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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
9/20

狛江の三人

僕はザリガニから見て右に全力で転がる。出来ることはそれしかない。


DOOM!


間髪入れずに僕がしりもちをついていた場所に左のはさみが突き刺ささり小さなクレーターを作り出す。転がった勢いで何とか立ち上がるとナイフを構える。地面を転がったときに自分で切ってしまったのか右の太ももから出血している。迷宮内であればどうという事はないが生憎ここは迷宮外。傷は塞がらず出血はすぐには止まらない。

「くそ!鳴上はまだか!」

助けを求めた分際でいら立つのはお門違いなのは重々承知の上で僕は悪態をつく。自分のナイフで自分を傷つけるとか、素人でもやらないようなミスだ。痛みはあるが走れないほどではない。

ザリガニと位置が入れ替わってしまったせいでこれ以上は上流の方へ移動できない。僕はあきらめて今まで逃げてきた道を戻り始める。仮に鳴上の合流までに30分かかるとしてその間に僕が逃げ切れる可能性はかなり低い。狛江の探索者が駆けつけてくれるほうが早いかもしれない。そう考えながら走っていると正面から数人の探索者が走ってくるのが見えた。よし、これで一息つける。僕はそう思いながら狛江の探索者たちに声をかける。

「すまん!引っ張りまわして時間を稼いだだけだ!」

僕はそう叫ぶと探索者たちの脇を駆け抜ける。

「奴ははさみを棍棒みたいに振り回す。それから、ザリガニ特有のバックジャンプを地上でもやってくるから背後を取るのはダメだ!」

「あいよ!お疲れさん!あんたは休んでな!」

3人のうちの鉈を両手に持った探索者が僕に応える。何とか鳴上が来るまで生き残れそうだ。鉈を二刀流で振り回す探索者が一人。日本刀を構えた探索者が一人。素手の探索者が一人。鉈の探索者が振り下ろされた鋏を躱しながらザリガニの脚に切りかかる。


ガツン!


振り下ろされた鉈はザリガニの左側の脚を一本切断する。なかなかの膂力だ。おそらく筋力が増強されるタイプの特性を持っているのだろう。鉈の探索者は一撃を加えるとすぐにザリガニの間合いの外に飛び出す。

鉈の探索者を脅威として認めたのかザリガニのヘイトが切り替わる。

「いやぁぁ!」

裂帛の気合とともに刀の探索者が切りかかり、右のはさみに亀裂を与える。残念ながらこちらの傷は見る見るうちに塞がってしまった。

刀と鉈の探索者二人が交互に攻撃をすることで見事にザリガニの動きを抑制している。良い連携だ。ザリガニの傷も少しずつ増えてきている。神臓のリソースが減少している証拠だ。押し切れるかもしれない。

 不意に刀と鉈の探索者がザリガニから距離を取る」。無手の探索者が両手を開いてザリガニに突き出した。


BOWWWWW!


突き出した両手から炎がほとばしる。リートの火力と比べるとだいぶ劣るがそれでもザリガニにダメージはあったようでザリガニがバックジャンプをして距離を取る。

先ほどの炎で焼かれたのかザリガニの外殻が焦げている。不意にザリガニの頭部が水の球で包まれた。


BUSYAAAAAAAA!


次の瞬間ザリガニの頭部を包んだ水球から放たれた高圧水で無手の探索者の頭部が撃ち抜かれていた。その次の瞬間、糸の切れた人形のようにどさりと倒れた仲間を見て動揺している刀の探索者がはさみにつかまっていた。探索者を挟んで持ち上げたザリガニはゆっくりとはさみを閉じていく。


「があああぁぁぁぁAAAAAAA!」


胴体を両断された刀の探索者がどさどさと地面に落ちる。一瞬で二人の探索者が殺されてしまった。残る探索者は僕と鉈の探索者の二人。

少なくとも三人がひきつけてくれている間、ただ休んでいたわけではない。わずかではあるがナイフに細工をしていた僕ザリガニに向かって走る。僕がたどり着く直前で鉈の探索者が両方のはさみで左右から挟まれてしまっていた。彼は両手の鉈でそれぞれザリガニのはさみをせき止めてはいるが徐々に押し込まれている。僕はザリガニのはさみの蝶番の部分に全力でナイフを突き立てた。その瞬間片方のはさみが緩んだのか鉈の探索者がはさみからの脱出に成功する。僕は鉈の冒険者とともにザリガニから距離を取る。

僕のナイフはザリガニのはさみに刺さったままであり鉈の探索者もはさみからの脱出の際に鉈を手放していた。

「俺は猪田だ。あんたは?」

「山吹です。」

鉈の探索者、猪田の問いかけに僕は答える。

「ここからどうするね?」

猪田は不敵に笑いながら問いかけてくる。

「僕の仕込みがうまくいけばもう数分は時間が稼げます。その間に援軍が来ることを願いましょう。」

僕がそう答えた瞬間ザリガニが体を地面に横たえた。どうやらムカデの毒は無事に効果を発揮してくれたようだ。人間なら経皮接触による微量の摂取ですら全身が麻痺して数分動けなくなる強力な麻痺毒だ。人間よりも体が大きいとはいえ体内に直接流し込まれたのだからかなりの時間稼ぎになるはずだ。僕は両断された探索者から刀を奪うとザリガニの復活に備えた。猪田も自分の鉈を回収している。鳴上はまだ来ない。

「蝶野も鹿間も油断しやがって…」

猪田が悔しそうにつぶやく。連携がスムーズだったことから長い付き合いのチームだったのだろう。

「すいません。僕が川上で迷宮を閉鎖したせいで準備期間を潰してしまいました。」

「いや、既に一般人や市の職員に被害は出てたんだ。あんただけのせいじゃないさ。」

猪田はザリガニを眺めながらそう答えた。

「今のうちに止めを刺してしまおう。」

そういうと猪田は無造作にザリガニに近づいていき、


ZSYAAAA!


麻痺から復活したザリガニのはさみに右腕を吹き飛ばされていた。


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