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貓の王様  作者: 雨月 そら
20/28

普天満宮から金武宮2

 一番奥まで進むと小さな岩山の上に小さな石祠があって、ぽぉ〜っと白く淡い光を放っていた。近く寄ると光は消えて、流石の獅輝も何かあるなとサッと身構えて振り返った。


 「どっちを、見ているのですか?」


 チロチロと背後から頬を何かが舐める感触と耳元でそう囁かれ、全く気配を感じなかった獅輝はそれはそれ驚いて毛という毛を逆立て直様くるりと正面を向きながら後ろにサッと飛び退く。


 「ふふふ、随分と可愛らしい貓さんですね」


 先程まで石祠が上にあった小さな岩山だったのが、それは大きな大きな真っ白く鱗がキラキラと美しく光るとぐろを巻いた蛇となって、先が二つに分かれた細くて長い真っ赤な舌を出したり引っ込めたりして、目を細め面白がったように獅輝に顔を近づけてじぃーと見ている。

 流石の獅輝もここまで巨大な蛇は見たことがなくて、驚きで目を見開いたまま言葉も出ない。ただ、前とは違い胸がざわつく嫌な感じはしないので、その場から逃げることもなく巨体にただただ圧倒されていた。


 「...獅輝」


 横にいたサーがボソっと声を掛け、前足でトントンと獅輝の足を軽く叩く。そこでようやく獅輝は金縛りから解かれたように目をぱちぱちっと瞬き胸いっぱいに溜めた息をふっと一気も吐き出すと、背中のケースを目の前の地面に下ろすと一升瓶を一気に抜き出し蓋を勢いよく開け、それを巨大な蛇に高々と掲げると頬がはち切れんばかりに大きく一気に息を吸い込んで胸を張る。


 「水天様、お待たせ致しました!!」


 目の前の巨体に負けない様に、盛大に大きな声で叫んだ。ビリビリと辺りが僅かだが震える程の大きな声に、巨大な蛇は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして目を大きく見開き、チロチロ出ていた舌もシュッと引っ込めて一瞬時が止まったように動かない。


 「...ふ、ふっはははははは!」


 急に巨大な蛇は笑い出しと思えば、大きな蛇の身体が急に輝き出した。キラキラキラと小さな星屑みたいな光が全身を覆い隠した瞬間、ぱぁーんと花火が花開くように弾け飛んで辺りを燦々と明るく照らした。

 そして、巨大な蛇がいたはずの場所に、先程の蛇より一回り小さく細めの蛇と、ツルツルピカピカの坊主頭に糸目で垂れ目の黒縁メガネをした修行僧のような出立ちの優しそうな雰囲気の小柄な男がいた。


 「おお、今年も良い出来だぁ〜。我慢できん、我慢できん、我は我慢できんぞぉ〜」


 小柄な男の真後ろで守るように佇んでいた蛇は、鍾乳洞に広がった酒の匂いに小さな鼻をぴくぴくさせて身体をくねくねさせて小柄な男の顔の横からぬっと顔を出してじぃ〜っと獅輝が掲げている一升瓶を物欲しそうな目で見ながら大きな口から今にも涎が垂れそうである。


 「これ、銀滝(ぎんりゅう)、好物の酒に目が眩んで、礼儀を軽んじてはいけませんよ。しきたり通りにしなさい」


 そう言って小柄な男が容赦なく銀滝の顔を片手でぐいっと押し戻しながら、銀滝と顔が向き合うとすっと薄く目が開いて厳しい目を向ける。


 「お、おう... 日秀(にっしゅう)...分かった、分かった」


 首を竦めるといっても蛇のどこが首かは分からないが、図体はでかいがそんなふうにシュンとした子犬のような感じに見えてた獅輝は、銀滝には申し訳ないとは思いつつも小さくクスッと笑ってしまう。


 「すみませんね、そこのお方。銀滝は悪い奴ではないのですが、少々悪戯好きというか、お調子者でね。さ、気を取り直して、こちらへどうぞいらして下さい」


 くるっと獅輝の方を向いた日秀は先程の優しげな顔に戻り、小さく手招きをしている。獅輝は掲げていた一升瓶を下して両手で持つとトトトっと軽快に近寄った。

 すると銀滝の尾がぬっと出てきて、そのとんがった先には金ピカの小さな盃が乗っていた。


 「私は、あまり得意ではないのです。代わりに銀滝が飲みますから、注いであげて下さいますか?」


 銀滝の盃から注いでいいのか迷っていたのを察したのか、日秀はそう言ってニコニコ笑顔で銀滝の盃を片方の手で指し示した。

 獅輝は促されるままトクトクと並々に酒を盃に注ぐと、銀滝はすっと器用に盃を口まで運んでグイッと一気に飲み干した。


 「かぁーーー!!旨い!!極上、極上!!ん!コレでちゃんとしきたりどーりだ!驚かそうとして、我が驚かされるという不甲斐なさ!かー!もーこーなったら酒を飲むしかない!おい、それ、そこの!こんな小さいのは、面倒だ!一升瓶を丸ごと我に寄越すのだ!」


