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貓の王様  作者: 雨月 そら
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金武宮から識名宮1

 トンネルに入れば真っ暗で、これがずっと続くかと思いきやタッタッタッっと短い距離を走ったらあっさりと外へ出た。

 外といっても鍾乳洞には変わりないのだが、大きな木の根がドドンっといくつも天井から地面に鍾乳石と入り混じって生えていて、その不思議な光景が地底に紛れ込んだのかと錯覚させる。

 他の鍾乳洞よりは洞窟に似ていて、今までよりは寒さも感じず涼しいくらいで快適といえば快適である。ただ全く湿気がないかといえば、そうでもないのでやはり獅輝的にはあまりいい環境ともいえない。

 ただ、獅輝は今までみたいおっかなびっくりではなく、湿気による少しの不快感はあるものの調子が戻っていつも通りに堂々してきた。


 その鍾乳洞の中で一番大きな木の根に、サーが近寄って止まる。獅輝はサーから降りるとその木の根に近づいてみれば、正面には石造の簡易的だが小さな拝場(うがんじゅ)があった。


 「なぁ、サー...ここは...神社か?寺か?」


 獅輝は腕を組んで小首を傾げながら、拝場を見下ろして不思議そうに見つめている。


 「識名宮(しきなぐう)って言う、神社さぁ〜」


 「へぇ...そうか、うん、よし!」


 獅輝にとって神社か寺かなどどちらでもよいが、今までの経験でしきたり通りに動くのが良いと、いつも通りに元気よく二拝ニ拍手した。



 先程まで鍾乳洞の仲で暗めだったのに、今は青空が広がる外で太陽の日差しが眩しくて獅輝は少し目を細めた。

 目に前には社があるが今までような木造ではなく、コンクリートで正面は鋼の引き戸が並んで何枚も重ねられ中央の賽銭箱がある入口は大きく開いている。

 そのすぐ手前に大きな柱が二本あり、橋に見立てたような三段の階段下には、仁王立ちで腕を組んで大きく足を開いた真っ白なサラサラ長い髪をした馬面で白に金刺繍と煌びやかな着物を着て真っ赤な太縄を背中で蝶々結びでたすき掛けした大男がいた。


 「ヤーヤー!!やっと来たね、貓くん!待っていたいよ!イヤー、もう時間もないしね、うん、もうサクッとこうじゃないか!さ、その背中に背負ってる最後の一本、僕にくれたまえよ!」


 獅輝を見つけるやいなや大男はニカっと真っ白でキラッと光りそうな歯を見せつけて笑うと、バッと片手を大きく挙げてもう片方の手は腰に、やたら大きな声で話し掛けて自分から近寄ってきたと思えば獅輝のすぐ目の前にそれはそれは大きな真っ白な盃をグッと出してきた。

 急に大きな盃を顔の目の前に出されたものだから、獅輝はビクッと小さく驚いて少々笑顔も引き攣っているが、酒を要求されているのは分かっているので無視することもできず、少々ぎこちなくもケースを後ろに降ろすと一旦後ろを向き最後の一本を取り出してから蓋を開けた状態で正面を向き、おずおずと酒を盃に並々と注ぐ。すると丁度いい具合に、全部の酒が入ってしまった。


 「よし!頂こう!」


 大男は一升瓶分の酒が入って重たそうな盃を軽々と片手で持ち上げて、ゴッゴッゴッっと息継ぎなしに一気に飲み干して、あれよあれよという間に盃の中の酒が綺麗に無くなった。


 「よし!みなぎる!みなぎるぞ!さぁ!いつでも良いぞ!来るが良い!!」


 酒が飲み終われば一瞬の間に盃は消えて、大男は片手で自分の胸をドンっと勢いよく叩くと、やはりそれは大きな声で獅輝を煽る。

 獅輝も大男の勢いに飲まれて、取り急ぎいつもの言葉を叫ぼうとして、ふと思い止まる。


 「...()ぬふぁ(しん)様さぁ〜」


 すかさず横にいたサーが、ボソボソっと小声で教えてくれた。


 「サンキュ!」


 獅輝もつられて小声で感謝し、笑顔をサーへ向ける。


 「では改めまして、午ぬふぁ神様!参りましょう!!」


 腰を負ってしまった感があったので咳払いを小さくしてから、午ぬふぁに負けないくらい大きな声を上げた。


 「おぉおお!!」


 午ぬふぁも片手を握り締めて上に挙げながら、負けじと大きな声を張り上げた。

 するといつものように腰に巻いていた金の縄がするするっと勝手に解け、午ぬふぁの方へ延びて行った。

 そして午ぬふぁを一周ぐるりと回ると、今までの一番難いがよくて大きな大きな艶々で美しい毛並みの輝くほどの真っ白な馬がそこに居た。

 ただ通常であれば、馬に背中には午ぬふぁが乗っているはずがいない。不思議に思った獅輝は、キョロキョロと辺りを見回す。


 「わははははは!僕は、午年の神だからね。馬が、馬に乗ることはないのさ!それに僕は、先頭に立って牽引する役目があるからね。さー、それはいいとして、僕の好きな相撲が始まってしまうよ!君達は、僕の守護神を御遣いとして一緒に行かせるから、後について波上宮まで急いで帰るんだ、いいね!」


 急かすように少し早口になった午ぬふぁに、獅輝は促されてケースを背負う前に空瓶をケースに戻そうとする。


 「おっと、あまりにも急ぎすぎて忘れるところだった!ちょっとその瓶を、僕の足へ投げてくれるかい?」


 意味不明なことを言い出す午ぬふぁに、獅輝は戸惑うものの瓶を弧を描くようにそっと足に向けて投げた。

 丁度よく左前足へ瓶が落ちたのだが、なぜか午ぬふぁはその瓶を獅輝と同じように蹴り返してきた。ただ、高く蹴り上げたので瓶はクルクル回りながら陽の光を浴びてキラキラ輝きながら獅輝の元へ戻ってきた。

 すると不思議なことに、両手で受け取った時にはパイナップルになっていたのだ。


 「それは、沖縄のあまーくてうまーい、パイナップルだ!僕が大好物でね。君がここまで来た、褒美だ!受け取りたまえ!」


 「有難う御座います!」


 最初は驚いたものの褒美と言われれば持って帰らないといけないし、何よりなんとなく労われた感じがして獅輝は嬉しさを感じた。

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