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貓の王様  作者: 雨月 そら
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天久宮から安里八幡宮2

 刺さった光の矢は巨大な真っ赤な龍を倒すと、サラサラと星屑が散らばるように消えていった。それと同時、一体はダイヤモンドダストのように弾けて散り散りとなって消えて元通り赤い社が目の前に何事もなかったようにドンと構えてそこにある。

 ただ違っているのは社殿の中央、扉が閉まっていたはずが開いていて奥の部屋には丸い鏡が置かれている。

 あの鏡は何かとじっと見ていたら急にピカっと光って巫女の姿をした小柄な女性がその鏡の中から飛び出て、てくてくと獅輝に近寄ってくれば獅輝を見上げるなり頬を少し桜色に染めながら両手で顔を包み込むように覆い照れたようにくねくねしてチラチラと意味深気に見ている。


 「もう...そんな見つめたら、恥ずかしいではないか!」


 急に何を言い出すかと思いもするが神様に失礼かと流石に言葉には出来ずに飲み込んだ獅輝だったが、隠し立ては苦手な方で笑っているのに作り笑いなのがバレバレである。


 「なんじゃ〜、その顔は。妾は、お前達のために余興まで用意してやったというに!」


 先程まではとは態度が一変、今度はぷんぷんっと頬をフグのようにぷくーと膨らませて腕を組んで怒っている。


 「いやはや、これはこれは、玉依姫尊たまよりびめのみこと様、いつもながらお心遣い有難う御座います。大変楽しい、演目でありました!」


 不穏な雰囲気を察したサーが一歩前に出ると玉依姫尊へユニークな顔を全開に、ユニークにした笑顔で深々と頭を下げた。


 「...そ、そうか?...そーじゃろ、そーじゃろ!妾の放った矢は、見事命中じゃったろ!」


 玉依姫尊はコロっと態度を変えて褒められた子供のように嬉しそうにニコニコしながら、それはそれはと囃し立てペコペコ頭を下げるサーに気分よくしてか両手を腰に添えて少し誇らしげに胸を張っている。

 なんとも表情豊かで子供のような無邪気な神様だなと獅輝が外野な気分でその二人を見つめていると、急に玉依姫尊は獅輝へ視線を合わせビシッと指を刺した。


 「...た、確かに」


 急に話を振られたものだから驚きで獅輝はそうとしか言えず、だが玉依姫尊はそれで満足そうにふふんっと誇ったように笑う。


 「それにじゃ!妾のこの子らぁーも、いー演技じゃったろう!のう!」


 両手を胸の前で握りしめつま先立ちしでぐいっと背伸びすると、獅輝の服を引っ張って顔を近づけ目を爛々と輝かせて獅輝を見上げている。

 その玉依姫尊に隠れていたのか足元から小さなシーサーに似た愉快な顔の二匹の真っ赤な龍というか外国のドラゴンようでぬいぐるみみたいなのが、おずおずと伺うような感じで両足にしがみ付きながら顔をひょっこり出してじーっと獅輝を見上げている。


 「...確かに」


 六つの目が一斉に獅輝を見つめられたら物凄い圧でしかなく、獅輝はまたしてもそれしか言えない。ただ、矢が刺さってからは演技くさいとは思ったものの、その前は凄い迫力であったのは確かで嘘は付いていないのだからいいかと開き直る。


 「なら、その握り締めたままの酒を寄越せ!」


 「褒美の酒だ!飲ませろ!」


 大人しかった龍達は急に元気になって、前に出てくるとやんややんやと叫び始める。


 「そうじゃ、そうじゃ、忘れておったわ!折角の酒を呑まぬとは、不覚!はよ、寄越すのじゃ!」


 玉依姫尊が掴んでいた服をぐいぐい引っ張り、二匹の龍はテテテと前に出て小さな手を万歳するように上に挙げて一升瓶を取ろうとしているが背が小さいために一升瓶には後ちょっと届かない。

 獅輝は注がなくていいのかとも思ったが子供が駄々を捏ねるようにせがまれて、それどころではなくなってどうにでもなれと落ちないようにしかと握りしめていた一升瓶をゆっくりと片方の龍の両手の上に降ろす。

