安里八幡宮から末吉宮2
「ほう、今年も良い酒ができたようだ」
「芳醇の良き香り、楽しみよのう。そち、近うよれ」
二人の男神がそう言葉を掛けてきた瞬間、元通り、薄暗い洞窟の中。
二人の男神は中が赤く外側は黒い漆塗りされた掌サイズの盃をぐいっと獅輝の方へ出してきたので、慌てて掲げたままの一升瓶を下ろすと両手で掲げるように盃へを丁寧にそれぞれに注いだ。一口酒を含みゴクリと喉を通りご満悦というような顔で唸り、互いに視線を交わすとうんうんと頷いている。
「...初めはなぁ...あのまま飲まれてしまうかと思いきや、しかと留まったのは、賞賛ぞ。なぁ、事解男命」
「確かに...これなら、褒美を授けても良いのう。なぁ、速玉男命の」
獅輝を見据えてそう言った男神二人は互いにまた顔を突き合わせると、緊張が解けたようにふっと笑みを溢してからもう一度正面を向いて一気に残りの酒を口に含む。
ブウゥゥゥゥゥゥ!!
速玉男命は左手を目線くらいの高さに上げると手を握り、口の中に溜めていた酒を握り拳から一直線宙高く噴き上げた。
すると噴き上げた場所がキラキラキラと輝いてずっしりと重たげな大剣が現れて速玉男命の手の中へ収まった。
「闇を斬り!!」
大剣を頭上高く両手に持つと上から斜め下へブンっと大きな音を立てながら空を斬り、そう高らかに速玉男命は叫んだ。
その後にゴクリと酒を飲み干した事解男命はパンっと大きな音を立てて両手を叩く。するとそこには、榊の枝に紙垂を付けた大麻が現れて両手で棒をしかと握る。
バサァ バサァ
大きく振る音がして、振るたびにキラキラと大麻が輝き出す。
「闇を払う!!」
振る音と共に大きな声を張り上げれば、輝く光は益々輝いて眩しいほどで薄暗かった洞窟の中の闇を大麻が掬い取ったように薙ぎ払われていく。
そうして眩しくて目を閉じてから何も音がしなくなった頃、目を開けた獅輝の目の前には洞窟は消え去って、岩階段の上に建物がある懸崖造り(けんがいづくり)の赤い社が見えた。
ただそこにはさっきまでいた二人の男神おらず、何事かと不思議げに首を傾げた獅輝は問い掛けるような視線で斜め前のサーを見る。
「どうしたさぁー?」
視線を感じて振り向いたサーはトコトコと獅輝に近づき、横並びになるとそう言って獅輝を見上げる。
「あの二人の姿が見えないなぁと...」
手に持っていたはずの一升瓶も無くなって、獅輝は幻でも見ていたかと困った顔をしながら後頭部をぽりぽり掻く。
「あぁ...あのトンネルは黄泉の国へ繋がっていたんさぁー。何事もなく通り過ぎればよし、最悪、黄泉の住人となる場合も、あるんさー。そこを、珍しくもお二人が助けてくれた、ってわけさぁ〜」
にかっと口を開き歯を見せて笑うサーは嬉しそうで、獅輝も釣られて思わず笑みを溢す。
「だから、難しいことはないさぁ〜。いつも通りの作法で、行けばいいんさぁ〜」
「なるほど」
納得した獅輝はうんうんと頷いて、二拝ニ拍手で高らかに手を鳴らすとその場を後にした。