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山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
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狛江の癒し手と蠱惑の香り

評価、ブックマークありがとうございます。

大変励みになります。

ザリガニ討伐の証明として神臓を狛江市役所に提出すると即座に報酬の話になった。調布組はそれぞれ理由をつけて辞退。鳴上と湊さんは僕から報酬が出る為、僕は今回の討伐が緊急案件になってしまった事の引責として。

今回の緊急討伐では市内に駐留していた中級探索者が少なかったこともあり下級探索者の中から正面戦闘に長けたチームが選抜されたそうだが無核生物に関しては想定していなかったらしい。結果、迷宮探索者が2名死亡、1名が片腕を喪失することになった。

下級ランクの探索者の死亡は珍しい話ではないが、珍しくないからと言って死んでいいわけではない。僕が我が身可愛さに奥の手を出し渋らなければ二人は死ぬこともなかったはずだ。

そんなことを考えていたら治療を終えた猪田が現れてこちらに右手を振っていた。

「お、無事だったみたいだな。あんたが人間性を削ってくれたおかげでこっちも何とかなったよ。大枚叩く事にはなったけどな。」

再生された右腕を叩きながら猪田が笑う。チームがほぼ全滅したというのに落ち込んでいる様子はあまりない。空元気かもしれないが。

「狛江市には他人の身体欠損を治せる人材がいるんですね。」

僕は彼の空元気に付き合う事にした。実際、そんな人材がいるならお近づきになっておきたいと言う下心もある。

「Dランクの雨木さんて言うんだが、『他者修復』の特性があることが分かってから、もっぱら市役所に常駐して治療で稼いでいる人がいる。」

なるほど、死にさえしなければ金次第で万全の状態に戻れるわけか。狛江市の迷宮探索者の離職率が下がったという噂は本当だった。

「その、雨木さんは市外の人間でも治療依頼を受けてくれるんですかね?」

僕の問いかけには風間さんが答えてくれた。

「必要な金額さえ払えば受けてくれるはずです。ただ、猪田さんの様に欠損した部位を再生させるには24時間以内に施術する必要があるそうですが。」

「時間制限があるんですか?」

「なんでも、欠損がある状態を標準状態だと肉体が認識してしまうと修復できないそうです。」

その答えを聞いた僕は鳴上に目をやる。案の定、期待に満ちた目をしていた。

「鳴上、無茶なスカウトはやめろよ。必要ならここまでくればいいんだから下手なことして不興を買うなよ。」

僕は鳴上に釘を刺す。鳴上はいい奴だがたびたび暴走する。

 「む。それもそうか。」

僕の警告に鳴上が同意する。

その後いくらか情報交換をして僕たち調布組は連れ立って調布市に戻ることになった。

「ところで鳴上、湊さんの特性はどういった経緯で発覚したんだ?まだ詳細は聞いてないぞ。それに、発覚の経緯が分かれば特性への理解もより深まるし確認させてくれ。」

調布への帰路で僕は鳴上に問う。湊さんに聞かないのはより客観的な情報を得るためだ。

「いや、湊を含めたFランク3人を引き連れて経済資源指定迷宮に潜ろうとしたんだが、そのうちの一人が急に、湊は俺のものだー!って、感じで暴れだしてな。」

「もう一人は暴れなかったのか?」

僕は状況更に問う。

「不意打ちで殴られて昏倒しちまったんでもう一人がどんな感じだったのかはわからん。とりあえず暴れた方は電撃喰らわせて無力化したんだが。」

話を整理すると、どうも暴れた男は湊さんと前職で関係があったらしい。で、4人でただ雑談をしていただけなのにいきなり暴れだしたと。うーん。人によって効果に差があるな。

少なくとも鳴上には精神汚染耐性はない。故に湊さんの魅了に対しては暴れた男と条件が変わらないはずだ。方や発狂して、方や素面、能力の効き方に差があるのは何故だ?

迷宮までの道のりで僕が確認した範囲では、汚染濃度で強弱があること、生物なら無差別に効果があること、本人の意思によらず常に発動していること、これは検査の結果とも一致するのでほぼ確定で間違いない。わからないことは当事者に聞いてみるのが良いと考えて湊さんに声をかける。

「暴れた人って湊さんとどういう関係?」

僕の問いに湊さんは答えにくそうに口を開く。

「前職の知り合いで、彼に誘われて迷宮探索者になりました。後は…」

「後は?」

口ごもる湊さんに僕は続きを促す。

 「迷宮探索者になって以降、事有る毎に口説かれていました…」

 なるほど、言いにくいわけだ。でも、なんとなく見えてきた。

 「多分だけど、対象者の湊さんへの好感度も関係ありそうだな。鳴上は多分湊さんのことを何とも思ってないから効果が出るのが遅くて、暴れた奴は湊さんのことが好きだったからより深く早く魅了された。」

 「はははは!それならつじつまが合うな!」

鳴上がゲラゲラと笑いながら同意してくる。

 「後はどうやって相手の精神に干渉しているかが分かれば制御の目が出てくるな。」

僕は鳴上の言葉に検証結果の共有を再開する。視線や声音ではない事。恐らくフェロモンか吐息のようなものであること。

「吐息の類なら湊にマスクでもさせれば制御できそうだが、試してダメだった時が怖いな。」

鳴上が至極もっともなことを口にする。だが、ここまでの検証と考察でも確実にわかったことがある。それは当初の予想通り、どう転んでも彼女はソロでしか迷宮探索ができないという事だ。残る問題は一度魅了の影響下に入った者のその後だ。魅了は解けるのか否か?

解けた場合でも、再度魅了にかかる場合はかかりやすくなるのか?等々、考え出すときりがない。そこまで考えて僕は口を開く。

「これ、湊さんと暴れた男はもう会わせない方がいいなぁ…」

「俺も同意見だ。」

鳴上も同意してくれる。

「あの、私は今、市役所の共同宿舎に住まわせてもらっているのですけど…」

「あー。まじかー」

僕と鳴上は同時に嘆きの声を上げてしまった。


結局ろくなアイデアも出せぬまま、僕らは彼女の新しい住居を探すことになった。


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