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貓の王様  作者: 雨月 そら
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普天満宮から金武宮1

 次に訪れた金武宮(きんぐう)は、今までとは違い普天満宮の鍾乳洞をずっと行った先にあった。二つは鍾乳洞で繋がっていたのだ。

 ずっと真っ直ぐな道だったが、急に大きなトンネルの入口が現れて通り抜ければ、少し先には下へと続く階段がずっと続いている。

 階段には手すりがあって、獅輝は一旦手すりに掴まって下を覗き込んだ。

 今までは電気がずっと点いているみたいに明るかったが、今は蛍光灯から蝋燭に変わったように薄暗く少し不気味な感じがして更に気温が低いのか、ひやっと冷たい風が吹き上げて獅輝の毛と肌をそろそろと下から上へと這うように撫でる。冷たくて気持ち悪い風に獅輝はブルブルと身を震わせ、降りるのを少し躊躇してしまう。

 そんな獅輝を横目に、サーは気に留めることなく手慣れた感じでトントンと階段を降りて行ってしまい、獅輝は置いてかれないように慌てて後から付いていく。

 さっきの普天満宮の鍾乳洞の独特な湿り気は多少は慣れたものの、視界が下に行くほど悪い。

 貓で暗くても見えるからと言っても、モヤがかかったような感じではあまり意味をなさず、水滴が落ちてくる度に獅輝はビクッと身を震わしていた。


 「...そう言えば...褒美、もらってないけど...いいのか?」


 前が見え辛く黙ったままだと段々と少し心許なくなって獅輝はその気持ちを振り払うように、平然とどんどん階段を降りていくサーに大きめに声を掛ける。


 「...んー...まぁ、今までに頂いたものでも、充分と言えば...充分さぁ〜。心配する必要は、ないさぁ〜...ただまぁ〜、獅輝がいきなり威嚇するから、頂けなかった、のかもしれないけどさぁ〜」


 「...そ、それは、いいのか?」


 冗談半分で笑っているサーに気づかずに、獅輝は大真面目な顔で少し青ざめている。


 「大丈夫さぁ〜。熊野権現様、満足気だったさぁ〜」


 「そ、そうか。なら、いい。うん」


 ほっと安心した声が聞こえて、サーは面白くて笑いを必死に堪えながら進む。

 途中、石造りで鉄格子が嵌った祠でサーが立ち止まったので、獅輝も同じく立ち止まって横に並ぶ。


 「ここは、金武宮さぁ〜。ここだけは神社ではなく、寺の所属になるから、挨拶の仕方が違うさぁ〜」


 「ん?神社と、寺は、違うのか?」


 「んー...神様というおおまかな括りでは別に違いはないけどさぁ〜...寺は仏様の領域さぁ〜、仏様流?があるんさ。右手を仏様、左手は自分自身と見立て、この二つを静かに合わせることによって仏様と繋がるんさぁ〜」


 後足二本で立ったサーは解説しながらゆっくりと前足を合わせる振りをして、獅輝に合掌のやり方を伝授する。


 「ん?同じ神様なのに、なんで一々やり方違うんだ?」


 「仏様は元死者だから、ちょっと天界でも生まれた時から神である上級の神様とは違う場所に住んでらして、入口が違うんさぁ。下界と黄泉の国に近い場所が天界にはあって、そこにいるんさぁ〜。そこは上級の神様が集まる賑やかな場所ではなくて、とても穏やかで静かな場所なんさぁ〜。そういう関係もあって、基本的にいつも静かに瞑想されて過ごされている仏様に対して、手をバンバン叩いたらびっくりするさぁ〜。ということで、手を合わせて、心を落ち着かせて静かに会いにいくんさぁ〜」


 それでも納得いかないような顔の獅輝は、腕を組んで小首を傾げている。


 「でも...今は、今まで会ってきた他の神様と同じに、下界にいるんだよな?」


 「あー...上級の神様は別の空間と空間を簡単に繋げて呼んだ相手を瞬時に自分の所へ呼び寄せる力があるけどさぁ〜、仏様はそれほどの力がないんさぁ〜。だから、仏様がいる場所の入口を開きそこへ続く道を示すしかできないんさぁ〜。だから、会いたいなら繋がった道を呼んだ側が歩いて行かないといけないんさぁ〜」


 「なるほど...ん?じゃぁ、仏様に会いにいく場合...時間掛かるんか?...時間...平気か?」


 「平気さぁ〜。ちゃんとした作法で拝めば、仏様と呼んだ側の力が合わさって道は勝手に繋がるから、そこを人間が普段通る道くらいの距離をテクテク歩く...今回は、降るだけさぁ〜。そんな遠くないさぁ〜」


 少し悩まし気な顔した獅輝に、ヘラっと気の抜けた笑みを浮かべたサーは早速、静かに合掌をし目を閉じる。それを横目で見ていた獅輝は、サーの真似をして合掌して目を閉じた。


 「さ、行くさぁ〜」


 サーに声を掛けられながらポンポンと軽く叩かれて、獅輝は目を開ける。前は浮遊感があったが今は何も感じられず、目の前も何も変化がない。一時、小首を傾げるものの、サーがまた四足歩行でテクテク先に階段を降りていってしまうので、スッキリしないままサーに続いて獅輝も降りて行った。


 ひたすらひたすら降りて、温度もなんだか先程よりぐーんと低くなり始め、寒いなと獅輝はブルっと身を震わせた時にやっと最後の階段に辿り着いた。

 その一段を降りると左側がなんだかやけに明るくて振り向いて見れば、一本道を少し行った奥の方が奥蛍みたいにぽぉ〜と明るくなっていて、そこには酒壺がびっしりと棚に置いてあった。


 「あれ、なんだ?」


 獅輝は気になって指を指しながら聞くと、サーは一時足を止めて獅輝が指差す方を見やる。


 「あぁ、あれは水天(すいてん)様の、秘蔵の泡盛さぁ〜」


 「...ほぉ〜ん、そうか。神様は酒好きみたいだが、特にここの神様は酒好きみたいだな」


 「...んー...確かにそうかもしれないさぁ〜...さ、それはいいとして、あっちとは反対方向に水天様はいらっしゃるさぁ〜。そろそろ、行くさぁ〜」


 「おう!」


 獅輝は少しその場が明るくなったからか少し元気を取り戻し、サーの後ろに付いてその酒壺の棚とは反対側の仄暗い方へ真っ直ぐ進んで行った。

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