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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
14/20

不安の種程よく芽吹く

翌日、僕は子供たちを起こさないように静かに起き上がると村上さんに挨拶をしてから孤児院を後にした。

日が昇ったばかりの居住区は人通りもまばらで慌ただしさはない。もう少し経てば仕事に出かける人達で溢れ返るだろう。僕は湊さんと合流するために自分の小屋へ向かう。まだ少し早い時間だが起きているだろうか?そんなことを考えていると浄水器から水を汲んでいる湊さんに行き会った。

「おはようございます。今から迎えに行くところでした。」

挨拶をした僕に気が付くと、湊さんは気まずそうに挨拶をかえしてくる。

「おはようございます。あの、出来れば少し離れていていただけると…」

はて?僕は又何か失礼を働いただろうか?僕は数秒思案してから思い切って聞いてみた。

「あ、僕何か失礼を働きましたでしょうか?」

こういう時はストレートに確認して謝罪するに限る。

「いえ、そういうわけではなくてですね…その…昨日、公衆浴場にいけなかったものですから…」

それを聞いた僕は自分の失敗に気が付いた。確かに、彼女に浴場の場所を案内していない。

「えーと。ご迷惑でなければ今からご案内しますが…いかがでしょう?」

「あー…よろしくお願いします…」

提案を受け入れた湊さんを連れて僕は公衆浴場へと向かう。夏も終わりかけ、まだまだ暑いとはいえ、湯に使った方が気持ちはリラックスできる。

僕は、小屋で待っている旨を湊さんに伝えて、浴場の前で解散した。日も高くなり始めて露店も営業を始めている。労働者向けに弁当を売っている露店を見つけた。せっかくだし朝食でも買って帰るか。焼いた塩漬け肉を挟んだパンを一つ買って小屋に向かう。

小屋に着くとそこには先客がいた。

「遅かったな!昨夜はお楽しみか?」

あって早々鳴上が軽口をたたく。

「馬鹿な事言ってないでっさっさと用件を言え。後、湊さんがいるときに今みたいな事言うなよ?」

「はっはっはっ!当たり前だろ!湊が居たらもっと別のからかい方をするさ。」

「もういい。用件は?」

「例の暴れた男が居なくなった。名前は…何だったかな…?そうだ。鍵山だ。」

鳴上はさらりと嫌なことを伝えてくる。

「いなくなったのは何時だ?お前の電撃で神経焼いたなら少なくともここいらの汚染濃度なら数日は回復しないはずだ。」

僕の問いかけに鳴上はバツが悪そうに頬を掻きながら答える。

「居なくなったのは今朝だ。ぶつぶつ呟きながら共同宿舎を出るところを見た奴がいる。どうも『高速再生』持ちだったらしい。」

くそ!どいつもこいつも良い特性を持っていて嫌になる!僕は大事なことを確認する。

「ここまで着けられている可能性は?」

「少なくとも俺の近くの範囲には居ないな。多分着けられてはいないはずだ。」

鳴上は30m以内であれば生物の位置を把握できる特性を持っている。仮に鍵山が五感をかく乱する特性を持っていたとしても鳴上の30m以内に入ればわかるはずだ。その彼が着けられていないと言うのであれば恐らくそうなのだろう。

鍵山が湊さんに魅了されたままだと仮定するとちょっとまずい。間違いなく僕か湊さんが襲われる。

「鍵山の得物は?」

「吹き矢だ…」

「は?何だそれ?」

「吹き矢を知らんのか?吹き矢ってのは」

「違うそうじゃない!そんな武器で迷宮に挑むってことは高速再生以外の特性を持っているってことだろ?」

僕は鳴上のボケを食い気味で潰して必要な情報を問いただす。

「なんかやたら肺活量があるらしい。チーム組む時に実演させたが10m先の固定してない石に当てて撃ち砕いてたから後衛だったら十分な火力だ。」

なるほど前衛に湊さんをタンクとして置いて後ろからの狙撃でアタッカーを務める腹だったのか。10mでその威力なら僕が相手なら50mはなれても向こうに分があるな。居住区で会敵したら間違いなく殺される。やりあう心算なら迷宮で迎え撃つ必要があるが残念なことに最寄りの迷宮は昨日閉鎖してしまった。新しい迷宮を探す必要がある。幸い迷宮自体は頻繁に発生しているので運が良ければすぐに見つかるはずだ。

「鍵山の挙動を見る限り湊さんの魅了は多少の時間経過では解けないっぽいな。」

「いや、その事なんだが…」

「何かわかったことがあるのか?」

鳴上が口ごもりながら最悪な状況を上塗りしてくる。

「魅了が一度深いところまで行ったら、多分解除されない。昨日殴り倒されて昏倒した方の奴な、今朝胸にナイフ突き立てられて死んでた。」

「なんで最初にその話をしない!」

僕は大声で鳴上に抗議する。鍵山は間違いなく湊さんの関係者を殺して回ろうとしている。次のターゲットはおそらく鳴上か僕だ。鳴上が湊さんと僕をチームアップした話は多分耳ざとい奴なら知っているだろうし、狛江市の一件もある。

まずいまずいまずい。鳴上なら街中でも鍵山を返り討ちに出来るだろうが僕や湊さんはそうも行かない。早急に迷宮に潜る必要がある。僕は頭の中で調布市内の迷宮が発生しそうなエリアを考える。一度迷宮が閉鎖された場所は経験則だが2週間は迷宮が発生しない。とりあえず心当たりを近場から虱潰しに行くしかない。

「鳴上、湊さんが戻る前にここから離れてくれ。多分あと数時間でここもバレると思う。」

「お前はどうする?」

「湊さんが戻ったら迷宮に潜る。運が良ければ鍵山に追いつかれる前に高濃度汚染区域に入れるはずだ。リートが出せれば何とかなる。」

僕は鳴上を送り出すと、先ほど買った朝食を急いで食べる。湊さんを公衆浴場まで迎えに行くか?いや、入れ違いになったら目も当てられない。人を待つときは約束の場所を動かないのが鉄則だ。

20分もたったころ、ようやく湊さんが小屋に戻ってきた。

「湊さん、戻って早々、申し訳ありませんが今から迷宮に潜ります。急いで支度をお願いします。」

「え?閉鎖指定迷宮攻略の依頼があったんですか?」

湊さんが驚いて聞き返してくる。

「いえ、依頼はありませんが緊急事態ですので。事情は道中で説明します。とにかく急いでください。」


僕に急かされた湊さんは40秒で支度をしてくれた


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