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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
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痺れる毒と憂鬱な話

オオムカデ。

硬い外角に強力な顎。獲物をマヒさせる毒に足場の悪さをものともしない無数の脚。そして巨大化することにより不快指数が跳ね上がったムカデの突進を躱すと、湊さんはカウンター気味に金砕棒を振り下ろす。


べぐしゃ!


振り回された金砕棒によって体節の一部を喪失し、その体を宙に浮かされた巨大ムカデだがその程度では止まらない。しかし、止まらないのは湊さんも一緒だった。最初に振りぬいた勢いを殺さずに、そのまま一回転して再度巨大ムカデを打ち据える。

「っしゃぁぁ!」

気合一閃、二撃目の金砕棒は見事にムカデの胴体を引きちぎり、ムカデのサイズを半分にした。

どちゃ!


切断されたムカデのしっぽ側の半身は地面に落ちるとのたうち回って切断面から体液が飛び散らせる。頭側の半身は地面に落ちると素早く体勢を立て直し大あごを突き立てようと湊さんに再度飛び掛かってくる。体を切断されたショックでも魅了の効果が切れた様子はない。つまり交配のために抑え込もうとしているのだろう。気持ち悪い。


「フン!」


湊さんは正確にムカデの大顎の真ん中に金砕棒を叩きつける。大顎から頭を砕かれたムカデは下半身と同じくびちゃびちゃと体液をまき散らしながら絶命した。

湊さんの腕前は決して高くない。強化された筋力によって、速さと強さが上乗せされていなければ、ただの棒振りレベルだ。そして、経験が浅いから大事なことを見落として地面に倒れている。

「湊さん喋れますか?」

僕は倒れた湊さんの隣にしゃがみこんで話しかける。

らんれるら(なんですか)ろれ(これ)ららららりりれれ(からだがしびれて)

完全に呂律が回っていない。

「あなたはムカデの体液を浴びてしまったんですよ。あいつら麻痺毒持ってるから、それだと思います。変異して毒も強力になってますね。正常化がきちんと働けばもうすぐ代謝されると思います。」

僕は彼女にそう告げるとベルトポーチから空の小瓶を2本取り出してムカデの体液を採取する。

「後で使うかもしれないので少しもらっていきましょう。」

大体2分くらいで湊さんは復活したため講義を始める。

「ムカデの毒は初めてですか?」

「はい。」

神妙な顔でうなずく湊さん。麻痺して倒れるという事を失態ととらえているようだ。

「初めての毒なら代謝に時間がかかって今回のように倒れてしまうこともありますが、次からはもう少し早く復活できますし、なんなら、最初から効かないってこともあります。」

僕は更に続ける。

「我々の体は迷宮に潜る度に高濃度の魔素にさらされます。そこで死んでいるムカデのの様に急激に変化するためには神臓喰いをする必要がありますが、居住区で生活する人々に比べて総合力的な意味で肉体が強くなります。」

湊さんは疑問を口にする。

「そういった話は義務教育では聴かされませんでしたが…」

「広く知れ渡ると不都合があるからです。みんながみんな強力な力を持ってしまったらどうやって警察は治安を維持しますか?」

そこまで話して彼女も理解したようだ。

この世界にも警察と呼ばれる組織がある。主に居住区での治安維持を目的とした組織だが今の時代、居住区の治安維持=対人戦闘だ。迷宮探索者が対危険生物戦闘の専門家なら、警察官は対人戦闘の専門家だ。市役所で登録された特性情報は全て警察に提供される。迷宮探索者が居住区で問題を起こしたときに素早く制圧するためにだ。

鳴上が賄賂を払って湊さんの情報登録を差し止めたのはここら辺の事情も関係している。多分特性の内容だけで彼女は危険人物とされ拘留されるはずだ。それぐらい他者の精神に影響を与える特性は強力なのだ。そして当然、魅了への対抗要員として僕に協力要請がかかる。正当な理由がない場合、断れば僕も拘留所送りになるので受けざるを得ない。

「湊さん、覚えておくべきは、迷宮に潜る度に強くなって人間の枠から外れていく。外れ方は人それぞれと言う事です。少なくともあなたはそこいらの人よりもムカデの麻痺毒に耐性が付きました。」

湊さんは僕の説明に釈然としない表情で頷き更なる疑問を口にする。

「迷宮に潜る度に強くなるのは理解しました。山吹さんも鳴上さんも私と年齢がそんなに離れていないのにそんなに強いってことは、何回迷宮に潜られたんですか?」

湊さんに強い焦りが見える。彼女はここまでの会話と経験で自分のが誰かとチームを組む事ができないこと、単独での迷宮探索を強いられることを理解した。つまり「早く強くなりたい」という感情から焦っているのだ。どこから説明したものか…


「湊さん、僕も鳴上も若くないです。二人とも、もうすぐ40になります。」

僕の説明に湊さんは絶句した。無理もない。僕も鳴上も見た目は20代中盤と言ったところだ。

「湊さん、神臓による肉体の正常化ってどこまで正常化されるか知ってますか?」

「怪我や病気が治るってことですよね。だからこの世界の人間はみな健康なわけですし。」

湊さんは模範的な回答を返してくれる。その通りだ。怪我や病気が治る。間違っていない。

でも、正解すべてではない。

「迷宮に潜る度に成長するっていう話、肉体の正常化能力にもあてはまるんですよ。」


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