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貓の王様  作者: 雨月 そら
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首里城への道は琉球八社から2

 獅輝は獅子の阿形の背に乗って空を駆け登り、雲を突き抜けた。雲が道標となったように道を作り波上宮へと向かっていた。


 お婆婆のことは気掛かりであったが、八咫烏が黒ずくめの着物で背の高い男性に、獅子の吽行は糸目で無口で気の良さそうでかっぷくのよい和服の女性の姿へと化け、寝てるお婆婆の顔を拭いたり水を含ませた綿で口を湿らせたりと甲斐甲斐しくてきぱきと世話をしているの見ていたら心配いらなそうでホッと安心して任せれた。

 何より吽行は阿形と夫婦で嫁であり夫の世話をしているらしく、お婆婆がこの地に不慣れな時に面倒を見ていたのは吽行であったと聞いたから余計に信頼できた。

 正直な話、世話は吽行がほぼ一人でやっていて八咫烏は口はよく動くがその見た目同様、不慣れな感じだった。もさっと背中まである黒々とした髪は後ろで結っているのはいいが目元を覆い隠すほどの長い髪はうっとおしく、如何にも道楽者な感じで八咫烏だけではここまで信用できなかっただろう。


 「獅輝のダンナ、もうすぐ波上宮ですぜ。一気に降りるんでよーく捕まっててくんな!」


 獅輝は雲の上なんて初めてで、そもそも雲の上を走れるのが珍しくジロジロ物珍しそうに見ていたものだから、油断していた。


 「行っきますぜぇーー!!」


 阿形の掛け声の後、急に獅輝の身体がガクンと落ちてそこから一気に急降下。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 咄嗟の判断で阿形に跨っていた足をクロスさせ阿形の下腹をギュッと掴んだので振り落とされることはなかったが、ジェットコースター並みに落ちて驚きで大声を上げるし恐怖に涙が勝手に溢れ、着ていた甚兵衛が強風に煽られバタバタ激しく肌を打ちつけながら音を立てた。

 溢れる涙と一緒に甚兵衛が浮遊しくるのを、どうにか持ち前の馬鹿力で気圧に抵抗するように無理矢理布を下に押し下げ引っ張り続けるのが精一杯であった。



 高い崖、珊瑚でできた岩の上に鎮座する波上宮(なみのうえぐう)は緑に囲まれ、崖の下には波の上ビーチがあり広大な海が眺められるとても景色の良い場所である。

 沖縄港も近く海沿いを車でドライブしながら来れば素敵な思い出となりそうな所だが生憎、獅輝は空から落っこちて来たようなものなのでちっともそんな景色を楽しむ余裕はない。

 引っ張りすぎて今にも切れそうでヨレヨレの甚兵衛は片方の肩からずり落ち、髪は風力でいつもの寝癖より酷くボサボサで、顔が何よりげっそりと青白い。

 気分が悪くなって吐かないだけましといった感じで、阿形から降りた獅輝は波上宮の口を開いた赤茶色の狛シーサーにすりすりしている阿形の横で呆然と立ち尽くしている。


 「お〜お〜、阿形じゃねぇの。久しいなぁ〜。今日は、伊邪那美いざなみ様に用事って聞いてるさぁ〜。中で待ってらっしゃるから、サクッと行ってこいやぁ〜」


 「久しぶりだなぁ〜。やぁ〜、いつも話が早くて助かるわ。じゃ、お言葉に甘えてサクッと行ってくるわな。また、後でなぁ〜」


 獅輝はほったらかしのまま、土像のシーサーと手早く挨拶を交わし終えると阿形は獅輝の方へくるっと振り向いたのだが、一向に惚けたままなのでやれやれと溜息混じりに小さく首を振るとトコトコと近寄って甚兵衛の裾を噛んでクイクイっと引っ張ったら丁度そこがほつれていたのかビリリと破けた。

 その派手な音と布を強めに引っ張られ感覚で、目を覚ましたように獅輝はビクっと面食らったような顔で目をパチクリパチクリと瞬きしてから恐る恐る破けた音の方を見やると、阿形と目が合う。


 「...あ、すまねぇ...ダンナ...」


 すまなそうな顔で犬のようにくーんと頭を下げて上目遣いで見てる阿形を、怒れる訳もなく苦笑するしか獅輝にはできなかったのだが、そのお陰で動転してドクドク鳴っていた心臓も静かになって落ち着きを取り戻したのでよしとした。

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