琉球八社のはじめ波上宮2
神様を称える儀式である例大祭が五月十七日で波上宮で執り行われるのだが、その前後に神幸祭、沖縄角力大会、琉球舞踊などの催し物が行われるのがなんみん祭だと陽気な赤茶色の獅子から獅輝は教えてもらった。
「今日は残念なことに最終日の四日目なんだけどね、その日に行う神幸祭っていう私が神輿に乗って人間に担がれて練り歩く祭なのだけれど...まぁ...ここのところ、病魔が流行って暫く祭が中止になっていたのよ。だから、恒例ではこの時に、他の琉球八社へ顔を出していたのだけれど...流石に今回ばかりは、人間達に病魔に打ち勝てほしいから一緒に練り歩きこうと思うのよね...そこでね、私の代わりに他の琉球八社へ挨拶に行ってほしいのよ」
「え?俺でいいんですか、それ?」
今だに緊張が残っているのか背筋をピンと伸ばし膝に手を置いて正座したまま、獅輝は不思議そうな顔をして小首を傾げる。
「まぁ、祭だから去年の地酒の出来栄えを確かめようってどこぞの飲兵衛が言い出したのがきっかけでね...他の神もそれはそれは楽しみにしてたわけなの...いつもはサーと一緒に新年の挨拶と迎えにそれぞれの神社へ行ってたの」
伊邪那美は、右側にいる獅子を肘掛けに置いた手で指すと一旦間を置いてから話し出す。
「そこで供物を貰い受けて戻ったらそれをここでシーが料理して、奉献酒と一緒に皆で堪能してたの」
今度は左側にいる獅子を指差して、残念そうな顔をする。
「...でも、私は行けないでしょ?今年は取り止めようって矢先にねぇ?...私の綱さえあれば迎えられるから、後は代理でも全然平気なのよ。ね、たいしたことないでしょ?」
憂いは一瞬でパッと華やいだ笑顔でうふふと上品に笑う割には力強い目で、如何にも拒否権なしと言わんばかりに見られたら断ることもできず、獅輝は伊邪那美の見えない圧に押され一瞬身体は怖ばり少し顔を引き攣ったが素直にはいと頭を下げた。
伊邪那美はそれを見ると満足げに微笑み、持っていた扇子をパチンと良い音を鳴らし閉じるとスーッと獅輝に扇子の先を向けた後、軽く上下に振った。すると、獅輝の頭の上に黄金に輝く縄ぐるぐる巻きにされて落ちて来た。
「あた!...ん?...あぁ...これがその綱ですか?」
下げていた頭を戻そうそしたら急に縄が落ちてきて頭に直撃し、頭を叩かれたような衝撃を受けつつもその床に落ちた縄を拾い上げる。
「ええ、そう。それがあれば皆連れて来れるのだけれど...その綱、ビーチ綱引き大会で使うのよ。それが無いとご利益ない感じになるから、それまでには全員連れて帰って来てほしいの」
「...えーと...それは、何時なんでしょう?」
「あぁ...でもね、いつも全島沖縄角力大会を観戦するの皆、楽しみにしてるのよねぇ...それを考えると...午後二時から始まる予定だったと思うから...余裕を見て午後一時三十分くらいに戻ってくれば余裕で間に合うと思うの」
「...で、今は何時なんでしょ?」
「そうね...サーがお前達が来る少し前に三十分前と言ったから...午前十時に近いくらいじゃないかしら」
「えぇ!!そ、それだとそんな時間ないじゃないですか!!」
余裕な伊邪那美に対し、獅輝は指折り数えるとしっかり縄を掴んでガバッと慌てたように立ち上がるも顔が少し引き攣っている。
「それは、心配いらないわよ。人間みたいに交通機関をとかまどろこしい移動方法は使わないの...というか、お前、ここへ来る時に使ったでしょ?あんな感じよ。神がいる所へ行くのだから、橋渡りすればすぐよ。慌てることはないわ」
それを聞いた瞬間、獅輝はあの急落下を思い出して青ざめた。