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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
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蠱毒その壱

迷宮の最深部そこには必ず迷宮の核が存在している。核の在り方は様々だが必ずどこかで迷宮の構造体につながっている。先日の河川敷では台座に乗るような形で地面から生えていたがこの迷宮では天井から釣り下がっている。

最深部の天井の高さは他お部屋よりも随分と高く10m程だろうか?遠距離攻撃の手段がなければ迷宮と核を繋ぐ部分を破壊できそうにない。出来れば核を抜くところも湊さんにやらせたかったのだが…

「あの。天井からぶら下がってるやつが迷宮の核ですよね?あれを取り出せば迷宮の閉鎖ができるんですか?」

「あ、はい。その通りです。神臓みたいな部分がいわゆる迷宮の核になります。ですので、それより少し上の吊り下げてる部位を破壊すればいいんですが…」


ぶん!


僕が言い終わる前に湊さんは手に持っていた蟻の顎を天井に向かって放り投げていた。彼女の投げた蟻の顎は回転しながら飛び、僕の頭をかすめた後に見事に核を迷宮から切り離し、そのまま天井に突き刺さった。そして落下してくる迷宮の核を見事にキャッチする。

「山吹さん!やりました!迷宮の核取り外せました!」

弾けるような笑顔ではしゃぐ湊さんを僕は冷や汗を流しながら見ていた。確かに昨日もザリガニに向かって金砕棒を投げつけてましたし?冷静に考えればやってのけるのは自明の理なんだけれども、普通いきなり物を投げつけるか?

「湊さん、今度から投げる前に一言ください。普通に肝が冷えます。と言うか、今の少しずれてたら僕の頭に直撃してましたよ?」

「あ、そう言えばそうですね。山吹さんなら大丈夫と思ったんですけど、確かに危ないですね。次から気を付けます!」

僕の不平に湊さんが朗らかに答えてくる。この人なんかキャラ変わってない?マジで無理させ過ぎた?小さく後悔する僕に気が付くそぶりも見せずに彼女は初めて手にした迷宮の核を眺めている。

「湊さん、ひと段落つきましたし、少し休憩にしましょう。」

地面に腰を下ろした僕に倣って湊さんも腰を下ろす。腰を下ろした彼女を見ながら僕は帰りの道のりを考えていた。一本道の迷宮だったが後ろからの襲撃がなかったのは何故だろう?魅了に誘引された危険生物に背後を突かれても良い様に常に警戒はしていたが終ぞ現れなかった。潰し合いでボロボロになって途中で力尽きたのであればいいが、そうでなければ少し厄介だ。道中で遭遇した蟻共は共食いをした形跡はなかった。つまり神臓喰いはしていない。だが、迷宮の外からやってきたやつらはどうだろうか?最悪の場合、強個体が誘引されて他の危険生物を片っ端から食い殺していた場合だ。恐ろしく凶悪に変異している可能性が出てくる。

「あの、山吹さん?何か問題でもありましたか?」

帰路の障害を考えていた僕に湊さんが声をかけてくる。どうやら険しい顔をしていたらしい。彼女は今日の処は十分経験を積むことができたし、迷宮の核を抜いたことで緊張の糸が切れてしまっている。ありえないミスを犯す前に後ろに下げるべきだろう。僕は努めて明るい表情を作ると彼女に答えた。

「帰り道の事を考えてました。今日は湊さんもお疲れでしょうし、帰りは僕が先行しますね。」

少なくとも一本道の迷宮の入り口から最奥までは掃除してあるのだ。背後から襲われることはないはずだ。入り口から入ってくる危険生物が何であれ、正面から来る事が分かっていれば対処できないことはないだろう。僕はそう判断すると立ち上がり湊さんに追従するように指示を出す。

「リート、鎧だ。」

僕の指示に応えてリートが炎で僕を包み込む。この状態であれば僕の筋力にリートの能力が上乗せされる。強化筋力ほどではないが並の人間よりは膂力がある。何より不意打ちに対しての対応力が違う。生物由来の飛び道具なら着弾前に無力化できるし、金属製の武器でも致命傷は避けられるはずだ。難点があるとすれば僕の動きに同調させるためにリートの神経が僕の動きに集中してしまい索敵能力を失う事だ。だが、今日の様に会敵方向が固定されているのならそれは問題にならない。

「湊さん、行きましょう。折角なので、入り口から迫って来る危険生物の種類を予測してみましょうか?僕はこの辺りなら意外と哺乳類ベースじゃないかと踏んでます。」

「えー、また基礎授業ですかー?」

湊さんが明らかに不平の声を漏らす。彼女にしてみれば迷宮閉鎖の余韻に浸りたいところだろうが、高濃度汚染区域は迷宮の核を抜いたとてすぐには消えないのだ。つまり、危険生物を殺し尽くしていない限り、彼女の会敵率は高い。特に迷宮最奥からの帰還時はより注意が必要だ。

「授業と言うよりはちょっとした遊びですね。普通ならあり得ませんが湊さんの特性は色々な危険生物のバトルロワイヤルを開催できるので。」

まぁ、バトルロワイヤルと言うよりは蠱毒と言った方が良いのだろうが…

何にせよ、予測する。対策を考える。この二つは常に繰り返す必要がある。一人で出来る事には限界があるが、それでも迷宮の肥やしにならない為には最善を積み重ねなければならないのだ。僕の遊び発言に少しやる気が出たのか湊さんが乗ってくる。

「そうですね、私は爬虫類ベースだと思います。あ、そうだ!せっかくだから何か賭けませんか?」

うん。乗りすぎだ。何だか彼女のテンションがバグっている気がする。命の危険に晒されて、落ち着く暇もなく危険生物との泥仕合をさせられて、最後は初めての迷宮閉鎖と嵐のような一日だ。うん。バグるな…

「わかりました。常識の範囲内で好きに決めていいですよ。」

「え?良いんですか?そしたら恥ずかしい秘密の話とかどうですか?」

「湊さん、それ自分が負けた時のこと考えてますか?」


本来ならば迷宮内は静かに進むべきだが魅了による誘引がある以上、静かだろうが五月蠅かろうが会敵することには変わりがない。それならばいっそ適度にリラックスできる方が良いというものだ。

 雑談を重ねながら歩を進めて、湊さんが蟻を石で叩き殺した辺りでようやく賭けの結果が僕たちの前に姿を現した。


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