 銀滝が尾を軽くブンっと降ると盃が消え、スルスルっと近寄ってくると獅輝が持っていた一升瓶をコツコツと叩いている。

 渡していいものか獅輝は一度日秀に視線を向けたら、良いというように二度軽く頷き返したので一升瓶を銀滝ヘと渡した。

 くるっと一升瓶に尾が巻き付いて、口までひょいっと軽く持ち上げる一升瓶斜めに掲げながらゴクゴクと、水でも飲んでいるかのように一気に飲み干していった。

 そしてペロリと舌で口を舐めて最後の一滴までも綺麗に飲み干した銀滝の喉が、ポコっと急に膨れてそれが勢いよく上昇してきてペッっと何かを吐き出した。

 それは勢いよく飛んで獅輝の丁度額のど真ん中に命中し落ち、コロンと地面に転がった。


 「いったぁぁぁ!!!」


 獅輝は思いがけない出来事に面食らって大きな声を上げ、少し赤くなっている額を手で優しく摩る。余程痛かったのか、渋い顔をしてずっと摩りながらも地面に何が落ちたのか気になって、一度しゃがんでそれを取ると立ち上がる。


 「ん?...これは?金の...石?」


 「阿呆か!金の卵だ!卵!」


 「...卵?」


 獅輝は銀滝にそう言われてまじまじと見てみれば、確かにあの盃みたいに金ピカ光った小さな卵の形にも見える。見えるが、どうも普通の卵よりもうずしりと重く、地面に落ちてもびくともせずヒビもない。俄には信じがたく、摩っていた手を下ろしてその金の卵を両手でくるくる回して何度も何度も見ている。


 「我が石なんぞ、喰うわけがあるまい!それは酒の褒美だ!我の好物を分けてやったのだ、丁重に扱え!」


 丁重言われてもコンコンと握り拳で叩いてみてもびくともしないので、そんな気にすることもないなと思った獅輝は礼を言って頭を下げるとさっさと懐にしまってしまう。


 「...あ...なーなー...なんか、もう飲み終わって終わった感が半端ないけど...今から、参りましょうって言っても平気か?」


 急にしゃがみ込んだ獅輝は、サー耳元でボソボソと囁いて苦笑する。


 「気にすることないさー。それより戻る時間の方が気になるさぁ〜。だから、気にせず、言ったらいいさぁ〜」


 そうかと笑顔になって、納得した獅輝は立ち上がる。


 「水天様、参りましょう!」


 少し控えめな声になったのは出遅れたという気持ちがあってだが、それでもいつも通り変わらずに腰に巻いていた金の縄がするするっと勝手に解けて日秀と銀滝をの方へ延びて行った。

 そして日秀と銀滝の周りを一周大きくぐるり回ると、また日秀と銀滝の周りがキラキラっと光り出して覆い隠し、鹿毛の与那国馬が見えてきた時にはその背には、何処か若殿様風の凛々しくも顔美しく銀色の髪をポニーテールにした銀滝の鱗みたいにキラキラ光った白い着物をきた青年が乗っていた。


 「え?」


 予想外の出来事に驚いて、獅輝は思わず声が出てしまう。


 「...あぁ...驚かれましたよね。私...私達はね、二人で一人...一心同体なのですよ...昔、銀滝が少々羽目を外して大暴れしてまった時がありまして、それを止めた時に、私の中へ銀滝を封じたのです。それがご縁で、私のようなものでも神に導かれ、仏の身となれました。そして、この姿の時は、水天と呼ばれているのです」


 「はぁ〜...なるほど、だから名が違ってたんだな。ふんふん、そんなこともあるんだな」


 うんうんと頷きなら水天の話を聞いて、腕を組むと謎が解けたという晴れやかな笑顔で納得したように獅輝はそう言った。


 「さ、次で最終です。私共の後ろのトンネルを抜ければ直ぐですので、お急ぎでしょう。行って下さい」


 馬の手綱を引いて後方へ水天が下がるとそこには、先程までは無かった大きなトンネルがぽっかり口を開けいていた。

 獅輝はケースを背負うと、サーの顔を見てよしっと声を掛けてサーの背に乗った。


 「ありがとうございました!!」


 獅輝は大きな声でサーの分も礼を言って、二度程水天へ手を振る。

 そして獅輝達は、大きなトンネルの入口へと消えていった。

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