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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
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炎の魔人と巨大ムカデ

「ヤマブキ!一体いつになったら迷宮に居を構えてくれるのですか?あなたの神臓が枯渇するたびに休眠状態になる私に申し訳ないと思わないのですか?」


僕の右腕から吹き上がった炎は、人の上半身の形になるとそう話しかけてきた。

目を見開いて口をパクパクさせている湊さんに僕は右腕を突きつける。


「紹介します。これは僕に寄生している炎の無核生物です。リートと呼んでいます。」

言葉が出ない湊さんを無視してリートが失礼なことを言い出す。

「何です?この貧相なメスは。ヤマブキ、これはあなたの番ですか?」

「リートやめろ。湊さんは貧相じゃないし、僕の番でもない。」

リートがおもむろに多摩川の方を見る。リートが顕現できるほどの汚染濃度と言う事は当然、今いる場所は迷宮の影響を受けた危険生物の縄張りと言う事だ。河川敷の迷宮入り口まではまだ数分かかるはずだから、思ったよりも迷宮の規模が大きいのかもしれない。

リートの視線の先にある草むらががさがさと音を立てて揺れ始める。


シュボ!


リートが手を振るって熱線を放つ。人差し指ほどの太さの圧縮された炎が草むらを焼き切る。


GYAAAAAAAA!


叫び声をあげながら人間の大人程に巨大化した蜥蜴がリートの熱線に焼き切られた草むらから飛び出してくる。リートの熱線により胴の半ばから断ち切られた巨大蜥蜴はハラワタを引きずりながら前足だけで僕に向かって突進してくる。


シュボ!シュボ!


リートが更に2度ほど熱線を放つと巨大蜥蜴は前足を切断され、蜥蜴から蛇に変化する。


「ヤマブキ。この蜥蜴、様子がおかしい。普通なら下半身を失った時点で戦意を喪失して逃走測るはずなのにこちらに向かってきました。」


シュボ!


巨大蜥蜴改め巨大蛇は4度目の熱線により唐竹割にされて、ようやく生命活動を停止させる。


「リート、頼むから一撃で仕留めてくれ。このあたりの汚染濃度でポンポンエネルギーリソースを使われるとキツイ。」


回復しかけていた神臓のエネルギーリソースを急激に消耗したせいで僕は眩暈を起こして膝をつく。


「湊さん、あなたの特性で危険生物が集まり始めています。少し急ぎましょう。迷宮の入り口まで付いたら一度あなたの実力を確認させてもらいます。っと、その前に」


僕は湊さんにそう声をかけると立ち上がって巨大蜥蜴の亡骸に近づく。腰にぶら下げていた大型ナイフを抜いて亡骸から5㎝ほどの大きさの神臓を抉り出す。赤く濁った水晶のようなそれをベルトポーチにしまう。


「高濃度汚染で変異した生き物の神臓は家畜のものより質が良いので売ればそこそこの値が付きますし、食べても良いですよ。」


「た、食べるんですか!?」


僕の食べるという発言に湊さんは驚く。当然と言えば当然の反応だ。

「推奨はしませんが必要に迫られれば食べることもあります。神臓のリソースを急激に増加させられるので能力使用による消耗の回復や、神臓リソースのオバーフローによる身体の超再生ができますから。」

鳴上の持つ発電の様な特性は神臓のリソースを消耗する。もともと神臓による肉体正常化現象は神臓のエネルギーリソースのオバーフローによるものなので、能力使用後は一時的に肉体の正常化が行われなくなる。その間に大量の出血を伴う怪我をすると死亡リスクが跳ね上がるので、それを回避するために神臓を食べるのだ。もっとも、神臓喰いをやる度に少しずつ人間から離れていくので迷宮探索者でも好き好んでやるものはいないが。

そもそも、迷宮内の汚染濃度ならめったなことで神臓が枯渇することもないので本当に緊急時の手段だ。

湊さんの特性のお陰で普段とは比べ物にならないほどの歓待を受けたため、迷宮の入り口に到達するまでの間に僕のベルトポーチは殆ど満杯になった。戦闘のたびにリートが嬉々として熱線を放つため、最初に巨大蜥蜴と出会った場所から迷宮入り口までがまるで戦争でもあったかのような荒れ具合だ。

迷宮の入り口はさながら巨大なアリの巣の入り口の様な形をしていた。入り口は川から10m程度のところに空いていた。穴の中は広く人が歩くだけなら二人並んで歩けそうな幅がある。

「湊さん、迷宮に入る前にあなたが何ができるのかもう一度確認させてください。僕はあなたが魅了の特性を持つことと金砕棒を竜巻みたいに振り回すことしか知りません。」

「あの、出来れば竜巻みたいにの部分は忘れていただけると…」

リートの登場からすっかり緊張しっぱなしの湊さんに、僕はアイスブレイクもかねて話しかける。

「先日受けた検査では私には魅了のほかに『強化筋力』の特性があるとのことでした。これは子供のころから力が強かったので知っていたのですけれども」

この世界では特性の自覚は2種類の方法がある。一つは役所に高額な検査料、金なら50g程度を支払って血液検査によって確認する方法。これは本人の持つ変異した肉体因子を統計データと照らし合わせて照合する非常に確度の高い方法だ。もっとも、役所で受けられるのは簡易検査なので都心の方のちゃんとした施設でなければ特性の作用機序まではわからないが、それはもう金額は考えたくない。

もう一つの方法は自身の実体験からの自覚だ。川に落ちたけど息ができた、だから自分には水中呼吸の特性がある。火に触っても平気だったから熱耐性の特性がある等々、特に意識しないでも常に働いているようなこう言った特性は自己体験から自覚している人も多い。

逆に神臓のリソースを火に変える、電気に変えるといった特性はきちんと検査しないとわからないことが多い。赤ん坊が自分の手を自覚して初めて意思をもって動かせるようになるのと同じで知らなければその特性を発動させられないからだ。

それにしても、筋力強化はうらやましい。汎用性が高くて腐ることもない。この稼業で筋力があることはプラスになってもマイナスになることはない。だが、問題は魅了の特性だ。発覚の経緯とここまでの道のりでの挙動から能動型ではなく常動型。視線とか声ではなく体臭とかフェロモンとかそういったものによる効果伝達。彼女がこの稼業を続けるのは非常に困難と言わざるを得ない。

資源採掘のための迷宮は常に複数の探索者が潜っているうえに彼女のランクでは単騎での入場は許されない。仲間がいれば迷宮前で、単騎なら迷宮内で、彼女の能力に起因する殺し合いは待ったなしだ。


「リート。一匹こっちへ回して。彼女の腕前を見るから。」

僕と湊さんが話している間も危険生物は常に現れていたが都度都度リートが熱線で焼き払っていた。

迷宮入り口まで来たことで僕の腕から噴き出す炎は勢いを増していて最初は右腕のひじから先が燃えている程度だったが今は右腕全体が燃えている。当然リートも絶好調だ。

「ようやく調子が上がってきたところだというのに、相変わらずヤマブキは自分勝手ですね。」

文句を言いながらも人間サイズに巨大化したムカデを1匹、熱線を照射せずに通過させる。確かに種類は注文しなかったがよりによって一番見た目が気持ち悪いムカデを選ぶとは…本当に性格が悪い。

「湊さん、来ますよ!危なくなったら支援しますので一人でやってみてください!」

僕はそう言い放つと迫りくる巨大な不快害虫に向かって湊さんを押し出した。



サブタイトルって難しい。

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