料理は力が必要?
シーについて行きついた先は、忌火屋殿という神様へ食事を捧げるための台所であった。かまどと水道と沢山の材料と大きなレトロな長机があるだけで、とてもシンプルである。水道だけ、何故か現代的な仕様である。
「獅輝、早速ですが、神様から頂いたものを全部出して頂けますか?」
シーは手に持っていた経木の包みとパイナップルを長机に置くと、にこっと笑って獅輝の懐に視線を向けてくる。
「あ、うん、待ってくれ」
長机まで獅輝は軽快にトトトと近くとゴソゴソと懐から、輝く木の枝、黄金に輝く稲穂、金の小麦の穂、金の卵を取り出す。
「これ以外にも頂いたんだけど、どうやって出すのか分かんないやつもあって、知ってる?出し方」
全部出しきってから、弓矢や水も頂いたのを思い出すと弓矢はともかく、水はどうやって出すのかと手を表裏交互にひっくり返してながら不思議そうな顔で見つめた後、小首を傾げながら獅輝はシーに視線を移して問う。
「あぁ...そちらは、今は特に使わないので、いつか使う時が来た時に使えばいいのですよ。御使いのご褒美とでも思って、その時まで、頂いた感謝を忘れずに、獅輝が持っていればいいと思いますよ」
「...その時?...う、うーん、よく分からないが、分かった!」
獅輝は不思議そうな顔をしながら、傾げた首をさらに傾げていたが、まぁいいかと首を元に戻してニカっと笑った。
「では、まずは新鮮な魚が必要ですね。そこの輝く木の枝で、釣ってきて下さい」
シーが輝く木の枝を指差してから、壁の方を指差すと急に大きな扉がバン!っと開いてその向こうは海が見えた。
「うん...ん?え?は?...どうなって...というか、これで?」
急に扉が開いて海が見えたものだから、獅輝が驚きすぎて目を見開いたものの言葉が上手く出てこず、シーが指差した輝く木の枝を掴んでまた小首を傾げ困ったようにシーを見る。
「それを両手でしっかり握って頭の上に掲げ、大きく振り下ろせば釣竿になって勝手に釣糸が海の方へ飛んでいきますから。何も、難しいことはありませんよ」
「これを...うーん...握る」
しっくりこないまま獅輝はシーのに言われた通りに構え、大きく輝く木の枝を降り下ろす。
すると枝はグググっと通常の釣竿くらいに伸び、その先端からは釣糸が伸び、勢いよく海へと飛んで入って行った。
ぽちゃん ぽちゃん
二度ゆっくり引きがあったように、釣糸がぐんぐんと引っ張られて沈む。何か掛かったかと釣竿をグッと握った瞬間、そこからは尋常じゃない力で引っ張られる。
「な、なんだ!!何が掛かった!!」
軽い気持ちでいた獅輝は海に引き摺り込まれないようにその場に腰を下ろしてから身体を捻り脇に釣竿を挟むと握っていた両手をずるずると少し前に移動させる。顔は真っ赤で、段々と顔から大きな玉のような汗が流れ出てくる。
すると何故か釣竿を引っ張っている時にどこからか分からないが、人間のセイヤーとかいう声があっちからこっちから無数に聞こえてくる。
それを聞いながら獅輝はどうにか踏ん張ったが、力は強まるばかり。そのうち人間の大きな声援が聞こえてきて、その声に勇気付けられるように獅輝は負けてたまるかと釣竿を無理やり振り上げる。釣竿は限界までギチギチとしなって折れるかというところで、それは海から飛び出ると放物線を描いて扉のこちら側へとドーンっと釣り上げられ床に落ちた。
ドンドンドンドン スパッ
床がまな板みたいになったその上で、それはそれはどでかい青く海にように輝いた美しい鱗のイラブチャーがビチビチと身体を打ち付けながら飛び跳ねている。
それ見たシーは手早く手を一回ブンっと振り、その手には大きな包丁が握られている。それを両手で握ると大きく上に飛び跳ね、イラブチャーを真上から一直線に、頭と胴体に真っ二つにした。
「お見事です!あ、ほら、綱引きも勝負がついたようですよ」
サーがブンっと手を振って包丁を消すとテテテっと軽快に近寄ってきて、またもや尻餅をついて尻を撫で何も見てない獅輝の肩をぽんと軽く叩いて、扉に向こうを指差した。
そこには広大な海をバックにビーチではたくさんの人間が溢れ、ちょうど綱引きの勝負が終わって大歓声が沸いていた。