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貓の王様  作者: 雨月 そら
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沖宮から 天久宮1

 天照を馬に乗せたはいいがこの後どうすればいいのかとサーを見た獅輝だったが正直、いくら神とてこの酔っ払いを連れ回すのは面倒だなと思いつつも流石に罰当たりかとそれは口に出さないように努めているが、明らかに面倒くさそうな目をしている。


 「...神様を連れて...次へ行くのか?」


 「ん?...大丈夫さぁ〜。獅輝が腰にしてる縄を無くさない限り、神様と繋がってる状態なんさぁ〜。それに流石に神様を連れ回すんわさぁ〜...だから、全部の神社を周り切って波上宮から綱を引っ張って呼べば、波上宮にひとっ飛びで神馬(しんめ)が運んでくれんさぁ〜」


 サーは獅輝の顔を見れば察したようで苦笑いしながら説明をし、獅輝はあからさまにほっとしたような顔になる。


 持参した酒さえ呑んでいれば皆機嫌良く待っているとサーから説明を受けて、沖宮の獅子へ一升瓶を渡すと獅子は女性の姿となって受け取った。

 天照の側に寄った女性の獅子は聞き取れないが、ボソボソと天照に囁いている。その後酒をちょろりちょろりと盃に注いで振る舞い始めると、ちびちびと天照は酒を呑んで女性の獅子と談笑して上機嫌である。


 それを見届けた獅輝は安心した様にホッと胸を撫で下ろし、サーは行こうと囁いた。獅輝はこくりと頷いてケースをまた背負った。



 サーに乗って次に着いた先は、天久宮であった。


 小さな池小さな橋が架かったその先に、小さな社がポツンとあった。

 獅輝は波上宮の社しか見ていないのでそれと比べるとあまりにも小さくて玩具の家にしか見えず、場所を間違えたのか、見間違えかと眉間の皺を寄せて不思議そうに小首を傾げたまま額に片手を添えて遠くを見るように周りをキョロキョロ見回している。


 「...何、してるんさぁ〜?」


 橋の手前で獅輝の奇怪な行動に、こちらも不思議そうな目で小首を傾げている。


 「ん?...天久宮って、どこだ?」


 「目の前」


 ぐっとサーは、目の前の小さな社に顔を向ける。


 「...小さくないか?...あれか?今回の神様は、小人か何かか?」


 「ちょちょ、失礼さ!弁天様さ!智慧、長寿、富を与えて下さる、それはそれは、気品溢れた美しい神様なんさ!!」


 誰もそこにいないのにサーは物凄い慌てようでユニークな顔が更にユニークさを増し、更には弁天の話をしている時はうっとりとして恋する乙女みたいな顔で頬が俄かに赤らんでいる。


 「...好きなの?」


 「いやいやいや...そんな畏れ多いさ!嫁っこも居るのに何言ってるっさぁ〜...でも、とびきり美人なのは、確かさぁ〜」


 「小人なのに?」


 「だから違うって、言ってるさぁ!!社が小さいのは、摂社って言って、天久宮と縁故の深い神様が祀られている社だからさ!本社とは別であるからして...仮住まいみたいなものさぁ〜」


 サーの反応が面白く揶揄った獅輝だったが、憤慨したように唾が飛ぶほどの勢いでサーは全力で否定をしてくるので、獅輝は自分の非を認めて苦笑するとこれ以上揶揄うのをやめる。


 「...別荘、みたいなものか」


 「まぁ...そんなようなもんさぁ〜。そんなことはどうでもいいから、ここまで来たんさ、さっさと会いに行くさぁ〜!」


 何やら興奮気味なサーを尻目に、釈然としないながらも獅輝は二拝二泊手を先程と同じ様に滞りなく行った。



 飛んだ先は洞窟のようなゴツゴツした岩肌が見える場所ではあるが普通の洞窟のジメジメ感はなく、蛍でも飛び交ってるのかというほど淡い小さな光があちらこちらでチカチカ光って温かみのある美しい場所であった。

 目の前には大きな橋があってその下には澄んだ深くはないが泉があり湧水がチョロチョロといい音を出しながら湧き出ている。

 泉を渡るための橋なのかそこを抜けると深い森へと続く、何とも奇妙な場所であった。

 その橋の真ん中で、泉を眺めながら楽器の琵琶でゆったりとその場の雰囲気に似合う美しい音色を奏でる一人の女性が立っている。

 顔立ちや清らかな透明な水でできた羽衣を身に付けた漢服のような姿も気品があり美しく、天照とはまた違ったかんじの天女である。


 「...あら... 波上宮の...一年振りかしら?」


 「はい〜、弁天様。お久しぶりで御座います〜」


 サーは弁天にポーッと頬が赤らんで、デレデレと照れたようないつになく甘ったるい感じで喋るものだから獅輝はサーを横目に若干引き気味な顔をする。

 そんな目で見られてもサーは見惚れて一向に獅輝に振り向きもしないものだから、勝手に始めてしまおうとさっさと背負っていたケースを下ろしてちゃっちゃと一升瓶を取り出し蓋を開けた。


