首里城への道は琉球八社から1
八咫烏の話しによれば、首里城には三十三頭の龍が住んでいてその龍達を束ねる龍王が秘宝の在処を知っているとのことであった。
ただし、おいそれと会える相手ではなく、手順をきちんと踏まないと会えないのだという。
そもそも龍王達が住んでいる首里城は、人間達が普段見ている首里城から入ることは出来ず、正殿前で互いに向かいわせに立っている龍柱、口を開いている阿形像の樂阿、口を閉じている吽形像の樂吽に何かをすると神の住まう場所、ここでいう首里城の龍の巣窟へ導いてくれるのだという。
ただお婆婆に助けられてからというもの、獅輝はお婆婆と二人だけしか住んでいないこの小さな島から一歩も出たことがなかった。
もちろん、病気のお婆婆を一人置いて行くわけにもいかず、獅輝は頭を抱えて悩んでいた。
「獅輝坊、そんな悩むことはないぞ。お婆婆のことは、この俺様が手厚く面倒みててやる。俺様が行っても意味がないからな、獅輝坊、お前が行ってこい、な」
そこへ夜空からスーッと降りてきた八咫烏は獅輝の肩へ留まり、片方の翼で獅輝の耳を覆うとコソコソっと耳打ちをする。はたから見れば弱ってる人間を洗脳しているそんな風に見えるのは、八咫烏のよう子と怪しく細められた目の性でもある。
「で、でも...俺はここ以外知らないし、お婆婆がいつ急変するかも...分からないだろう?...側に付いててやりたい...しな」
頭を抱えていた両手を諦めたようにストンっと膝の上に下ろして力無く悲しげに笑い俯く獅輝を、八咫烏は悲しげで困った顔してぴょんっと獅輝の真っ正面に飛び降りた。そして、くわっと凛々しい顔でビシっと片方の翼を指差すように獅輝へ勢いよく向ける。
「何を弱気な!お婆婆は、そうそうへたばりやしねーぞ!お前しか、救えね〜んだ!しっかりしろ、獅輝坊!!」
大声で叱り叫ぶ八咫烏をゆっくりと顔を上げ視界に入れた獅輝の目は先程までどんよりと雨雲みたいに影っていたのに、八咫烏の言葉で力がみなぎってきたのか今は力強く輝きを取り戻していた。
「まぁ、それにだ、獅輝坊が会わなきゃいけねーのは、神様、仏様の類だからな。普通に行っても会える訳がねーんだな」
「ん?それなら、どうやって会うんだ?」
折角輝いていた獅輝の目が曇り出して、困惑して眉を下げ口元がぎゅっと窄められている。
「まーまー焦りなさるな、獅輝坊よ!何せ、そのためにこの、俺様がいるんじゃねーか!」
八咫烏は調子良くポンポンと宥めるように自分の片方の翼で獅輝を叩くと、嘴を少し自慢げに上げもう片方の翼を自分の胸元へ置くと任せろと言わんばかりに胸を張る。
「よし、じゃー早速、獅輝坊の旅のお供紹介しよーじゃねーか!外へ出ろ!紹介してやるからな!」
もう一度ポンポンと軽快に翼で獅輝を叩くと、その翼でクイクイと庭を差してからくるっと背を向け一気にまた満月の夜空へとぐーんっと飛んで満月の前で大きく翼を広げる。
八咫烏を追いかけるように、獅輝は部屋から庭へと飛び出る。縁側にはサンダルがあるのに慌てすぎて、裸足のままだ。
そんなことには全く気に留めるよう子もなく、希望の光でも見つめているようにじっと八咫烏を見上げている。
「さーさ、目覚めの時間だ!お前達、この八咫烏様の命よ、しかと聞け!さっさと起きろい!」
そう言った八咫烏は、ぐんぐんと満月も隠してしまいそうな程大きくなったように見える。円を描くように両方の翼を大きく掲げると身体が月の光を浴びてキラキラ輝き、そしてそこから大きくまんまるな満月を描くように勢いよく翼を振り下ろす。
すると翼から花風が吹いて、桜はないのに月明かりにキラキラ輝く桜の花びらが風と共に屋根へと舞い上がった。
その頃には八咫烏はいつもの八咫烏で、それよりも屋根に一対魔除けとして置かれていたシーサーの焼き物がブルブルブルと身体を震わせて目をぱちくりぱちくりさせている。土だった身体も今はキラキラしふさふさの毛に覆われた愛嬌があるシーサーの面影がある獅子になっている。
そのシーサーはお互いの顔を見合わせてからピョーンと軽快に屋根から庭へと飛び降りて、獅輝の前に前足を付いて礼儀正しく座るとぺこりと挨拶した。すると、八咫烏は下へ降りてきてまた獅輝の肩へ留まる。
「こいつらは、この家をずーっと守ってきたシーサーさ。口がパカっと開いてるのが獅子の阿形、口がグッと閉じてるのが獅子の吽形だ。こいつらなら、沖縄のどこへだって行けるぞ!ま、一緒に行くのは阿形だが、これで一安心だろ!な!気兼ねなく、宝探しの旅を行ってこい!」
八咫烏の紹介を受けて改めてシーサーを見つめる獅輝は、一人ではない、という気持ちが勇気になってやっと普段通りの笑顔を取り戻した。