 だがあまりにも小さい手なものだから、手を離したら落ちそうで持ったままでいれば、玉依姫尊が服から手を離し嬉しそうに一升瓶を抱えたのでやっと手を離すことができた。


 「おー、いい香りじゃ!今年も良い出来のようじゃな!ん?ふむ...これだけでも美味そうではあるが...ぬし、妾の弓と矢を授けてやるから、酒の肴を捉えるのじゃ!見事仕留められたら、褒美を授けるぞ!さぁー、行け!」


 一升瓶を頬ですりすりしながらまだ呑んでもいないのに酔っ払ったような玉依姫尊が言葉最後大きな声を張り上げると、後ろの鏡がピカっと光って一匹の大きなアグー豚が急に現れて獅輝達を飛び越えて走り去っていく。

 どこから出してきたのか弓と矢をもう片方の龍から四の五のいう暇もなく手渡され、仕方なく獅輝はそれを受け取って構える。その姿は、実に様になっている。それもそのはず、島では散々狩りをしていたのだから。


 見た目とは裏腹すばしっこいアグー豚はどんどん遠くへ走り去っていき的としては小さくなっていたが、狙いを定めた獅輝にはそれぐらいはおてのものでギリギリと弓を目一杯しならせて一気に矢を放つ。

 ひゅーーんと飛んでいった矢は地面と水平に光を帯びながらぐんぐんスピードを上げ、ドスっと鈍い音を立てて見事標的の尻に命中しアグー豚は走れずすっ転んで頭を打ってその場にぐったり倒れた。

 それを見た瞬間に獅輝は獣のように颯爽に駆け寄って、獲物を両手に抱えると玉依姫尊の元へ戻り屈んで地面にそっと寝かせる。


 「おお!!いい腕じゃ!」


 いつ間にか龍達と龍と同じ色の真っ赤で小さな盃で酒盛りしていた玉依姫尊は、ブンブンと左手を握って二回上下に振るとその手には神楽鈴が握られてシャランシャランと手首を二回回すように鳴らすと玉依姫尊の上に金色の砂のようなものが小雨のように降り注ぐ。

 子供のように無邪気に笑っていた玉依姫尊が急にすっと真顔になって、神楽鈴をアグー豚の頭から尻までシャラシャラシャラと鳴らしながら移動させてから神楽鈴を両手に持って自分の頭上に掲げて一度、シャンっと鳴らした。

 するとアグー豚はボンっと白い煙に包まれてもくもくと雲にでも覆われたかと思いきや、次の瞬間には艶があって美味しそうな美しく長方形に切られた豚煮込み、らふてーになって、大波の絵が描かれた大皿に山盛りに乗せられていた。

 

 「おお!磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)よ、実に良い手前じゃ。妾の好物とは、流石分かっておるのうぉ〜」


 握られた神楽鈴は真っ赤な箸になってもう片方の手には小皿が乗っており、綺麗な箸使いでらふてーを掴んで小皿の上に乗せる。らふてーはほんわりと白い湯気を出し、箸でスッと切れるほど柔らかく、茶の色をした汁と混ざってジューシーな脂がとろりと流れて、漂ってくる香りは甘塩っぱいいい匂いで思わず獅輝はお腹の虫がグーッとなってしまう。


 「まーまー、この匂いはたまらんかもしれんが、これは神のものじゃ。流石にぬしにはやれぬ。だがその弓矢と、この包みを授けようぞ」


 一つのおにぎりでも経木(きょうぎ)で包んだような小さな包みを差し出す玉依姫尊に、頭をぺこりと下げて受け取った獅輝。中身がなんだか気になってクンクンっと嗅いでみるが、なんの匂いもしない。


 「それは、シーに渡せ、よいな」


 そう言われては中身が気になっても開けることはできず気になって仕方なかったが懐に入れようとするも、流石に躊躇われて担いできたケースの空きスペースへと入れた。


 一通りここでやるべきことは終わったかとケースを背負おうとして、弓が邪魔であることに気づく。矢もないし手に持ったままなのは不便だなと見つめていれば、地べたに座って楽しんでいた玉依姫尊が美味しそうに頬張っていた肉を酒で流して、よいせっと立ち上がっててくてく近寄ってきた。


 「それは、去ねと言えば消えるし、来いと言えば矢と共に来るのじゃ。今は使い道がないじゃろうから、邪魔ならとりあえず、消しておけば良い。分かったか?」


 なるほどと心の中で呟いき納得した獅輝は、玉依姫尊ににっと笑顔を向けて頷く。


 「去ね!」


 獅輝がそう叫ぶと、玉依姫尊のいう通り手にしていた弓はマジックみたいに消えた。

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