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貓の王様  作者: 雨月 そら
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新たな旅立ち?八咫烏を共に

 夜、満天の星空が輝く空。

 大賑わいであった宴も祭も今では、嘘のようにシーンとしている。

 ここへ訪れた上級の神々は、守護神の獅子の片割れ達が迎えに来てガタイのいいがっしりした黒い牛に乗ってゆったりと夜空の星を眺めるように帰っていった。


 宴会場は獅輝と獅子達が片付けたのでガランとなにもなく、ただそこは篝火だけが辺りを照らしているだけ。

 そこに海を眺めるように横になりながら、お猪口でちびちび酒を飲んでいる伊邪那美がいる。

 獅輝はそろそろかと思い、伊邪那美へと足音立てずにソロソロ近づいて正座する。その瞬間、伊邪那美はお猪口を畳に置き、上半身をゆったりと起こしてからくるりと獅輝と向き合う。


 「獅輝、今日はよく頑張ったわね。無事、ことなき終えて、皆、満足して帰っていったわ。ご苦労様」


 「いえ、お役に立てたようで、何よりです」


 獅輝は両手を膝に置き、軽く頭を下げる。


 「そう、固くならなくてもいいわ...それより、獅輝が私の所へやってきた、といことは...例の件よね?」


 「はい、どうか、お教え願います!」


 下げた頭をグンっと勢いよく起こし両手を畳に付くと、少し勢いづいて伊邪那美に少し顔を近づけるような状態で前のめりになる。


 「そうよねぇ... 龍王に会って、秘宝の在処を知りたいのよね?でもねぇ...今のあなたじゃ、門前払いになると...思うのよねぇ」


 「...ん?なんで...でしょう?」


 獅輝は眉間に皺寄せ、怪訝そうじっと伊邪那美を見る。伊邪那美がすっと左手を動かせば透けた閉じた扇子が現れて、器用に扇子を開くと目元から下を隠す。


 「...竜王は...とても、頑固で偏屈者なのよ。私達共でもなかなか会おうとはしないし、ことによっては聞き耳持たないわ。それこそ下級の神と会うなんて、プライドが許さないらしいの...神は神だと思うのだけれど...だから...彼に会いたいなら、まずは格を上げないと会えないのよ」


 獅輝の片眉がピクッと上に跳ね上がり更に眉間に皺が寄ってムッとした不快な顔になったのだが、一旦すっと鼻から息を吸い込んで目をぎゅっと一瞬閉じてからカッと目を見開きフーーンっと鼻から荒く息を吐き出した。顔は薄らまだ納得いかないような表情ではあるが、姿勢を正して両手を膝の上に乗せると胸を張る。


 「なら、どうすれば良いのですか!」


 視線は少し斜め上で口がへの字に曲がって、無理矢理感情を抑えた様に声を少し張り上げる。そんな獅輝を見ていた伊邪那美は、笑いを堪え扇子で顔を全体を隠してしまう。真剣な獅輝に対しての配慮なのだろうが、傍目からしても確かに獅輝の一連の表情は面白いので仕方ないのかもしれない。

 一笑いがやっと収まって伊邪那美はすっーと扇子を目元まで下げコホンと小さく咳払いをすると、先程までとは変わってすっと真剣な眼差しで獅輝を見る。

 伊邪那美の視線が目の端に入った獅輝は伊邪那美へと向き直す。いつもと変わらないはずなのに、すごい威圧感を感じて一瞬心臓が鷲掴みされたようにドキっと跳ね上がる。どうにか冷静保とうと平然とした顔はできたのだが、心臓は今でも小さくドクドク早鐘を打っている。


 「ねぇ、獅輝。初めてにしては、ここまでよく頑張ったと、私も評価はしているの。お婆婆の件で焦る気持ちも、分からなくもないのよ。でも、世の中には通りというものがあって、私がいくら上級の神だとしても、どうにもできないこともあるの。それがまさに、龍王の件。ただ、修行に出て終われば下級の神も格が上がるの。普段はなかなか許可が降りないのだけれど...今回は特別にここに集まった上級の神々の後押しがあって、許可が降りたわ」


 伊邪那美はそこまで言って、雰囲気が和らいでニコッと微笑む。獅輝の早鐘の如く鳴っていた心臓は正常な鼓動となってそれは段々と希望の音のようで、やっと獅輝にも活力がみなぎって顔にも笑みが戻る。


 「私達に、お婆婆を元通り元気にする力はないのだけれど、他の神々もお婆婆を助けために力を貸してくれるそうよ。だから、現状を維持することは可能になったわ。お婆婆の事は私達に任せて、修行に励みなさい。そうすれば龍王にも会え...あなたの役にも、いずれ立つはずよ」


 「...そうか、うん。俺、頑張って、修行に励みます。早く、お婆婆には元気になってもらいたいから...」


 獅輝はそう話ながらお婆婆のことを思い出し、今はどうすることもできない無力さで悲しかったが、それでも希望はまだあると左手の胸に右手を置いて心臓の鼓動が伝わると、もう一度勇気が湧いてきた。


 「ワハハハ!!!しーきー坊ー!!!この俺様が、直々に迎えにきてやったぞ!!」


 ドォォン!!!


 夜空から星でも降ってきたかの如く、勢いよく獅輝と伊邪那美の側に鴉の姿の八咫烏が降り立った。その勢いは隕石とは言わないが、縦型地震でもあったかのように畳が跳ねるように揺れた。


 「全く...もっと場の空気、というものを考えられないの?八咫烏」


 呆れたような顔でため息を付きながら伊邪那美は、ジロリと軽く八咫烏を睨む。


 「何故俺様が、そんなものを考えないといけない!それより話は済んだのだろう?善は急げだ!詳しい話は道中するとして、今から、熊野本宮大社へ行くぞぉ!!!」


 八咫烏がそれはそれは大きな声を挙げると、どこから現れたのか月をも隠すくらいの大群の鴉が上空に集まった。この鴉、普通の鴉と形は同じだが目がルビーのように赤く、これだけ集まればガァーガァーっと五月蝿いくらいだろうに不気味なくらい静かだ。


 「待て待て。私の話はまだ終わってないわよ。全く、そのせっかちさは変わらないわね...はい、獅輝、このホタルガラスのネックレスは、私からの褒美よ。今日神々からもらってきたものは、あなたが頑張ったからもらえたのだからあげるわ。このホタルガラス中へしまっておいたから、必要な時にそれをぎゅっと握り締めて願えば、それが出てくるわ...頑張ってね」


 伊邪那美は優しい顔をしてパチンと扇子を閉じると、トンと空いている反対の掌の上に扇子の先を置く。そこがポッと輝いて扇子が消えるとホタルガラスのネックレスが現れ、それを伊邪那美は両手で持ってするりと立ち上がり近寄るとそっと獅輝の首に掛けた。


 「有難う御座います!!」


 獅輝は両手畳に付くと、伊邪那美に深々と頭を下げた。

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