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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
15/20

狙撃

僕は湊さんの帰りを待つ間に迷宮発生の心当たりがある個所に印をつけた地図を準備していた。迷宮で迎え撃つと決めても相手が追いかけてこなければいつまでも迷宮にこもることになる。二日くらいなら何とかなるがそれ以上はキツイ。つまるところすぐに追跡されても困るが追跡されないのも困るのだ。

わかりやすいように寝台の上に地図を置いて僕たちは迷宮を目指して移動を開始した。

「あの、結局何がどうなっているんですか?」

湊さんは困惑しながらも付いてきてくれている。

「鍵山の魅了が解けていません。しかも暴れた時のままの精神状態だそうです。既に一人死人が出ています。」

「え!?鍵山が殺したんですか?」

「状況的に僕と鳴上はそう判断しました。街中で襲われた場合、鳴上はともかく僕は対処できません。」

「それなら私と一緒に居ない方がいいんじゃ…?」

湊さんが恐る恐る提案してくるが、僕はそれを否定する。

「自分だけのものにするという行為が、どの程度までの事なのか人によって違います。自分の手で殺すことによってそれを成し遂げたとする手合いだった場合、貴女も危険です。」

実際の処、死角の多い街中で彼女が遠距離攻撃に対応できるとは思えない。僕も対応できる自信はない。神臓喰いでリートを出したとしても、鍵山を見つける前に頭を撃ち抜かれては意味がない。だから早急に得意な土俵に移動する必要があるのだ。ランニングのようなペースで走りながら最初の心当たりに向かう僕に湊さんが疑問を投げかける。

「ところで山吹さん、これから向かう迷宮ってどこにあるんですか?」

「わかりません。過去の経験に照らし合わせて迷宮のありそうな場所を虱潰しにするだけです。」

僕の回答に湊さんは目を丸くする。

「おっしゃっている意味が分からないのですが?」

「基本的に経済資源指定される前の迷宮は発見者が閉鎖して良いんですよ。閉鎖出来ない場合は市役所に情報を提出して閉鎖指定か経済資源指定かの判断を仰ぎます。」

「そこじゃなくてですね、ふつうそんなに簡単に見つけられないのでは?って、私は言ってるんです。」

湊さんが至極まっとうな意見を述べてくる。

「迷宮の近くは汚染濃度が濃くなるでしょう?それを手掛かりに探します。」

「汚染濃度の濃さなんてそんな簡単にわかるわけが…あ…!」

「はい。リートが出てきたら迷宮が近くにあります。」

僕はこの方法で迷宮を探して経済資源指定前の迷宮を閉鎖して回っているのだ。昨日の河川敷の迷宮は僕の巡回経路に入っていなかったので気が付かなかったが、ここ数年は経済資源指定迷宮は増えていない。そのせいで風間さんからは閉鎖し過ぎだと小言を言われたりもしたが…新しく担当になった渋谷さんはどうだろうか?まぁ、そんな事はどうでも良い。

「湊さんも似たような感じで探せるはずです。貴女の魅了が汚染濃度の影響を受けるのは、ほぼ間違いありません。ですから、その強弱で判別がつきます。」

「僕らには必要ありませんが、神臓のリソースを消費するタイプの特性を使い続けて回復速度の変化で探す方法もあります。慣れが必要なうえにリソース回復中は正常化機能が停止するのでやりたがる人は少ないですね。」

そんなことを話しながら走り続けて最初の候補地に到達する。リートは顕現しない。つまり外れだ。小屋を出てからおよそ一時間経つ。早ければすでにあの地図を見てこちらの追跡を始めているはずだ。

「湊さん、ここははずれです。次の場所に向かいます。」

「あの、今更こんな事を言うのもアレなんですが、警察に行くのはダメだったんですか?」

そうか、そのことをちゃんと説明していなかった。

「精神操作系の特性持ちは内容次第で即逮捕なんですよ。貴女の場合は間違いなく逮捕案件です。鍵山の事を説明するためには特性の話は避けられないので牢屋暮らしになってもいいのであればその選択肢もありですね。」

「そんな…!」

「貴女が迷宮探索者にならなければ、人気のある女性だな、で済んだのですが、今となっては後の祭りです。」

あえて伏せてはいるが特性を理由に逮捕された場合、釈放されることは2度とない。収監された数日後には処理されるはずだ。なので今回の件も鍵山が精神に異常をきたして暴走しているって話にする必要がある。あとは、居住区の人たちの証言が頼みだ。鍵山と僕の素行の差で何とか警察官を丸め込まなければならない。

兎にも角にもまずは迷宮に入らねば生き残りも怪しい。僕は湊さんを急かして次の候補地へ向かう。


PUM!


そろそろ第二の候補地付近まで来たところで小さな破裂音が背後から聞こえると同時に僕の右脇腹に激痛が走る。

「っっっってぇぇ!」

思わず僕は叫び声をあげてしまう。鍵山に追いつかれたのだ。特性により吹き矢で破裂音がする程の空気を吹き出せる肺活量。飛ばしてくるのもダートではなくブリットだ。

撃たれた個所を手で押さえながらなんとか走り続けるが狙撃はそこで終わらなかった。


PUM!


二回目の破裂音。弾は僕の右の腿に着弾する。足に着弾した衝撃で僕は転倒してしまう。わき腹や足が残っているところを見ると数十メートル先から撃ってきているのかもしれない。だが動きを止めてしまえば次はもっと致命的な場所に撃ち込んでくるはずだ。僕は死を覚悟する。


PUM!


三回目の破裂音。だが弾は僕の頭ではなく右肩に着弾した。

「山吹さん!しっかりしてください!」

弾が当たる前に湊さんに担ぎ上げられたおかげで僕は九死に一生を得ていた。僕が倒れた瞬間に動き出していてくれたのだろう。そうでなければ間に合うはずがない。

「ありがとうございます。助かりました。」

僕を担いで走る湊さんに礼を言いながら現状を打破するためにストックの神臓を取り出そうとしてポーチがないことに気が付く。どうやら最初の一撃でベルトが切れていたらしい。いよいよ後がなくなってきた。

あと100mも進めば第二の候補地に着く。ここで迷宮がなければ僕も湊さんもゲームオーバーだ。


「みぃぃなぁぁぁとぉぉぉぉ!」


鍵山の叫び声があたりに響く。


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