表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
8/20

巨大ザリガニ

 迷宮による高濃度汚染地域からはみ出した危険生物に人間が襲われるのは珍しい話ではない。経済資源指定の迷宮の周りで駆除され損ねた危険生物が一般人に危害を加える。未発見の迷宮の汚染区域から迷い出てくる。理由は様々だが危険生物によって一般人が犠牲になることは年に数回起こっている。今回の迷宮がらみで多分、狛江市の方では既に偶発的な犠牲者が出ているはずだ。

本来迷宮の主ともいえる危険生物が迷宮外で活動している。そして、よりどころとなる迷宮はたった今閉鎖された。汚染源が消失すれば河川という地形の関係上あっという間に汚染濃度が薄まってしまう。つまり、迷宮の主は神臓喰いを開始する。直ちに。

狛江市の方ですでに市役所に欠員が出たという事で調布市のベテラン職員の風間さんが引き抜かれている。散発的に被害が出ていたとしたなら、警察と市役所迷宮管理課が連携して人の手による事件なのか?危険生物による事故なのかの調査が行っているはずだ。仮に一週間前に調査を開始したとして、今頃は討伐隊の編成準備と予算の策定が終わったところだろうか?なんにせよ間に合わない。兎に角、戦力がいる。迷宮付近でしか戦えない僕ではなく鳴上のようなどこでも全力を出せる腕っ扱きがいる。

「ヤマブキ、これ以上汚染が薄くなると私は数分で休眠状態になります。」

リートが警告を発する。戦闘が予想される場所に向かうのに神臓が枯渇するのはまずい事はわかっている。だがリートをあまり人目にさらすわけにもいかない。特に警察の目の前では出したくない。強制的に休眠してくれるなら願ったり叶ったりだ。

「わかってる。ここから先でお前が必要になるような事態にならないことだけを祈っててくれ。」

僕は川下に走りながらリートに答える。

そうこうしているうちに僕の神臓のリソースが枯渇してリートが休眠する。僕は河川敷を離れて狛江市役所を目指す。狛江の市役所は何度か来たことがあったので迷うことはなくたどり着けた、迷宮管理課の窓口に風間さんを見つけると、走り寄る。

彼女は僕に気が付くとおっとりとした口調で口を開く。

「あら?山吹君?こま」

「調布市から大型の危険生物が多摩川経由で狛江市内に侵入している恐れがあります!すぐに迷宮探索者に招集をかけてください!」

僕は彼女のあいさつを遮り早口でまくし立てる。僕の話を聞いた風間さんは即座に表情を変え他の職員に指示を出したあと、僕に状況を説明してくれる。

「昨日の時点で多摩川内に巨大化したザリガニの姿が確認されたから現在討伐隊を編成中よ。市役所職員が距離を取って監視してるけど…」

「監視役は僕が変わります。鳴上に応援を要請してあるので奴が来たら寄こしてください。」


カーン!カーン!カーン!


先ほどの風間さんの指示で、狛江市の迷宮探索者緊急召集の鐘が鳴り始める。僕は鐘の音を聞きながら狛江市役所を出て多摩川河川敷の監視ポイントへ向かう。

狛江市の探索者が何人招集に応じてくれるかはわからないが少なくとも一般人の被害を減らすのに役に立つはずだ。狛江市のCランク探索者は誰だったか…?なんにせよ知り合いではないし二つ名があるような奴はいなかったはず。湊さんがうまく鳴上を見つけてくれればいいのだが…

僕が監視ポイントにつくと市役所の職員らしき男性が慌てていた。やはり、巨大ザリガニが移動を始めたらしい。僕が交代の旨を告げると彼は急いで市役所に向かって走って行った。

「さて、どうやって止めましょうかね?」

僕はひとり呟くと巨大ザリガニの進行線上に立ちふさがる。そして足元に落ちていた石を拾って巨大ザリガニに投げつける。

本来ザリガニは水生だが、陸上行動も可能な種だ。迷宮による変異でそのあたりがどう変化したかはわからないが本来あった有用な能力が失われるわけではないだろう。多分、奴は陸に上がってくる。水生生物ベースの危険生物だ。水中でやりあうよりは陸上の方がこちらはやりやすいはずだ。どうせ引き寄せて逃げるだけなわけだし。鳴上が来るまで逃げ切れば僕の勝利だ。

「へいへいへーい!ここまで来てみろよ!このエビの出来損ないめ!」

僕の陳腐な挑発が効いたわけでもないだろうが巨大ザリガニは僕めがけて突進してくる。僕はザリガニに背を向けると一目散に川上に向かって走り出す。僕は時折振り返り散発的に投石をしながら調布市の方に向かって川を遡る。今のところは僕の方が足が速いので一定の距離を保てている。だが、どんな隠し玉があるかわからないので油断はできない。何せ今の僕は投石か一本しかないナイフを投げるかしかできないのだ。

鳴上はまだ現れない。そろそろ調布市に入ろうかといった辺りで巨大ザリガニがこちらに背を向ける。まずい!ほかの獲物を見つけたか!?巨大ザリガニのヘイトを取るべくナイフを抜いた僕が距離を詰めようとしたその瞬間


どん!


巨大ザリガニがしっぽの力で飛び跳ねると僕に対して猛烈なヒップアタックを敢行してきた。


びゅん!


間一髪で地面に伏せた僕の頭上を巨大ザリガニが飛び越える。まずい。場所が入れ替わってしまった。それに距離も詰められている。非常にまずい。調布側に逃げて鳴上と早く合流するプランが瓦解してしまった。僕の表情の変化に気が付いたわけではないだろうが、巨大ザリガニは両方のはさみを振り上げながらこちらに近づいてくる。

僕は急いで立ち上がると辺りに利用でいそうなものがないかを探す。そんなに都合のいいものはない。距離を詰めてきた巨大ザリガニが右のはさみを振り下ろしてくる。

「鋏を鈍器にすんなよ!」

僕は叫びながら巨大ザリガニから距離を取るように後ろにジャンプする。振り下ろされた鋏は爆音とともに地面に小さなクレーターを作る。その風圧にバランスを崩した僕は着地に失敗して尻もちをついてしまった。非常にまず。右のはさみは躱せたがすぐに左のはさみが来る。僕には巨大ザリガニの無機質な瞳が笑っているように見えた。


調布とか狛江の河川敷の頂点捕食者は多分ザリガニじゃないんですが巨大化したら強いだろうという想像の元、ザリガニを選んでます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