表情がとてもかわいらしい
「かわいいな」
「なに言ってるの。からかわないで」
「……そっかー、鈴木君かー」
千秋はまた遠い目をした。
「……ごめんね」
「なに謝ってるの。別に私とす、鈴木君はまだ何も始まってもないんだから」
「で、どうするの?告白するの?」
「それは、まだはは早い、から。まずはお近づきになりたいというかなんというか。
でも、3年生が突然呼び出しても困るだろうし、どうしようかなって相談したいというか。
自分から声をかけに行くのはなかなか難しいというか」
「じれったいな。……わかった!私が明日鈴木君を呼んであげるから会って話したら?」
「え?」
「え?じゃなくて。」
姉の今の状況を見ると応援したくなってしまう。
自分もそうだったが、知る限りだとおそらく姉は初恋である。
自分は好きだとは言っていたが、自分から行動しようと思わず眺めているだけだった。
しかし姉は自分から行動に移そうとしている。
「私より、お姉ちゃんの方が好きが強いと思うから。応援してあげる」
香織は恥ずかしそうにありがとうと言った。
***
「おはよう!」
登校中に瑞姫が挨拶をしてきた。
「みーずーきー」
千秋は開口一番、瑞姫の髪の毛を鷲掴み、ぐりぐりと動かした。
「あんた、私が鈴木君のこと好きなのお姉ちゃんに言ったでしょ!」
「いたーい、頭がとれるー!」
しばらくして頭から手を離す。
「なに?お姉ちゃん?」
瑞姫は頭を押さえながら聞いた。
「あんたのお姉さんが私のお姉ちゃんと友達らしくて」
「そうなの!?すっごい偶然。お姉ちゃんと友達だったんだ。……あ、私お姉ちゃんに千秋が鈴木君の事好きなこと言っちゃった!どーしよお」
「言ったのはもうしょうがないから今ので許すわ。それに今日はお姉ちゃんにとって1大イベントなんだから。」
「どーゆうこと?」
「お姉ちゃんの好きな人が鈴木君だったから、今日の放課後鈴木君と会わせるの」
「まさか告白するの?」
「うわぁ!びっくりした。驚かさないでよ美緒」
後ろから美緒がでてきた。
「ごめんごめん。で、告白するの?」
2人が興味津々に聞いてきた。
「いや、告白はしないらしいけど、お近づきにはなりたいらしい」
「ひゃー!青春だね!!」
美緒はケラケラと楽しそうに笑った。
***
放課後、千秋は瑞姫と隣のクラスに向かう。
そっとクラスの中をのぞくと、鈴木が帰り支度をしているのが見える。
「鈴木君帰ろうとしてるよ。声かけないの?」
姉の為とはいえ、好きな人に声をかけるのはなかなかに緊張する。
クラスの前で固まっていると、瑞姫の携帯が鳴った。
「あ、お姉ちゃん達今から教室出るって。こっちも早くしないと」
「わ、わかってるわよ」
千秋は意を決して隣のクラスに入る。
ありがたいことに、教室内の人は少ない。
美緒が後ろの席に座っているのが見えた。
「すす、鈴木君」
「……なんだ?」
(声もカッコイイ。好き)
「……えっと、この後会って欲しい人がいるんだけど、この後ちょっと時間ある?」
「……わかった」
姉と約束した校舎裏まで連れて行くと、既に姉の姿があった。
「私のお姉ちゃんなんだけど、鈴木君に話があって」
「……」
千秋は緊張からか、ここまで鈴木と話すこともなくその場から離れる。
「ちあき、ちあき」
木の陰に瑞姫と美緒の二人と、もう1人知らない人がいた。
「この人私のお姉ちゃん」
「千秋ちゃん。どーもー。瑞姫の姉の紗奈でーす」
「すいません。姉がお世話になってます」
「いいのいいの。おかげで面白いものが見れるんだから問題なし!」
千秋も加わり、4人で木陰から2人の様子を見守る。
「初めまして。私3年生の志水香織と言います」
「初めまして。2年生の鈴木大志です」
昨日の部屋みたいに緊張していたらどうしようかと思っていたが、どうやら落ち着いているみたいだ。
「…………」
「ごめんなさい。少し待っててもらえないかしら」
「……わかりました」
香織が鈴木君にお辞儀をし、あたりをキョロキョロしている。
「ん?あの子どうしたんだろ」
「お姉ちゃんなにキョロキョロしてるのよ」
紗奈と千秋が香織の様子を心配そうに言った。
鈴木君は変わらずその場で立っている。
「ブフッ!大志のやつその場で直立不動なんだけど。あいつ木かよ。」
美緒は全く動かない鈴木がツボになっている。
様子を見ていた千秋達を見つけ、香織がこっちに走って来る。
