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貓の王様  作者: 雨月 そら
22/28

金武宮から識名宮2

 「さぁ!!行けや!!急げや!!」


 午ぬふぁはそれはそれは大きくいい声で、両前足を高らかに蹴り上げ空に向けて叫んだ。


 ダン!!


 午ぬふぁが勢いよく地面に前足を叩きつけると、先程まで後ろにあった社は大きな大きな木となって空高く伸びていく。ただその木は中が空洞になっている不思議な木で、入口というのか窓と言えばいいのか、数箇所穴が空いていた。

 そこの一番下の大きい穴から勢いよく、二匹の白い獅子がぴょーんと飛び出して午ぬふぁの横に並んだ。眉毛が太く少しいかつい顔のその二匹の内、口を開けた方が左、口を閉じた方が右という立ち位置だ。

 くるりと木の穴の方を向いてから、顔だけ獅輝達の方向けてじっと待っているように見ている。

 獅輝はサーと顔を見合わすと互いに頷き合って、パイナップルをケースに入れて背負うとサーの背中に跨った。


 サーが走り出すと前の獅子達も走り出して大きな木の穴の中へと入って、獅輝達も後を追って中へと入って行った。

 先程のトンネルと一緒で少し走ったら直ぐに外へ出て、そこは海、いや、海の上の空であった。

 走り続ける中、気になって獅輝は後ろを振り返れば、大きな木は蜃気楼の様にゆらゆらと薄らいで消えていった。


 「獅輝!波上宮が、見えてきたさぁー!」


 いつになく声が嬉しそうに浮かれていて、獅輝の興味はもう目の前。

 宝石のようなコバルトブルーの澄んで美しい海が目の前に広がり陽の光に照らされてキラキラ水面が輝いている先に、大型船のような地を這う龍のような断崖の上に最初に訪れた神社である、流造の立派な社が見えた。

 少しの間離れていただけなのに、獅輝は懐かしさを感じた。今までお婆婆で孤島で二人暮らしで体験したことがないことばかりで、驚いてばかりだった。

 それは孤島で初めて一人で探検に出掛けた冒険している時のワクワク感と、似ていると思ったのだ。それだけ充実した時間でそれももう終わるとなると、自分の家ではないが役目を終えたという安堵もあって懐かしさを感じたのかもしれない。


 来た時の拝殿は見当たらず、穢れを知らない真っ白で艶やかな玉砂利が一面に敷かれた場所の中央にポツンとある本殿に辿り着いた獅輝達を待ち構えていたのは、海の色を思わせる琉装を身に纏い、ハイビスカスが描かれた小さな丸い柄の長い団扇(だんせん)を優雅に自分で仰ぎながら少し酔いでも回っているのか頬を桜色に染めた伊邪那美と、オレンジ色の少し控えめな感じの琉装を着たシーであった。


 「やっと、来たわね。時間、ギリギリよ。さぁ〜、出迎えの準備をなさい!」


 団扇をシーにすっと渡すと、伊邪那美は胸より少し上で両手をパンパンっと叩き高らかと鳴らす。

 すると識名宮の獅子がはーいと可愛らしい声を上げて、少し遠くの下の方で盛大に賑わっている祭の方へ近づいていく。

 トントンっと両獅子が地面を軽快に蹴って空に向かって高く飛び跳ねると、地面より七宝模様の大玉も現れその大玉の上にちょこんと乗った。


 アオォーーーーン!!


 大玉に乗った二匹の獅子は真っ青に晴れた大空へ向かって、それはそれは大きく響く声でどこか可愛らしさのある声で遠吠えした。


 ドドォーーーーン!!


 獅子だったはずの二頭は、それはそれは大きな真っ白で真珠のような美しい堂々とした鳥居になったのだ。


 「さぁー!獅輝!仕上げよ!その鳥居に前に立って、おいでませ!って、大きな声で神々を呼ぶのよ!」


 いつの間にかシーから団扇を受け取った伊邪那美が鳥居の向こうの空をそれで指して、陽気に大きな声で叫んだ。


 獅輝はよく分からないままサーから降りると、慌てて鳥居の前に立つ。


 「おいでませぇーーーー!!!」


 身体を少し前屈みに両手を口に添えて大きく息を吸い込んでから、全身を使って獅輝は大きな声を示された空に向かって張り上げた。


 するり


 獅輝の腰に巻き付いていた金の縄が若い元気な龍のように、鳥居を潜って空へとビューンっと伸びてある一定の場所までピタっと止まる。


 グン


 急に力強い力で引っ張られ、焦りながら獅輝はそちらへ引き摺られないように腰をどっしりと落として綱を両手で持つと一生懸命綱を自分の方へ引っ張った。

 すると、パァーッと花火みたいに一瞬急に空が明るくなる。


 「わっはははは!!!」


 その光った場所から先頭で午ぬふぁが金の綱をくつわにして身に纏い、大声で楽しげに笑いながら獅輝の方に向かって空を駆けくる。その後ろには五本の金の綱が伸びていて、更に先程会ってきた神々を乗せた馬達と繋がって訪れた順に縦一列で駆けてくる。


 「間に合ったわね」


 そう言った伊邪那美は、団扇を大きく弧を描くように横にすっと振った。

 すると鳥居から内側は一気に景色が変わって、豪華絢爛な宴会場となった。

 ただ獅輝は自分のことで、手一杯でそんなことすらも気づけていない。


 午ぬふぁが先頭に神々は次々と鳥居を潜り抜け、獅輝の頭上を通り抜ける。宴会場の真上に馬達は止まる。午ぬふぁが人の姿になると、下に敷き詰めてある畳の上に飛び降り、神々が乗っていた馬はすっと霧のように消え、神々も畳の上へ降り立った。そこでやっと強い力で引っ張られていた獅輝は解放されて、気が抜けてその場にドカッと大きな音を立てて尻餅をついた。

 そんな獅輝はお構いないしに神々の宴会は始まって、丁度いい頃合いで下で始まった全島沖縄角力大会に夢中になって歓声を上げて観戦し始めたのだった。

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