 するとサーと何か喋っていた弁天が酒の匂いに反応して、獅輝の方へ視線を向けてくる。


 「泡盛の良い香り...ふふふ、(わたくし)に、頂けるのかしら?」


 弁天はにっこりと上機嫌そうな笑みを浮かべ、弾いていた琵琶の手を止めて獅輝へと手招きする。

 だが一向に話し掛けられないので、行くか行かないかで戸惑ってるとサーが凄い形相で睨んでいるのに気づく。尋ねようと口を開くもサーは早く行けとばかりに弁天のいる方向に前足を振ってるので、釈然としないまま口を閉じた獅輝は弁天の側に近付く。

 弁天は(ばち)を琵琶にある覆手(ふくじゅ)に仕舞い琵琶を両掌で支えてそっと胸元から上くらいに掲げるようにすれば、ふんわり琵琶が掌から離れて少し浮き上がると蜃気楼みたいに消えた。

 その後両手をくっ付けて掬うように掌を開くと、その中に半透明な水色のような小さな盃が現れる。それを両手で持った弁天は獅輝へ差し出すので、溢れないように酒を注ぐと弁天は待ってましたとばかりに直ぐにクイっと一気に呑み干す。


 「...うふふ、今年も上物ね...美味しいわ〜」


 天照と比べればほんの少量であるが、弁天の頬は薄ら櫻色に色付いて先程より上機嫌にうふふと小さな笑いが止まらない。


 「...弁天様、参りましょう!」


 あの一杯でふらふらしそうな弁天を馬に乗せて良いものか迷ったが連れてかないわけにも行かず、獅輝は少し迷ったが酔って聞き取れなくなるのも困るので今のうちかと大きな声で叫んだ。

 腰の金の縄が勝手にするりと伸びてくるりと弁天の周りを一周回ると、毛色艶やかなこれまた立派な青鹿毛の馬へとなって弁天を背に乗せていた。

 弁天はにこにこしながら盃をポンっと宙に投げパンっと空になった両手で手を叩けば、盃の代わり今度はふわりと羽根でも生えたように緩やかに落ちてきた琵琶が弁天の手の中へ収まった。

 べんっと軽やかな琵琶の美しい音が聞こえ始めると金の天久宮の御神紋が描かれた黒の面布を付けた元気だが小さな赤茶獅子の二匹が、陽気に琵琶の奏でる曲に合わせて小躍りしながら突然どこからか現れた。

 弁天の近くまで踊りながら来ると手品のマジックみたいにぽんと白い煙を上げた後に人の子、小姓のような姿に変化して行儀良く弁天を両側から挟んだ形で頭を下げると女の子の方は弁天を見守るようにその場に、男の子は獅輝の前まで小躍りしながら寄ってきた。


 「この度は、良きお酒をありがとうございます。弁天様も大層お喜びで、喜びの曲を奏でております。後は、(わたくし)めがお世話いたしますので、頂けますか?」


 男の子の獅子は言葉はやけに丁寧だが陽気な声で両手を獅輝に差し出すので、獅輝は持っていた一升瓶をその場の雰囲気に流されるまま渡した。

 男の子の獅子は嬉しそうに一升瓶を持って弁天の方へ戻ると女の子の獅子とその酒で弁天の曲で小躍りしながら懐から出したお猪口で酒盛りを始める。それは実に楽しそうな宴会ではあるのだが、弁天の酒を弁天以外が呑んで良いのだろうかと心配になった獅輝は止めた方がよいものかと迷っていると、弁天と目が合う。


 「良き、良き仲間に、ありがとう。げに、楽しや。褒美を差し上げないと、いけないわね」


 そう言って、何もない宙から何かをひとつまみ。女の子の獅子にそれを渡すと、女の子の獅子は獅輝の前に小躍りしながらやって来て差し出すので素直に受け取る。

 よく見るとそれは、黄金に輝く稲穂で、キラキラと輝いて見てるだけで気分が上がり、この光景が陽気な曲のせいもあってか獅輝は何やらテレビで観たマジックショーでも観てる気分になり、迷いも心配も薄れてだんだんと楽しくなった。

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