「あ、こっちくるよ」
「みんなここにいたの」
「お姉ちゃん、どうしたのよ」
「えーっとね、どうすれば良いかわからなくて」
「なにが?」
「あの子じゃなかった場合ってどうすれば良いんだろう。」
4人に聞こえる程度でボソッと言った。
「……え?」
「千秋ちゃんどういう表情なのそれ」
瑞姫に言われ、自分でもわからないが、驚きと安堵とその他迷惑かけた気持ちが混ざりあった感情である。
香織の顔は焦っている。
「どうしようって。とりあえず謝るしかないんじゃない?」
紗奈が冷静に言った。
「そうだよね。これ以上ここで時間使っても鈴木君にに失礼だもんね」
「お姉ちゃん。本当に鈴木君じゃなかったの?」
「うん。あの子じゃなかった」
「……そうなんだ。あ、だったら私も一緒に謝るよ」
「んーん。私が一人で舞い上がっちゃっただけだし」
「でも、私も鈴木君がそうじゃないかって言っちゃったし。いっしょに謝るよ」
「ありがと」
状況が見えていない瑞姫が難しい顔をしている。
「ねえ、どういうこと?」
「単純よ瑞姫。実際に会ってみたけど大志が探してた男子じゃなかったってことよ」
5人で話をしていると、後ろから
「……あの」
香織が振り返ると鈴木がこちらに来ていた。
「あ、ごめんなさい。これは……ですね」
香織が言葉を探していると
「あ、大丈夫です。たぶん人違いだったんですよね」
「……そうです。ごめんなさい」
香織は鈴木に謝った。
「でも、大志も悪いのよ。タイミングよく部活早く上がるようになったし、朝練も行かなくなったでしょ」
美緒が鈴木君に自論をぶつける。
「それは来週からテスト週刊だから。勉強するためだろ」
「こんの勘違いさせ太郎め!」
「なんか、二人仲いいね。いつもこうなの?ていうかどういう関係なの?」
瑞姫が質問をする。
「……美緒は」
千秋は鈴木の名前呼びに、きゅうっと心臓が締め付けられる感情がした。
「美緒は俺の姉だ」
「……驚き」
「あなたたち姉弟だったの?え?でも美緒の苗字って」
「そりゃあ鈴木だけど」
当たり前のように美緒は答えた。
「確かにそうだった」
「なんで気が付かなかったんだろ」
3人が話している最中。鈴木は香織からこれまでの事を聞いた。
「あー、その男子なんですけど、多分 美緒だと思います」
「え、私?」
「こいつ最近男装癖があって、この間も俺の制服着て勝手に帰ってきた時あっただろ。その時に車に轢かれそうになってる人助けたーって自慢してたじゃないか」
「ちょっと大志!あんた勝手に私の趣味をみんなに話すんじゃないよ」
「美緒、ちゃんそんな趣味があったの」
「まあ趣味というか、ちょっとそっち系に興味があると言うか」
美緒は恥ずかしそうに言って香織の方を見た。
香織は驚きの表情で美緒を見ている。
香織のカバンから出ている定期入れが目に入った。
「すいません先輩。私でした」
美緒は頭を掻き、ケラケラと笑いながら言った。
「いやぁ、あの時は周りが見えてなかったから、先輩と会ってたなんて気がつきませんでした」
「本当に美緒なの?勘違いじゃなくて」
「うん、私だわ。そのカバンについてる猫の定期入れかわいかったから覚えてるし」
香織は美緒の手を両手でつかんだ。
「美緒さん!」
「は、はい」
「私とお友達になってくれませんか」
「まぁ、友達なら、いいですけど」
美緒は恥ずかしそうに答えた。
「よかったね千秋。鈴木君のことじゃなくてぇmごもご」
「オレ?」
「んーん。なんでもないこっちのはなし。ねー、瑞姫」
千秋は瑞姫の口を押えた。
「はーい。ひと通り落ち着いたから今日はこれにて解散。遅くなっちゃうし帰るよ」
紗奈が締めるように話を落ち着かせた。
***
学校からの帰り道、ニコニコしながら香織が歩いている。
「結果、まさかの女の子オチとは」
「んな!別にいいでしょ。それよりも美緒ちゃんと連絡先交換しちゃった」
千秋の心配をよそに、香織は嬉しそうだった。
溜息をつくも、千秋は自分の携帯の連絡先を見る。
あの場で香織と美緒が連絡先を交換している流れでしれっと鈴木と連絡先を交換していたのだ。
連絡先に入った鈴木の番号を見てにやけがとまらない。
「なに喜んでるの?」
「なんでもない!」
二人は楽しそうに家に帰るのだった。
終。
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