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貓の王様  作者: 雨月 そら
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安里八幡宮から末吉宮1

 ケースを背負って次へ行こうとすると、サーが目の前に出てきて引き止める。


 「待つんさぁ〜、なんか忘れてないかさぁ〜?」


 言われて初めて、はっと気づいて振り返る。慌ただしくて忘れていたが、玉依姫尊を馬に乗せていないのだ。ただ、酒が進んで頭の上で左右手を振ってシャーシーを踊って上機嫌な玉依姫尊に、今更馬に乗せるのもどうかというか落ちそうで危険なような気もしたが一人だけ連れて帰らないのも怒られそうで腕を組んで酔っ払い達を困った顔で見つめながら悩んでいると、サーがポンポンと尻を軽く叩く。


 「大丈夫さぁ〜。いつも、ああだから。連れて行かない方が、後で厄介さぁ〜」


 既にべろべろになっている龍達がどうにかできるようにも思えなかったが、前の時もどうにかなっていたのを思い出してあっさり獅輝は頷く。


 「玉依姫尊様、参りましょう!」


 「おぉ!!」


 両手を挙げて愉快で大きな声が玉依姫尊より返って来ると縄がするすると腰から解けてしゅーんと玉依姫尊へと飛んで、その周りを一周ぐるり回ると鹿毛色のヨナグニウマとなって背に乗せていた。

 真っ赤な二匹の龍が背に生えた小さな翼をパタパタと一生懸命羽ばたかせ、片方は大皿を頭に乗せて両手で支え、もう片方は酒を両手で抱えて玉依姫尊の盃にお酒をちびちび注ぎ、玉依姫尊は馬の背に寝そべってそれを上手い具合に受け止めてはちびちび飲んでいる。


 「なぁ〜、大丈夫だったさぁ〜。ああ見えても神様さぁ〜。なんだかんだで、どうにかできるんさぁ〜。さ、次行くさぁ〜」


 サーにポンポンとお尻を叩かれた獅輝は振り返ってサーを見下ろして頷き、ケースを背負うとその場を後にした。



 次の場所は末吉宮(すえよしぐう)であったが、何やら薄暗い森の中を獅輝達は歩いていた。ここへ降り立ってから岩が両側からゴツゴツ出ている急勾配な岩階段が目の前に見え、獅輝はサーから降りサーが先頭で階段を登った先は平地になって奥深い森に繋がっていた。

 森の中は舗装した道が一本だけずっと続いていてサーは迷いなく進むものだから、少し薄気味悪いなと思ったものの獅輝は無言で後ろを付いて行くしかなかった。

 暫く足音だけが聞こえてる状態が続いていたが、木洩れ陽がすーっと頭上の方から斜めに差してきて薄暗かった道の先を照らす。そこには岩垣のアーチ型のトンネルがあって、光に導かれるようにそのトンネルを抜けようとした、その時だった。


 二人の背が高く体格の良くて黒々とした美豆良(みずら)の髪型から色は違えど同じ勾玉の首飾りに真っ白な衣褲(きぬはかま)姿で上から下まで同じく、顔も整ってはいるが少し強面で兄弟のように似ている男性がトンネルの出口付近に腕を組んで仁王立ちで立っていた。


 「これはこれは、速玉男命(はやたまのみこと)様に、事解男命(ことさかのみこと)様、お久しぶりで御座います。私、波上宮より参りました、サーで御座います。大変お待たせ致しました。お二人をお迎えに、そして、奉献酒を持参致しました」


 無表情で一見ムッとしているような顔の二人の男神の迫力に慌てて目の前に出て深々と頭を下げたサーに見習って、獅輝も慌ててその場で礼儀正しく深々と頭を下げる。


 「...そうか...で、そちらのちまいのは、誰ぞ?」


 正面右に立っている深海色のコバルトブルーに似た勾玉をした男神が、頭を下げたままぼサーを見下ろしながら問い掛ける。


 「速玉男命様、こちらは伊邪那美様の代わりに参りました、お婆婆の所に身を寄せている、化け猫の獅輝、で御座います」


 「...ほぉ〜う、そち...がのう...どれどれ、よぉ〜く顔が見たい、面を挙げえ」


 今度は左に立っていた森のような深緑色の勾玉をした男神が、眉間の皺を和らげ興味深そうに獅輝をじーっと見下ろしている。

 獅輝とサーは言われるがまま顔を上げ、二人の男神の顔を見上げる。こうして見ると随分背が高いなと何となしに獅輝はじーっと見ていれば、二人の男神の視線が急にギョロっと動いて獅輝の視線とかち合う。


 恐ろしいほど、強い視線に挟まれて急に薄寒く冷や汗が垂れ、獅輝は気圧されて片足を思わず一歩後ろへ下げてしまう。

 どうしたことか、地面がぐらぐら揺らいでいる感じがして目の前の三人が遥か遠く、辺りは視界がどんどん狭まって暗く、サーに助けを求めるように右手を伸ばしたがどんどん自分だけ遠くに追いやられている感じがして、必死に追いつこうと駆けたがその場からちっとも前に進まない。


 何故なんだ


 そう心の中で叫んで、まるで、世界が遠のいて独りぼっちになった気分で、悲しくて悲しくて胸がキュッと締め付けられて苦しくなった。


 一人は嫌だ


 小さい頃のことを思い出してしまい、そう心で泣きながら叫んだ。目の前の三人も光さえも消えてしまうのを、必死に捕らえようと届かないのに空を掴んで、空振り、また掴んでを繰り返していつしか本当に目に涙が滲んで、足を止めて俯いた。


 その時だった、お婆婆声が遠くで聞こえたような気がして、ばっと慌てて顔を上げた。


 そこだけパァッと輝いて、にっこりと笑ったお婆婆が、大丈夫、大丈夫と獅輝の頭を優しく撫でる。


 そんな幻いや、光景を思い出して、ブルブルブルと頭を左右に振った獅輝はパンっと両手で頬を強く叩いた。


 よし!っと腹の底から大きな声を出して、暗闇の中、背に背負っていたケースを目の前の地面に下ろすと一升瓶を一本グッと片手で握り持ち上げ蓋を開けてから、天高くそれを掲げた。

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