末吉宮から普天満宮1
吹っ切れた獅輝はサーからぴょーんと元気に飛び降りると、体操のフィニッシュポーズのようにピンと指先を伸ばし両手を挙げて地面へと着地した。その顔は誇らしげなドヤ顔で、ニヤっと片方の口角を吊り上げるとキシシと歯を見せて笑い、無邪気な子供のようである。
「よし!次は、普天満宮!ここだな!」
灰色で柱の一本には龍みたいな白いヒビなのか模様かは分からないがあり、しめ縄の掛かった大きな石鳥居の前で獅輝は片方の手を腰に置いて鳥居から見える社を、無作法にも指差してニカっと歯が見えるほどの爽やかな笑顔を横にいるサーに向ける。
「...そうさぁ〜。獅輝は、漢字読めたんさぁ〜ねぇ〜」
「おい!!俺だって、読めるわ!」
ぷくっと頬を少し膨らませて子供みたいに不機嫌な顔をする獅輝に、サーは少し白けたような目を向ける。
「...でも、神聖な社を堂々と、指差すのはどうかと思うさぁ〜」
サーは先程の余韻で声のトーンが少し元気なさげのような感じもするが、獅輝のテンションには合わせずに普段通りにおっとりと間伸びした喋りで指摘する。
「あぁ...そうか、うん」
先程の勢いが火が消えたように急にシュンと少し萎縮した獅輝のピンと伸びていた指は、萎れるように段々と折れ曲がっていき、今は後頭部へ後退して顔も笑顔が苦笑へと変化している。
「まぁ〜まぁ〜。時間も結構〜、押してきてるさぁ〜。元気にサクッと、周って行こうさぁ〜」
元気づけるようにヘラっと大口開けて牙を見せながら笑顔を見せたサーに、そうだなと小さく頷いた獅輝は後頭部をポリポリと二度ほど掻いてからへへっと照れ笑いを漏らし、よしと両手を胸に前に持ってくるとグッと両手を握り締め自分に気合いを入れる。
サーはそれを見てほっとしたのか嬉しそうにニコニコ笑顔で、いつも通りに鳥居の前でぺこりと頭を下げてから先に潜り抜け、その後を獅輝が追うように境内へ入った。
正面に長いしめ縄が掛かったお屋敷みたいなどっしりとした構えた琉球赤瓦の大きな社の前で、獅輝は気合いを入れてふんっと鼻息く二拝ニ拍手を行うと、境内には手を叩いた音が大きく鳴り響いて獅輝達の姿はスッと消えた。
眩い光で眩しく目を閉じていた獅輝が、パッと目を開けると鍾乳洞の中。ゴツゴツとした岩肌から大きな氷柱が垂れ下がったような石灰岩からできた鍾乳石が沢山あり、湿ったような空気で氷柱のような柱からぽとん、ぽとんととてもゆっくりだが水滴が垂れ、ヒヤッとした冷気が漂っている。
初めて鍾乳洞に入った獅輝は、水滴が地面に落ちるたびにビクッと猫耳と尻尾がビンっと真っ直線になってゾワゾワと下から上へ小さく身震いして貓の毛が毛羽立ち、驚きが隠せずに思わず小さくぴょんと跳ねてしまう。
それもそのはず、そもそも化け貓と言っても結局貓なのであるから、水が苦手なのだ。水滴が自分に落ちる度に、水気を払いたくて本能のままに小刻みにブルブルと身体を震わせている。
手を交差させて両腕を掴み心許無げに視線を忙しなくキョロキョロと移動させて落ち着きのない獅輝を横目に、言葉には出さないが大丈夫かといいたげな顔のサーだったが思う所があるのか黙って進んでいく。
中は暖かな明かりが灯され神秘的で、先に続いてる道は歩きやすく舗装さている。普通であればロマンチックな場所でゆっくり歩いて眺めたくなるが、獅輝にはそんな雰囲気を楽しむ余裕は微塵もなく普段よりやや足早で先にあった石階段さえもさっさと降りていく。
石階段を降りた先は広くひらけていて、奥には石壇に周りを鍾乳石に囲まれた木祠が小人ぐらいしか通れない小さな階段の上にあった。
それを見た瞬間なんだか急にほっとして、獅輝は少しずつ落ち着きが戻ってくる。ただ、木祠はあるのに誰かがいる気配はなく、時間のことがよぎった獅輝は待っていられずに自分だけ石壇に上がり慎重にぺたん、ぺたんとゆっくり木祠に近づくと首を伸ばして顔だけ寄せ外観をジロジロ見た。然程大きくない木祠であるがもしやと思って見ていたが、そこに何かがいる気配は感じられない。
「どう...したんじゃ?」
背後に全く気配を感じなかったのに獅輝の背後には、口と顎に生えている長い白髭と背中まで伸びた白髪を後ろで束ね、真っ白な着物を着ていてまさに雪を身に纏った仙人みたいな杖を付いた老人が立っていて、そう声を掛けてきた。