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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
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空に潰された男

わき腹、腿、肩と三か所に被弾している僕は既に出血で朦朧としていた。混濁した意識の中で何かが警告している。このままではまずいと。

湊さんは僕を担いで走るために金砕棒を捨ててしまったらしい。追いつかれてしまったら彼女は身を守るものがない。いや、追いつかれる前に吹き矢の餌食か。僕は朦朧として混濁した意識を繋ぎとめるために必死で考えを巡らせる。

考えろ。どうすればこの場を切り抜けられる?自分たちにある手札は何だ?僕の持ち歩いていた神臓は落としてしまった。だが彼女はどうだ?昨日いくつか持たせた分があるんじゃぁないのか?換金する時間なんてなかったはずだ。

「湊…さ…きの…渡し…神…僕に…」

「何ですか?山吹さん!どうすればいいんですか!?」

「神臓を…!僕に…!」

僕は動く左手で湊さんのポーチに触れる。


PUM!


四回目の破裂音。湊さんの足元の地面が弾ける。バランスを崩した湊さんが転倒し、僕は投げ出される。だが、手札は僕の手に配られた。投げ出される直前に握りしめた湊さんのポーチの一部とその中身が僕の手の中にある。この中に望むものがなければゲームオーバーだ。中身を確認せずに僕は左手の中のものを口に入れ嚥下する。

その瞬間、右腕からリートが顕現し熱線を放つ。

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!腕が!腕がぁぁぁぁ!」

急所には当たらなかったがリートの熱線は鍵山の左腕を焼き切っていた。鍵山はうずくまって大声をあげている。これで、少なくとも吹き矢の射撃間隔が伸びるはずだ。何より市役所に情報登録されていない遠距離攻撃の能力だ。得体の知れない能力に対して警戒して足が止まらないわけがない。

立ち上がった湊さんが僕を抱えて再び走り出す。もし迷宮があるのならもう少し進めば高濃度汚染地域に入るはずだ。


PUM!


今までよりも長い間隔をあけて五回目の破裂音が鳴る。だが同時に聞こえたのは僕のでも湊さんのものでもない悲鳴だった。


GYAN!


湊さんに飛びつこうとしていた狐が鍵山の吹き矢の射線に入ったのだ。僕は賭けに勝ったことを確信した。湊さんの魅了の効果が強まっている。どうやら汚染濃度の変化に対しては僕よりも湊さんの方が敏感らしい。僕自身も汚染濃度の変化を感じ始めた。後10mも進めば神臓喰い無しでリートが出せるはずだ。そう思った矢先に強烈な加速と浮遊感に襲われる。


PUM!


僕が投げ飛ばされたと気がついたのは六回目の破裂音が響いたのと同時だった。六度目の狙撃に気が付いた湊さんが僕を投げ飛ばしたのだ。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

湊さんが腿を撃ち抜かれて悲鳴を上げる。だが彼女のとっさの機転のお陰で勝利の天秤はこちらに傾いた。僕が地面にたたきつけられて転がっている最中に右腕から炎が吹き上がりリートが顕現する。

「ヤマブキ!」

リートが僕の怪我の状態を察して叫び声をあげると同時に炎の鎧で僕を包み込む。リートの補助により僕は立ち上がると鍵山に向かって炎に包まれた左腕から熱線を連射する。

神臓のリソースが万全ではないためコケ脅し程度の威力だが先ほど腕を焼き切られている鍵山は慌てふためき回避行動をとる。

僕が熱線による制圧射撃を行っている間に湊さんは立ち上がり足を引きずりながらも僕の背後に隠れるように移動する。

湊さんが先行したのを確認して僕も迷宮に向かって制圧射撃を行いながら移動をする。炎の鎧と制圧射撃当然同時に行えるほどの汚染濃度ではない。炎の鎧は右足と左腕だけを残して残りのリソースを制圧射撃に回す。鍵山は制圧射撃により頭を押さえられ追ってこられない。こうして僕らは無事に迷宮にたどり着くことができたのだ。

「あの、山吹さん、私はどうしたら…」

初めて迷宮に足を踏み入れたのに丸腰なのが不安なのか湊さんが恐る恐る言いてくる。「僕の後ろを見張っていてください。この通路は一本道なのであなたの魅了に誘引されてくる危険生物が居てもお互いの背中を守り続ける限り不意打ちを受けることはありませんので。」

 湊さんを中に入れる都合上、今回は事前に迷宮内を焼いていない。つまり外からの鍵山と中からの危険生物により挟み撃ちになる形だ。

鍵山は先ほどの制圧射撃でこちらのことを警戒しているはずだが、迷宮に入ったことで最大出力になった湊さんの魅了に引きずられて必ず迷宮に入ってくるはずだ。

迷宮内で待つこと数分、鍵山が通路に姿を現した。

「湊は俺のものだぁぁぁぁ!」

それが鍵山の最後の言葉だった。そう叫びながら無防備に突っ込んできた影山はリートの熱線で両断された。

「あの、もし私が居なければこんな事には…」

 「関係ありません。迷宮探索者が迷宮で死ぬのは良くある話です。彼は運がなかった。それだけの事です。」

実際の処、湊さんが迷宮探索者にならなければ彼はこんな死に方をしなかったかもしれない。だが、そうなってしまったのだ。仲間の特性が原因で死亡する迷宮探索者は少ないが居ないわけではない。彼の上には運悪く空が落ちてきた。それだけだ。

リートに命じて僕は鍵山の死体を骨も残さず焼き払う。強い念をもって死んだ迷宮探索者がそのまま危険生物になった例を聞いたことがあったからだ。実際、墓地に生まれた迷宮では死体が危険生物化して徘徊していると聞く。それはさておき。

「湊さん、今日はあなたのお陰で命拾いしました。貴女が機転を利かせていなければ、僕たちはここまでたどり着けなかったと思います。」

僕は湊さんに向かって頭を下げる。

「そんな!頭を上げてください!私の方こそ今朝の時点で見捨てられていたらどうなっていたか!」

湊さんが慌てて言い返してくる。

「ヤマブキ、やはりこのメスと番うのですか?」

リートは僕以上にデリカシーがなかった。


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