IKDの至上命題
ようやく米国内の混乱も治まって来た所であった。IKDは独自のデータに基づいた資料を作成し、ニューヨークで行われる軍事裁判で裁かれるであろう人物のピックアップを急いでいた。イエノ・バラト元合衆国大統領を筆頭に、ニコラス・ハロルド米国太平洋軍司令等がピックアップされた様である。
IKDは、裁判を出来るだけ公平に行う為に、仮想戦勝国である、ロシアや中国、インド、イスラエルや英国とフランス等の国から判事を招いた。その数15人を越えた。米国の平和への罪と言うものが、この裁判の最大の焦点である。裁判長はロシアのゴルシチョフ判事が務める事になった。裁かれる側と裁く側とでは受け止め方は違って来る。米国民としては、必要の無い裁判への苛立ちは当然ある。
だが、明日も見えない食うか食わずかの生活を強いられている中にあっては、御上の人間がどうなろうと知った事ではない。と言う本音も垣間見える。広い米国本土のほとんどが戦争により、破壊され一部では偶発的な内戦も起こっている。
「銃を捨てようキャンペーン」と題した武装解除がかなり進み、IKD陸上部隊はその任務を終えようとしていた。だが当分の間は部隊の駐留は必要である。少なくとも、ニューヨーク裁判に目処がつき新しい米国の骨組みが固まるまでは陸上部隊の撤収は出来ないとサカヒゲは認識を改めていた。
「なぁ、マルゼイ?ニューヨークでの裁判は必要なのか?」
サカヒゲはニューヨーク裁判の必要性に疑念を感じざるを得ない。
「いいか?サカヒゲ、この裁判は血の代償を払ってやっと手にした正当な権利なんだ。米国に対する自由への挑戦の締めくくりなんだよ。死んで行った多くの同胞も、この裁判を開く事を喜んでいる事であろう。」
マルゼイの意思は固い。
「心配ない。ニューヨーク裁判には各国から優秀な人材を選出して来た。」
「米国内の混乱を解決するのは、マルゼイ君じゃない。現場の苦労をもっと配慮して欲しい。」
「分かっている。ニューヨーク裁判が終わるまでの辛抱だ。それがIKDの至上命題であるからな。」
「長峰がいたらどう思うんだろうな?」
「いいか?サカヒゲ、この裁判は長峰の意志なんだ。彼の思いはIKDにとっての生命線である軍事力を背景にした米国に変革を迫るものなんだ。」
「長峰がそうしたかったのは、ニューヨーク裁判に集約されている。だとしたら俺が口を挟む道理はない。」
サカヒゲは長峰なき今も長峰に忠誠を誓っていた。




