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貓の王様  作者: 雨月 そら
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安里八幡宮から末吉宮4

 「そう言えば...あの二人は、いつもあのトンネルで待ってるのか?」


 次の場所まで移動する途中、ぼんやりとサーの背に乗っていたら獅輝はふと気付いて、気になりだすと気になってしかたなく、だいたいは黙々と安全運転で走っているサーへ問うた。


 「いや、普段はいないさー。まぁ、あの面白好きのお二人のこと、興味本位で現れたのかさぁ〜」


 「ふ〜ん...でもさ、あの末吉宮のトンネルは、普段も黄泉の国に繋がってて、人間とか迷い込んでしまわないのか?」


 「......あぁ、獅輝は根本を知らないさねぇ〜。上級の神様が降り立つ聖地へは、人間は入れないんさぁ〜。同じ場所にあっても、そもそも空間が違うし、鳥居や門が結界だからそこで弾かれる。神域は霊魂だけの世界だから、肉体があったらそもそもいけないさぁ〜」


 ふんふんと小さく頷いていた首がピタっと止まり、獅輝はグッと眉間に皺を寄せる。


 「...ん?なら、なんで俺は、入れるんだ?」


 「...獅輝は、肉体がないんさぁ〜」


 ケロッとして驚いた様子もなく当たり前のようにサーは言うので、そうかとさらっと流れで納得しそうになった獅輝だがブルブルと否定するように頭を軽く振る。


 「ちょ、え?え?幽霊?え?死んでるってことか?」


 考えれば考えるほど焦って驚きが勝り隠せず、獅輝は大声を出しながら頭を抱える。


 「待て待て、獅輝。そんなわけ、ないさぁ〜。幽霊なら冥府へ直行さぁ〜。そもそも、獅輝はただの貓じゃないんさぁ〜...お婆婆とか、そう、親に教えてもらわなかったさぁ?」


 サーの方は知ってて当然、むしろ何故知らないのかとでも言いたげな声音である。


 「え?え?いや、ん?俺は、普通の貓だと思っていた...いやそうすると、お婆婆も人間じゃ...え!!」


 頭を抱えいたはずの獅輝はガバッと勢いよく顔を上げたせいで、危うくぐらりと体制を崩してサーから落ちそうになるのを必死で両足を交差しグッと力を入れて堪え、驚きで心臓がバクバクと鳴りながらも今度はしっかりとサーの後髪をグッと掴んだ。そうされれば流石のサーも痛かったのか、しばしの間だけだが苦しそうに顔がムッと歪む。


 「なんさぁ〜...全然なんにも知らなかったんさねぇ〜。そもそも、人間が神と知り合いなわけないさぁ〜。普通の貓は貓とは喋るが、人や神様と普通に話さないんさぁ〜。そう考えれば、おかしいと思うさ?」


 説明されると確かに変だと、素直に獅輝は納得する。お婆婆にしても生活の知恵や呪いは教えてくれたが、思い返せばそういう話は一切してこなかったと気づいたのだ。


 「...なら...俺は、なんなんだ?」


 「...さぁ?実際のところは、分からないさぁ〜。でも、化け貓と聞いてたから、普通に考えれば妖の類かもしれないさぁ〜。つまり、八百万(やおよろず)の神、所謂、山や水や動物などからなる一個体としては、比較的、力の弱い精霊と呼ばれる神さぁ〜」


 「ん?待て待て、妖も神?奇怪な存在ではなく?」


 「そうさぁ〜、ざっくりと言えば、神仏も妖も、要は初めから肉体を持たない霊魂だけの存在で、不思議な力を有するものさぁ〜。妖はその中で数は多けれど力が弱い下位の神で、その中には、付喪神や信仰神、多くの人間から敬われることで、力を得てなるものもいるんさぁ〜」


 「...敬われて...大事にされてってことか?」


 「そうさぁ〜。大事に大事にされると、生命の元になる気が集まって魂が宿るんさぁ〜。まぁ、それは物の場合に起こる、奇跡さぁ〜。付喪神がそれさぁ〜」


 「...なら、生きているものの場合は?」


 「仏様みたいに、人間のうちに人徳を沢山積んで人々から褒め称えられて死んだ場合、上級の神に認められ力を授かり神へ転生するものもいる。それとは別に、多くの人々の恐れから敬われ、妖になるものもいるさ。この二つの大きな違いは、妖は曖昧な存在で忘れ去られると、力を失い消えてしまうんさぁ〜」


 「...ん?そうなると、俺は...結局、なんだ?」


 「獅輝は確か、孤島に住んでたんさぁ〜?」


 「そうだな...うん」


 「人間の信仰がないのに信仰神は生まれないから、人間もいない孤島住まいの獅輝は信仰神ではないさぁ〜。上級の神、仏様である中級の神、守護神は普段は天界に住んでるはずだから違うさぁ〜。で、下界に住むのは、八百万の神だけさぁ〜。例えば八百万の神の中には、山なら元来、その場所を守る地主神がいるんさぁ〜。その姿は人に似てたり、鴉だったり様々ではあるけどさぁ〜。ただ、守っている場所から離れられないから、違うだろうし。となると、地に縛られない、どこにでもいる妖が妥当と...思うさ」


 分かったような、分からないような獅輝は、眉を寄せて口を尖らせた複雑な顔して小首を傾げたままである。


 「うーん?...妖と地主神、地に縛られないというだけで、呼び方が違うのか?」


 「わははは!何を悩んでいるかと思ったさぁー。そうか、違いさぁね!大きな違いは、その地を守るための存在が地主神で、妖は何かを守るために存在するわけではなく、面白いことが好きで、時に人間を揶揄って困らせる奴もいる。まぁ、なんかの拍子で突然生まれるものであるから、存在意義が不確かである点では、奇怪で正解。獅輝が言った通りとも言えるさねぇ〜」


 「そうか、まぁ...そういえば、お婆婆が人間じゃないとすれば、人間も実際に見たことないし、貓は親しか知らないから、不可思議でもそれが日常であれば、不可思議とは疑問にも思わないのでは当たり前か!俺が、実際何者でも、お婆婆と過ごした日々は変わらないのだから、なんでもいいか!わぁ、はっはっ!」


 「...それは良かったさぁ〜...でも、我が説明してきた意味...う〜ん...獅輝がいいなら、良いか...」


 少し悲しげなサーに対し、獅輝は吹っ切れて豪快に笑うと本来の明るさを取り戻して腕を組み、少し気圧され気味だったのが元気になってつきものが落ちたようにスッキリと、良い笑顔になっていた。

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